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杯の召喚士  作者: 遥那智
第1章
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第4話 想いを繋ぐ腕輪

 ──この子が幸せになりますように。この子の生きる未来が愛に満ちていますように。

 ベッドの傍らで、うつ伏せて寝ている娘の頭を撫でながら、その女性は静かに、強く願った。

 窓から差し込む金色の満月の光が、優しく2人を照らしている。

 真冬の冷たい水に我慢しながら、何度もタオルを取り替えてくれていたのだろう、赤く、荒れてしまった娘の手を取り、自分の頬に当てた。

 自分がこの子にしてあげられる事は何か。病魔に抗いながら、ずっと考えていた。

 ──このまま命の灯が消えるのを待つくらいなら

 サファイアを思わせる美しい碧眼は、ある決心を受け、強い光を帯びた。

 月光を受け、自分の手首で淡く光る腕輪と、娘の手首にある腕輪が軽くぶつかる。

 対となっている繊細な作りの2つの腕輪は、ぶつかり合うとシャラン、と心地よく小さく鳴った。

 

 ──2つの腕輪に全ての魔力と愛を。

 どうか最後まで、この子を守り、導く事ができますよう──


 切なる母の願いを聞き届けたかのように、金色の満月が、少しだけ瞬いたような気がした。


***

 

 ゴツゴツして寝辛い──背中に感じる硬い感触に、ロティはやっと目を覚ました。

 仰向けの視界には、荒々しく削られた岩の天井がぼんやり映しだされる。

 「ここは……」

 その体勢のまま、ゆっくり頭を横に動かす。

 辺りは薄暗くはっきりとは見えないが、岩壁に囲まれた無骨な作りの空間のようだ。部屋というよりは牢獄のそれに近い。

 まだ覚めきっていない頭でそこまで考えた所で、ようやく思い出した。

 自分は盗賊達に捕まったのだ。

 「またやっちゃった……」

 手伝うつもりが逆に足手まといになる、これはロティの得意技である。

 村でも、羊追いを手伝った時は羊と一緒に行方不明になったし、ハーブ煎じを手伝った時はいろんなハーブを混ぜ込み、笑いが止まらなくなるという謎の薬効を生み出したりした。(今でもそのレシピは誰も再現できないらしい)

 1つの事に集中し過ぎてしまう性質なのだ。

 村人は皆、明るく素直なロティを大切にしてくれ、どれだけ失敗しても微笑ましく見守ってくれていたのだが、今回は羊追いやハーブのようには行かない。

 とにかく現状を把握して逃げ出さなくては──強引に同行させてもらっただけに、リノに申し訳ない。

 ゆっくり起き上がってみると、視線の先に、ぼんやりと蝋燭の灯が見えた。心許ない明かりが、チラチラと鉄格子の影を浮かび上がらせている。

 鉄格子の向こう側には、粗末な木の椅子に腰掛けた、見張りであろう筋骨隆々の盗賊がうとうととしていた。その隣には、短い石段と重そうな木の扉が見える。

 地下牢なのか、出入りができそうな場所と言えば、後は天井付近に格子入りの明り取り窓が1つあるくらいだ。


 と、一通り牢の中を見回した所で、ロティは背後に気配を感じ、恐る恐る振り向いた。

 部屋の隅の暗闇に目を凝らすと、程なくその気配はゆっくりと姿を現した。先程の精霊獣である。

 体を強張らせ身構えたが、どうやら襲うつもりはないらしく、刺すような殺気は感じられない。

 先程とはその様相も違い、身を守る紅蓮の炎は消え、その美しい緋色の毛並みが輝いていた。

 精霊獣はロティに興味が無いかのように、数歩進むとその場にうつぶせて寝た。体は大きいものの、その仕草は普通の犬と変わらないように思え、少しだけ安心する。

 と同時に、ある疑問がわきあがった。

 「あなたはどうしてずっとここにいられるの?」

 その問いに、精霊獣は少しだけ耳をピクリと動かし、顔を上げた。

 いくら人並み外れた魔力を持つ召喚士でも、精霊獣を絶えず召喚しておくことはできない。魔力が尽きれば、精霊獣は元居た世界に還ってしまうからだ。

 このボルケイノハウンドは下級精霊獣ではあるが、それでもそう長くは召喚していられないはずである。

 「あれ……」

 不意に、全身から力が抜けるような奇妙な感覚が、足元から這い上がってきた。

 反射的に足元に目を凝らすと、そこには牢の石床全体を覆うように、大きな魔法陣が描かれていた。

 おぼろに赤黒く発光するその魔法陣の中心に精霊獣が寝ており、魔法陣が鈍く瞬く度に、足元がすくわれるかのように力が抜けるのである。

 たまらずロティはその場に座り込んだ。そういえば、目覚めた時から体がだるい。

 硬い床の上で寝ていたせいだろうと大して気にも留めていなかったが、そうではないようだ。

 恐らく、この精霊獣が魔力を喰らっているのだろう──

 しかし不思議と恐怖感はなかった。それは、こちらを静かに見つめる精霊獣の赤い目から、敵意が感じられないからだ。それどころか、その表情はとても寂しげに見える。

 その視線を受け、ロティは「ある事」に気付いた。


 「まだ終わっていないのですか」

 鉄格子の向こうで、重そうな扉が荒々しく開いた。廃村で会ったローブ姿の盗賊は、地下牢に続く石段を降りながら、苛立ちを露にした口調でそう言った。

 その手に持たれたランタンの明るい光が、無遠慮に牢の奥のロティを照らす。

 「あなたはさっきの……」

 ロティは若干ふらつきながら立ち上がると、鉄格子の側まで行き、ローブの男を睨んだ。

 そろそろ魔力の抽出も終わった頃だろうと様子を見に来たのだが、当てが外れた。生意気にこちらを睨みつける、希望を捨てていないその眼差しに、男は更に不快そうに舌打ちする。

 「さっきのあの騎士を当てにしているんだったら無駄ですよ。お前も見たでしょう、あの騎士はそこの精霊獣に手も足も出なかった。大体、我々崇高なる召喚士の前に敵など──」

 「嘘です、あなた達は召喚士さんなんかじゃありません!」

 自慢げに語っていたローブの男は、ロティの言葉に驚いたように目を見開いた。

 「魔力で無理やり精霊獣さんをつなぎとめているだけです!こんなひどい事しないで還してあげてくださいっ!」

 後ろに控えていた盗賊達もざわつき始める。

 召喚士は貴重な存在であるだけに、多くの人間はその戦い方や性質を知らない。故に、単純に精霊獣を従えたその人間を召喚士と思い込むものだ。

 そして勝手に恐れ、我先にと逃げて行く。得体も底も知れない相手だ、敵に回したらこれ程恐ろしい存在は無いからである。

 現に先に捕らえた精霊士達は、抗っても無駄だと最初から諦め、震えながらただ魔力を喰われた。

 なのにこの娘はなんだ。

 何故すぐに召喚士ではないと気付いた?何故精霊獣を恐れない?

 「頭目、そろそろ」

 後ろに控えていた盗賊の一人が、ローブの男──頭目にそう言った。

 頭目は忌々しそうな目でロティに一瞥をくれると「しっかり見張っておけ」とだけ見張りに言い、不愉快極まりないという顔で去っていった。

 待って、と鉄格子の間から伸ばされたロティの手は、空しく空を切る。

 「気味の悪いガキだ」

 見張りの男のその言葉を最後に、辺りはまた静寂に包まれた。


 ロティは牢の奥に戻ると、いつの間にかきちんと座りなおしてこちらを見ている精霊獣の前に正座した。

 相変わらず力が抜けていく感覚はあるが、我慢できない程ではない。精霊獣が魔力を奪うことを躊躇っているようにも感じられた。

 ゆっくりとその体に触れ、優しく撫でてみる。

 嫌がる様子がないのを確認すると、呪印の施された首元にそっと抱きついた。ふわり、とその柔らかい赤毛が頬をくすぐる。 

 その動きに合わせ、ロティの手首にはめられた2つの腕輪が、シャラン、と繊細な音を紡いだ。

 結婚指輪代わりにと、父が母のために大奮発して用意した、お揃いの魔法の腕輪。

 ほぼ全財産をつぎ込んだらしく、当面の生活費をどうするの、とこっぴどく母に叱られたらしいのだが、陽気で真っ直ぐな父らしい行動だと、幼心に思ったのだった。

 父亡き後は、母とロティがそれぞれ身に付けていたが、今は二つともロティの手首に納まっている。

 「一人ぼっちは、さみしいですよね……」

 この精霊獣はあの精霊士達に縛られ、自由に動くことも、仲間の所に還ることもできないのだ。そして、差し出された魔力を喰らうしか、生きる術が無い。

 「……決めましたっ」

 ロティはがばっとその首から顔を離すと、精霊獣の目を真っ直ぐに見つめて言った。

 「一緒に逃げましょう!」

 精霊獣は驚いたようにロティを見つめていたが、小さく「くぅ」と鳴くと、ロティの頬に頭を擦り付けた。ふわふわと頬にあたる毛がくすぐったくて、クスリ、と笑う。

 そうと決まったらと、ロティは小さく呟きながら、おもむろに床に描かれた魔法陣の一角を手でゴシゴシとこすり始めた。特殊なインクで描かれたそれは、当然の如く全く消える気配がない。

 「魔法を使えたらいいんですけど……」

 どんな魔法も、それを行使するためには魔法陣が必要となる。精霊士はこの作業を省略するためにロッドを使うのだが、当然そんな便利道具を捕らえた精霊士に持たせておくはずはない。

 床や壁を見ても魔法陣を描けそうな場所や道具は見当たらなかった。

 こっそりと、見張りがいる鉄格子の向こうに視線を送る。

 見張りの足元の地面は牢の石床とは違い、少し湿った土間のようになっている。あそこなら簡単な魔法陣くらいは描けるかもしれない。

 問題はどうやって鉄格子の向こうに行くか、なのだが。

 そういえばアリアスが言っていた。リノがどうしても同行を許さなかったら、最終手段は「色仕掛け」がいいと。世の男性にはこれが一番効くらしい。

 しかしまだ恋も知らないような少女に、具体的な色仕掛けの方法などわかるはずもない。

 「い、いろじかけってどうやるんでしょうね……?」

 困り顔で精霊獣に問いかけてみたが、聞かれた精霊獣も困ったように首を傾げる。

 ──色仕掛け……おいろけ……せくしー……そっか、アナベラさんの真似をしてみましょう!

 クラベル村一のセクシー美人と評判だった女性の姿を懸命に思い出してみる。

 ぼんきゅっぼんで、ふわっとしていて、くねくねしていたような……。

 「盗賊さん、盗賊さんっ」

 つつつ、と鉄格子の前に寄り、モノは試しと記憶を頼りに、手を腰に当てくねくねっと動いてみた。

 「う、うふーん、うふーん」

 「…………?」

 が、見張りの男は怪訝そうな顔でこちらを見返している。

 「……なんだ?腹でもいてーのか?」

 その言葉に、ロティはっと我に返った。

 よく考えたら、別に色仕掛けでなくてもいいのだ。というよりまずは仮病を思いつきそうなものだが、アリアスの入れ知恵のせいで考えが及ばなかったようだ。

 「そ、そうです!う、うぅぅぅーん、おなかがいたいですぅ~」

 急遽作戦変更である。

 「めんどくせーガキだな、あっち向いててやるからさっさとそこで済ませろよ」

 「な、ななな、なんてこと言うんですか!!そんなことさせたら化けて出ますよっ!!」

 ロティは顔を真っ赤にして怒鳴ったが、盗賊は「ガキが化けて出たって怖かねーわ」と鼻でせせら笑った。

 「そ、それじゃ一生女の人にモテない呪いをかけますぅっ……!!」

 「なにっ!?」

 そんな事ができるのかは知らないが、相手が魔力潤沢な精霊士だけに妙な説得力がある。

 男はめんどくさそうに頭を掻きながら椅子から立ち上がると、腰の鍵をとり、格子を開けた。

 「おら、手を後ろに組め!厠につれてってやるから!」

 縄で自分の手が縛られ始めたのを確認すると、ロティは死角となる足元に、こっそりとつま先で円を書き始めた。気を逸らすために適当な話題を振ってみる。

 「あの!頭目さん、はどこに行ったんでしょうかっ」

 男は「お前が知る必要はねーよ」と一旦は軽くあしらったものの、退屈だったのか「……まあもうじきあいつらと同じになるからいいか」と呟き、得意げに話し始めた。

 あいつら、とは恐らく先に捕まった精霊士達のことだろう。そう言えばこの牢にはいないが、魔力を喰われた後に始末されてしまったのだろうか。

 「今回はでかい街を襲うからな、しっかり下調べに行ってんだろ。あのお方から精霊獣を預かってからは破竹の勢いってやつだ。

 お前らの魔力を喰って精霊獣の力もついてきたし、このままいきゃー王都落とすのも夢じゃねぇ。俺達の時代の始まりだ」

 男は上機嫌でそう言う。

 「あのお方……?」

 とは、一体誰のことだろう。頭目より上の人間がいるのだろうか。

 しかし男は喋り過ぎたと気付いたのか、顔をしかめ、ロティの問いには答えなかった。

 何はともあれ、今このアジトに頭目はいないらしい。襲われた時と先程の顔ぶれを見るに、精霊獣を操ることができるのは「頭目」と呼ばれる精霊士と、もう1人の精霊士だけのようだ。

 やはりチャンスは今しかない。

 「わかったらさっさとクソして喰われちまえ……」

 ぷるぷると足がつりそうになりながらも、懸命につま先を伸ばし、細かい箇所を描く。

 あと少し──

 「!!お前何してやがる!!」

 手を縛られたところで、とうとう足元の魔法陣に気付かれた。ロティは慌てて体当たりしたが、男は不意をつかれほんの少しあとずさった程度だ。すぐにそのいかつい腕を勢いよくロティに伸ばす。

 「グゥルルルル……」

 そこへ、敵意を剥き出しにした精霊獣の低い唸り声が響いた。

 「な、なんだよ……っ!」

 男はその殺気に硬直する。魔法陣がある限り、精霊獣は自分達に危害を加えることはできないと聞いているが、やはりいざ対峙すると恐怖で身がすくむらしい。

 ロティはその瞬間を見逃さず、素早く呪文を唱えた。

 「炎の精霊さん、力を貸してください!──フレイムバレット!!」

 心許ない魔法陣に赤い光が滲み、1つの小さな火の玉が勢いよく飛び出した。

 ──お願い、うまく当たって……!

 その火の玉は男のすぐ横をかすめ、ドンッという鈍い音を立てながら牢の床に着弾した。

 辺りは小さく振動したが、少し焦げた小さな穴を床に開けただけで、魔法は収束してしまった。

 ロティの足元の魔法陣も、発動の衝撃でかすれ、もう使い物にならない。

 「はんっ、悪あがきはそれでおわりか?お粗末なもんだな!」

 男はロティの決死の一撃を避けると、ニヤリと笑った。さすがにその音に扉の外の盗賊も気付いたのか、大勢の足音がこちらに向かっている。

 万事休すか──

 しかしその瞬間、男の後ろで、精霊獣は激しい咆哮を発した。空気を震わし、突き刺すような気迫と殺気を放ちながら、その体がみるみる紅蓮の炎に包まれていく。

 「やりました!」

 ロティの狙いは最初から牢の魔法陣だった。その一角を壊し、効力を無効化させるつもりだったのだ。それは同時に精霊獣への魔力の供給を断ってしまう結果にもなるが、このまま悪用されるのを黙って見ているわけにはいかない。

 まずは精霊獣を自由にして一緒にこの場から逃げる、それが最善の策だと思った。


 精霊獣は前足を2、3回掻き、助走を着けるようなポーズを取ると、天井の明かり取りの窓に向かって飛んだ。

 その素早い動きはロティから見ると一筋の赤い光にしか見えなかったのだが、次の瞬間には派手な音を轟かし、頑丈な岩壁がまるで脆い土壁かのように簡単に崩れ去った。

 その大きな穴からは、青から黒へ、美しいグラデーションを描いている空が見える。薄っすら輝き始めた星が、夜の訪れを教えてくれた。

 どうやら捕らえられて半日程を、この地下牢で過ごしていたようだ。

 精霊獣は呆然と立ち尽くす男を容易く壁に突き飛ばすと、ロティの後ろに回りこみ、その襟首をくわえた。

 それとほぼ同時に仲間の盗賊達が、扉を蹴破るように勢いよく地下になだれ込んで来たのだが、自由に動いている精霊獣を見て、恐怖で誰一人身動きできずにいた。

 「あ、あの、できれば背中とかに乗せていただけませ……」

 ロティは恐る恐る頼んでみたが、贅沢を言っている場合ではない。

 精霊獣は小さく唸り盗賊達を威嚇すると、ロティをくわえたまま、軽やかにその穴から夕闇迫る外へ飛び出した。

 「ひゃああぁぁ……っ」

 「は、早く頭目を呼び戻せ!!」

 一人が我に返りそう叫ぶと、辺りは盗賊達の怒号で一気に騒がしくなった。



 「召喚士は出て行ったか」

 同じ頃、リノはロティが囚われている館の外で様子を伺っていた。渡された地図を見た時から、この捨てられた領主の館がアジトだろうという確信はあったが、案の定だ。

 とは言え、ロティは囚われ、しかも相手が召喚士である以上、おいそれと踏み込む訳にはいかない。

 「まだ無事だといいが……」

 これまで様々な任務をこなしてきたが、こんな失態は初めてだ。

 相手が召喚士という不測の事態であったとは言え、どんな状況でも臨機応変に対処し任務を遂行する自信はあった。

 しかし、どうもロティがいると調子が狂う。

 やはりパートナーなどいらない──そう決意も新たにした所で、激しい爆発音のような轟音が辺りに響き渡った。

 入り口の見張りも松明を片手に、うろたえながら音の出所を探している。

 リノは音を頼りに、いち早く館の裏手に回った。

 「ロティ!!」

 そこには、朝と同じくロティをくわえ、こちらに向かって駆けて来る精霊獣の姿があった。

 反射的に腰の剣に手を伸ばす。

 「リノさぁーーーーーん!!私は大丈夫ですからこの子を傷つけないでくださいーーー!!」

 「どこが大丈夫なんだ……?」

 リノからすれば、連れ去られた時となんら状況が変わらないように見えるのだから、無理もない。

 しかしおとなしくロティを下ろす精霊獣の様子を見て、静かに剣から手を離した。

 変わらず凄まじい殺気を纏ってはいるが、それがロティや自分に向けられているものではないと気付いたからである。

 短剣でロティの縄を切りながら、その元気な様子にほっと胸をなでおろす。その表情を覗き込むと緊迫した状況にも関わらず、何故かロティはにこにこしていた。

 「……なんだ?」

 「リノさん、やっとロティって呼んでくださいましたっ」

 イラッ。

 リノは能天気娘のこめかみを両手でぐりぐりしながら「とにかく何があったのか説明してくれ」と、やり場のない怒りを抑えながら、低い声で言った。


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