表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
道標の黒星  作者: 州兵
2/3

第一話・渇望の黒星





「お前は・・・生物でいいのか?」


黒いローブの少年が尋ねた

少しずつ後ずさりして、俺から距離をとる



「俺は黒星 透。

 元人間の幽霊、だったんだが・・・」



右手を目前に挙げる


相変わらず、何度確認しても銀色に光る金属




ヨーロッパの騎士の甲冑




生きているかどうか確認されるのも無理は無い


甲冑に取り憑いたのはわかる


だがどうして声が出るのか


オカルト映画や漫画にありがちなテレパシーでもない


生前から親しみのある、自分自身の肉声だった



一体この甲冑の何処から声が出ているのやら

そしてここは何処で、彼らは何者なのやら・・・




「幽霊、アンデットの類か

 ならば生物と分類してもよかろう、なぁクリストフ殿?」



初老の男がクリストフ殿と呼ばれた青年の肩を叩いた

どうやら三人の中で一番立場が上らしい

クリストフ殿の目が媚びた色を見せる



「・・・え、えぇ、そのとおりですな

 一時は魔力の暴走により、どうなることかと心配しました」


一瞬、憎々しげに少年を睨んだがすぐに俺を見る


何故か気に入られたようだ

新しいおもちゃを前にした子供のような、そんなキラキラとした輝く目で見つめられる

いやだこのひとこわい



「うむ。無事に召喚できて何よりだ

 ジル、ジルベール・キャストライトよ、君は課題に無事合格した

 おめでとう、奨学金停止処分は取り消された。」



「ありがとうございます副学長!

 二度とあのような問題を起こさないよう精進致します」



ジルベール君が副学長と握手する

それをまた苛立たしげに睨むクリストフ殿

この三人の力関係、友好関係が丸分かりだった



「さて、異界の生物くん・・・クローボッシュ・・・だったかね?」



欧米風の名前から推測するに、日本の名前は発音し辛いようだ

何度か小声で俺の名前を発音しようとがんばる副学長

敬老精神溢れる俺からすれば、おじいちゃん、無理しないでねと声をかけたいところだ



「クロボシです、言い難いのでしたらトールと呼んでください副学長」



お辞儀は通用しなさそうなので、右手で握手する

ついでにさっきからキラキラしっぱなしなクリストフ殿にも握手



「よろしく、クリストフ殿」



「お、おぉおおぉ!?

 よ、よろしく頼みます銀幽の騎士トールよ!」



ギンユウ?


首を傾げそうになるが兜が重くて動かせなかった

聞き返すにもクリストフ殿は興奮気味に副学長に話しかけている



ふと視線を感じて横を見るとジルベール君がこちらを睨んでいる

どうやら嫌いなクリストフ殿と先に握手したのが嫌なようだ



「よろしく

 ・・・色々と説明してもらっても、いいかな?」



「・・・あぁ、よろしく

 説明なら明日してやる

 一旦戻すぞ」



戻す・・・って何のことだ、と聞きたかったのに、またまた意識が飛んだ

































意識が戻ると、今度は白いテラスのある部屋にいた

やはり目前には少年、ジルベール君がいたが、ローブは脱いでいる



「・・・おかしい

 ボクは失敗したはずだったのに、どうして正常に召喚されるんだ・・・」



俺がいるにも関わらず頭を抱えている

お願いだから説明してもらいたい


肩でも叩いてこちらの気をひくかね


そう思っているうちに考えが纏まったのかようやく目を合わせた



「おい、召喚されるまえに何かを望まなかったか?」



「望み?・・・望みといえば・・・」






―――あぁ、俺が幽霊じゃなきゃ、声が届けば、謝りたい

体が欲しい。

土下座できるぐらい自由の利く体が、

弟に届く声が欲しい。体が欲しい。―――






俺が望んだもの






「体が、声が欲しい

 ――そう、望んだ」



「・・・なるほど、幽霊らしい望みだ

 ボクの失敗召喚とタイミングが一致したようだな

 媒体である甲冑を与える代わりに、ボクの望みである異界の生物を引き寄せた」



眉間にしわを寄せて、低くうなるような声

ぴりぴりとした雰囲気が居た堪れない



「失敗召喚ね

 俺は戻れるのか?」



俺の体となった甲冑

これさえ、これさえあれば弟に謝れる

例え俺だと解ってもらえなくても、何度でも謝ることが出来る!

今すぐ、戻らなくてはならない

弟の下へ、家族の下へ



「何を言っているんだ、昨日戻してやったじゃないか

 幽霊は時間の感覚もわからんのか?」



「!?

 そんな!?戻した?俺の意識が飛んだだけだぞ?

 しかも昨日?嘘つくなよ、まだ数秒しか経ってないじゃないか!」



思わず肩をゆすりあげて怒鳴る


早く戻らなきゃならないのにそんな冗談やめてくれ


お願いだからやめてくれ




「・・・失敗召喚の・・・弊害なのか?

 もしかしてこちらに引っ張られているのか?」




再びぶつぶつと考え込んでしまった


戻れないとか言うなよ


それだけはやめてくれよ




「・・・コレは、仮説にすぎない

 

 ボクは召喚媒体に白銀を用いて召喚術を発動した


 だが、ボクの魔力が少なすぎて召喚は失敗

 暴走を起こし、すわ爆発かと身構えたときお前が召喚された


 媒体となった白銀が消え、お前が、白銀の甲冑が現れた


 お前の体となっているその甲冑はその白銀だろう

 

 甲冑の素材となった白銀は我が家に代々伝わる召喚媒体


 すなわち、この世界に定着した物質であり固有の物質であるといえる」



早口でまくし立てる

一体何なんだ

ソレが如何したって言うんだ



「体がこの世界固有のもので、魂たるお前は別世界の固有物質


 お前はこの体に覆い被さっているだけで、固定されていない


 そのせいで体と魂が切り離され、送還がなされず、狭間の領域に送り込まれた


 体と魂の繋ぎがないため、時間を感じることも出来ない


 ・・・そんなところだろう」



「なら、この体を持って俺の世界へは戻れないってことか・・・?」



「今のままならそうだろう 

 体と魂を繋ぎ止めるものがあれば

 固定できれば、両方の性質をもつことになり世界の行き来が可能になるだろう」

 



戻れないわけじゃないんだ


いつか俺は謝れるんだ


固定すれば俺は向こうに戻れる!




「ジルベール君!

 すぐにでも固定する術を探してくれ!もちろん俺も協力するさ!」



「無理だ」



「何故だ!?

 こ、固定する術はもう失われた技術とか言わないよな!?」





「固定化には大金が必要だ

 小国の国家予算なみの金が必要とされる

 


 そして我が家、キャストライト子爵家に金はない



 なぜならば



 我が家は没落寸前の憂き目にあるからだ



 もう一度言わせて貰う



 我が家に金はないのだ!」








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ