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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

とある男の建国記

掲載日:2026/08/07

 俺はとある王国の騎士団に所属する平民出身の騎士に過ぎなかった。

 幼いころ、国が興した無謀な戦に巻き込まれて家族を亡くし、生き残るために必死に食いつなぎ、死体から手に入れた武具を身にまとい、迫りくる敵をなぎ倒した。

 いつしか、俺が守り抜いた人たちが周囲に集まり、一つの集団を作り出した。

 彼らを生かすために俺はさらなる戦いに進み、多くの勝利を重ねた。

 大負けした戦で敵前逃亡を図った騎士団長を切り殺し、彼の鎧を身にまとい軍を指揮して逆に迫りくる敵軍の将軍を打ち倒し、敵軍の多くを捕虜に凱旋したその手柄からそのまま王国方面軍の指揮官である騎士団長を拝命した。

 その地位にあった貴族や士官たちは皆逃亡しており、俺が鍛え育て上げた若者たち全員が入れ替わりに騎士としての叙勲を受けて一軍を形成した。その数、実に五千。それ以外にも武器を取るしかなかった若者たちが一万も集まり、王国最大の軍事勢力となった。

 俺たちの戦いは自分たちの土地を守る防衛戦がほとんどであった。少しでも多くの土地を耕し、食料を手にするために拠点を築き、敵軍を迎え撃つ設備を作る傍ら、水を確保し各地の畑にいきわたるように灌漑設備を作り――さらには畑を洪水から守り、敵を防ぐための土塁兼堤防なども作り出したくらいだ。

 俺の周囲には高い身分から没落した家の子供たちも多くおり、教育を受けて半ばで家が滅んだり追放された子供たちは意外に多く、彼らを保護することでのちの軍中枢を指揮する頭脳集団をいつしか育てることにつながっていた。

 王国の辺境に大きな勢力を築いた俺たちは、その後荒廃した王国各地の復興や防衛に駆り出されることになった。

 そして、王族同士のくだらない権力闘争から敵軍を自ら引き入れた激しい内乱から王都が半ば炎上崩壊する負け戦から王侯貴族を救う――つもりはさらさらなかったが――ことになり、彼らが落ち着く先を議論していた時、ちょうど建設がひと段落を得た俺たちの拠点が仮の王都に選ばれることになった。

 それからが運のツキだった。

 ありとあらゆる口実をつけ、それまで順調に進んでいた土地づくりを自分たちの利権にすり替え、土地の開拓者たちを次々と追いやる形で入り込む旧貴族たち。

 俺の元には没落したかつての仲間たちが毎日のように苦情を申し立てる事態となっていた。

 中には家族や自身も含めて奴隷に落とされて、若い娘や妻たちが没落貴族の毒牙にかかり、奪われた者たちも少なくない。

 俺自身は欲しくもない王女との縁組を口実として押し付けられ、旧王国領土の奪還を担う遠征軍を押し付けられた。

 遠征軍とは建前で、各地から集まった流民たちの集まりに過ぎなかった。俺が率いていた騎士団は半ば解散に追いやられ、集まっていた兵士たちも無能な貴族指揮官のもとで無謀な戦いに駆り立てられてほぼ壊滅城たちに陥っていた。

 どこまでも人に付け入り、そして陥れることにたけた旧王国の貴族たち。

 俺たちが築き上げた楽園をこの世の地獄に変えむさぼりつくした彼らは、俺の仲間たちを人質に取ることで俺をさらなる戦いへと駆り立てるのだった。

 それでも俺は苦しむ人々を守ることでしか、自分を守ることができない愚かな男だった。

 十歳になる前に家族を失い、戦場の荒野で生き延びた愚かな子供はいつしか三十の半ばを迎えていた。それから二年余りかけて、敵軍を打ち破りときには手を結ぶことでどうにか王国領土の回復に成功した俺は部下たちとある計画をひそかに進めていた。

 それはまだ人の手が入っていない辺境の地を開拓して自分たちの独立した国を興し、今度こそ本当の自由を手に入れること。本来ならば国を滅ぼした憎い敵国のほうが手を組むには信頼に足る相手であることはよく理解できていた。

 国を守る将軍であり王子であった父親を一騎打ちでかつて俺に殺された王族の姫君が最後の戦いで虜囚となり、捕虜となった部下たちを解放し講和を結ぶ条件に俺の妻になった。

 まだ十七歳の彼女は自分の娘といってもいい年ごろだ。

 だが、彼女の意思は固くまた彼女の伯父である国王の後ろ盾もあり、俺は辺境荒野の大部分を領する国の王となることになった。

 意外にも奥地に豊富な水資源が存在した荒野の開拓は順調であり、植樹や開拓が進むにつれてかつての彩を取り戻すように順調に発展していく。

 開拓から五年、妻に二人目の子供が生まれるころには辺境とはいえ、各地から集まった人々の尽力により国としての体裁をなすに至った。

 同盟国となった王国は周囲にさらなる強国を抱えており、彼らの援軍として各地の戦場へと駆り出されることも少なくはなかったが、あとを守る女性たちの存在もあり多くの味方を生かすことができたのだった。

 そんな折、辺境を挟んだ向こう側――今では貧困がはびこる旧王国から侵略軍が押し寄せたのだった。

 彼らを率いるのはかつて俺の婚約者ともなっていた王女であった。

 民を守るためには豊かな土地を切り開いた俺たちを征服しなければならない。

 侵略軍は悲壮であった、だが愚かでもあった。かつて俺たちが築いた辺境の地を再び荒野に変えた愚か者たち。

 俺たちは一部の軍を率いて迎撃に赴き、彼らを翻弄することであっけなく打ち破った。

 旧悪を滅ぼし、これ以上の戦乱を広げないために俺は徹底的な殺戮を命じた。ただ一人、生け捕られた王女はさすがに凛々しい面立ちの三十半ばの女であった。

 自ら王族のほとんどを血祭りにあげ、愚かな貴族どもにとどめを刺した彼女を支える者たちはほとんどが彼女を純粋に慕う奴隷上がりの平民たちであったという。

 それだけに戦いのことを知るものはほぼおらず、それでも善戦した彼らはもう誰も生きてはいない。別の形で手を取り合えたかもしれない――そんな思いも去来するが、人の物を奪うしかない旧王国の物を生かしておけば、のちの世の禍根となる。

 戦場の泥にまみれながらも誇りを失わない元王女を城外に引き出し自らの手で処刑する。

 俺が成し遂げたかったもの、それは戦いを終わらせるための戦いであった。

 ただの理想ではない、俺たちには向かえばたとえ同盟を結ぶ者たちであろうとも容赦なくせん滅する。

 だが、助けを求め共に歩むならば俺たちの持てる力のすべてを尽くす。

 その思いがのちの子孫たちにまで遠く伝わることを願いながら、俺はむなしい勝利を民に宣言するのであった――。


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