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謎解きはお味噌汁を作る間に~元警視総監、元名探偵のお婆ちゃんが年賀状の謎を解き明かしましておめでとうございます。

作者: 黒銘菓

 謎味噌シリーズ新作!

 「千夏、おはよう。あけましておめでとう」

 私が五時半に起きると、婆ちゃんは重箱を広げて食卓に座っていた。

 「婆ちゃんおめでと。今日も味噌汁、いる?」

 「あったら嬉しいね」

 パジャマの上にエプロンを付けて、朝の支度をする。

 おせちにお味噌汁とはこれいかに?と思いながらも作る。

 『朝ごはんのおかずとご飯は婆が、お味噌汁は家族が交替で作る』

 それが雨宮家、ウチのルールだ。


 お湯を沸かしてその中に出汁の粉末を入れる。

 ウチにはお味噌汁以外にもう一つ、ルールがある。


 「年賀状、届いたのかい?」

 「うん、中学の頃友達だった紘子(ひろこ)から。ほら、野球進学した子」

 「あー、いたね」

 早朝のポストに入っていた年賀状の送り主は下野(げの)紘子(ひろこ)、中学の頃の友達だ。

 高校は別々になったけど、今も連絡は取りあってるし、年賀状のやり取りは今も恒例行事だ。

 「ん~?」

 書いてあるのは古文への恨み、彼氏がいない嘆き、昔の話……なんてことのない内容。

 「もし、気になることがあるなら、それを今日の話にするよ」

 我が家の婆ちゃんは元警視総監で元名探偵だ。

 味噌汁を作っている間に婆ちゃんに日常の謎を相談する。それが日課兼ルールだ。

 「年賀状、なんか変なんだよね」

 裏面を見せる。

 「ん?手書きかい?クセのある字だけど、変かい?」

 「ん~、変。文章は同じ。だけど、何か、変」

 「字、かい?」

 「たぶんそう。えーあ、そうだ!あの子、いつも線の左側がハネてるんだ。これ、右側にハネてる!

 でも他にも変な所がある」

 それを聞いて婆ちゃんの声が変わった。

 「その子、左利き(サウスポー)かい?」

 「え?何で知ってるの?超能力?」

 「文字の線のハネ方は利き手で変わる。この手紙は右手で書かれてるよ。」

 「え?」

 「左利きが右手で手紙を書いて、しかも、野球進学した子が学校の事は話してるのに野球の事に一切言及しない。

 妙だと思わないかい?」

 「あぁ」

 それだ。

 去年、紘子は野球の事を年賀状に沢山書いてた。

 それが今年は、無いんだ。

 触れないようにしている。

 それが傷や、隠したいことみたいに。

 「ちょっと電話してくる。」

 「良いのかい?隠してるものを暴くことになるんだよ」

 「友達に隠して、強がって、カッコつけのつもり?

 私がすること、間違ってるかもしれない。けど、知った上で苦しんでるかもしれない友達を見て見ぬフリなんて、出来ないよ!」




 部屋に走っていった孫を見て、呟く。

 「やれやれ、この婆ありきのあの孫かね?」

 沸いた出汁の火を止めた。


 もしノミネートされたら、婆ちゃんは是非下野さんに演じて頂きたい!

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