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第九話:魔導学会で魔法を再定義したら、老害教授たちの顔が全員引きつった件

王都北区・王立学術塔。

 かつて賢者と呼ばれた者たちが研究に没頭し、今なお魔導学の中心であり続ける、由緒ある研究施設。


 本日は、その最上階の円形講堂にて──

 王国最大級の魔導研究会議、魔導学会定例会が開催されていた。


「……登壇者、最後の一名を迎える。

 王立魔法学園所属、新入生──一ノ瀬理央」


 ざわ……とざわめく会場。


 列席しているのは、現役の宮廷魔導士や各地の高等学院教授たち。

 当然、彼らの多くは“理央の異端ぶり”を聞き及んでいた。


「才能なしの転移者が登壇?」「学会の権威も地に落ちたな」

「遊びの発表に付き合ってやる心の広さは、もはや慈善事業だな」──


 皮肉と冷笑が混ざる空気の中、

 理央は白衣の上に黒のスーツジャケットという、異世界的に奇抜な装いで堂々と登壇した。


「本日はお時間をいただき、ありがとうございます。

 私は一ノ瀬理央。“才”でも“血”でもなく、“理”で魔法を語るためにここに立っています」


 その第一声で、会場が静まり返った。


「本発表のテーマは、“魔法の再定義”。

 私は、魔法を“現象に対する構造的介入”として捉え、魔力量ゼロでも術式を発動できる方法を提示します」


 その瞬間、列席者の何人かが小さく笑った。


「魔力量ゼロで魔法だと? 詐術だな」「証明できるのか、それを」


 だが、理央は冷静だった。


「まずはこちらの映像をご覧ください。これは、王立魔法学園演習で行った私の魔導式による実戦記録です」


 映し出された映像──

 ジーク=クラウゼンを一瞬で封殺した重力干渉式と偏向バリア。


「どちらも、魔力量ゼロの術者によって発動されています」


 映像が終わると同時に、彼女は手元の板状魔導端末を掲げた。


「こちらは、“理論式魔導陣・R-βシリーズ”の回路図と構造式です。

 エネルギー収束と媒体共振を数式として定義し、物理波形として現象化させる──」


「──待て!」


 中年の男性教授が立ち上がった。

 大魔導院の権威、フェンリック博士である。


「君の理論は、あまりにも破綻している。

 そもそも、魔法とは“魂に宿る資質”により発現するものであり──」


「その“魂に宿る資質”という根拠は、どこにありますか?」


「そ、それは……長年の研究により……!」


「曖昧な比喩でしか語れないものを、“理論”とは呼びません。

 私は、魔力量を持たない人間が魔法を発動できることを証明済みです。

 それを否定するなら、あなた方は“現実”を否定していることになります」


 会場の空気が、凍りついた。


 何人もの教授が、何かを言い返そうとして──

 何も言い返せなかった。


「私は、ただ新しい“道具”を示しただけです。

 “才能のない人間でも魔法を扱える”──その可能性を開いたのは、

 この世界に転移してきた、一人の研究者です」


「……っ!」


「ですので、私はここで提案します。

 魔法を“感覚”や“天賦”といった曖昧な語で語るのではなく、

 “再現可能な構造式”として、再定義しましょう」


 理央の声は、震えていなかった。


 それは、世界の常識を一刀両断する“科学者の声”だった。


 発表が終わったあと。

 講堂は──静まり返っていた。


 誰も言葉を発せず、誰も否定も肯定もできず。

 ただ、理央の示した論理と実績だけが、その場に残されていた。


 やがて、静かに立ち上がった人物が一人。


 王室直属研究所・第一技官長、老年の魔導士レイム=グラナード。


「……私は、君の理論を認めるつもりはない」


「……そうですか」


「だが、“見なかったこと”にもできない」


 それは、最大級の評価だった。


 そして、その場にいたすべての者たちが理解した。


 ──今日、“魔法の定義”が変わったのだと。


 その夜。

 理央は研究寮の窓辺で、アリシアとともに学会の報告書を読んでいた。


「……すごいですわ、理央さま。“異端の革命児”“定義破壊者”って、称号みたいに書かれてますわよ」


「うーん、褒めてるのか馬鹿にしてるのか分かんないけど……

 ま、これで論文査読も回避不能になったから。次は本格的な研究資金も申請できそう」


「本当に、世界を変えてしまったんですのね……」


「まだ“変える準備が整った”だけ。

 ──本番は、これからよ」


 夜の王都に、理央の瞳は静かに輝いていた。

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