第八話:理論魔導、授業にて爆誕! 教師に論破されたと思ったら逆に黙らせた件
魔法学園・第一講堂。
今日は、新入生向けの基礎魔導講義。
全学年が受ける“導入の導入”だが、教師の中にはこの機会を“秩序の確立”として重視している者も多い。
「皆さん。魔法とは、“才能と血統によって発現する特別な技術”です。
特に重要なのが“魔力量”と“適性属性”。このふたつがなければ、魔法は扱えません」
壇上でそう語るのは、マグナス教授。
かつて王立魔導局でも教鞭を取っていたという、“魔法原理主義”の代表的な人物だった。
「それゆえに魔法は、貴族社会を支える礎であり……」
「すみません、その前提、もう古くないですか?」
──不意に、静かな声が響いた。
教室中の視線が、いっせいに一点を向く。
立っていたのは、言うまでもなく理央だ。
「“才能”や“血筋”が魔法の前提、というのは、
つまり“誰でも魔法が使えるわけではない”ということですよね?」
「その通りです。反論でも?」
「ええ、たくさんあります。例えば、私の開発した“理論式魔導陣”──
魔力量ゼロでも、定義した構造で術式を動作させることができます」
「……はっ、また君か。測定不能の異端者か。だが、その術式、再現性は?」
「高いですよ。第三者による実験済みです」
「では証明を」
「どうぞ」
理央はためらいなく、鞄から取り出した“簡易式術式ボード”を教壇に置いた。
それは、木製の板に極小の魔導回路を刻んだ、持ち運び可能な魔導陣だった。
「この術式、誰か発動してみませんか? 魔力が少なめな人がいいですね」
「……では、わたくしが」
と、手を挙げたのは──もちろん、アリシアだった。
彼女が前へ進み、ボードに手を添える。
「式番号:R-β3、属性:雷撃、制御強度0.4。起動──」
ピシュッ!
板の中央から、青白い雷が走った。
派手な演出はない。だが、明らかに“制御された魔法”が発動したのだ。
「……これは……」
「魔力量判定C-のアリシア嬢が、“詠唱も魔力注入もなく”魔法を発動した事実。
教授、これは貴族社会の“定義”に含まれますか?」
「くっ……詭弁だ。そんなもの、“魔法”とは呼べない! それはただの、術式機械の模倣だ!」
「違います。“術式”とは、そもそも“現象の再現”のことでしょう?
たとえ魔力が使えなくても、現象を“設計”して再現できれば、それはれっきとした“魔法”です」
理央の視線が、真っ直ぐに教授を貫く。
「むしろ、再現性がない“感覚魔法”の方が、よほど“曖昧”だと思いませんか?」
──教室が、静まり返った。
生徒たちは呆然と見つめている。
教師たちは目配せをしながら言葉を探している。
「……理央さま、すごいですわ……」
アリシアが小さくつぶやいたその時──
「一ノ瀬理央。君の講義、ぜひ“特別研究枠”として発表してもらえないか?」
声をかけてきたのは、後方から講義を見守っていた学園副理事長だった。
「君の魔導理論は、もはや単なる異端ではない。
再現性・構造化・低魔力対応──すべて、今の魔法理論に欠けている概念だ。
もしよければ、来月の**“魔導学会定例会”**で発表してくれ」
その提案に、ざわめきが広がる。
「ま、魔導学会!? 本物の研究者たちの前で……?」
「入学して間もない新入生が……」
理央は少しだけ考え、そして──頷いた。
「はい。やります。……世界を変える準備、もう始めてるので」
講義の終わった教室。
アリシアが走り寄ってきた。
「す、すごかったですわ理央さまっ! 教授相手に堂々と論破して、しかも、学会発表……!」
「いやー……ちょっとやりすぎたかも。でも、ああいう旧態依然の人たちは、刺激を与えないと変わらないしね」
理央は笑う。
その背後には、唖然とした教師たちと、
彼女の名を検索し始めた生徒たちのざわめきが広がっていた。
こうして、“理論魔導”は、学園という舞台でついに“表舞台”へと姿を現した。
次なる舞台は、王都最大の魔導研究会──魔導学会定例会。
そこで彼女が語るのは、才能も血筋もいらない、新しい魔法の形。
そして──それに反発する者たちの影も、着実に濃くなり始めていた。