第七話:王家からのお呼び出し!? 理論魔導が国家機密レベルになった件
その召喚状は、早朝、学園の寮に届けられた。
淡い金箔の装飾、そして王家の紋章が押された封蝋──
それは、王宮直轄の魔導機関からの正式な要請だった。
「……“王立魔導局・対理論式特別聴聞会”……?」
理央は、封筒の中の文面を何度も読み返した。
内容は簡潔だ。
“貴殿が発案・開発した魔導理論の詳細について、王家直属機関としての立場より事実確認を行いたい。
ついては、王都西区・王立魔導局本庁にて直接の聴聞を行う。拒否は許されない。”
※出頭は本日午後一時。同行者は一名まで可。
「……拒否は、許されないんだってさ」
「ろ、ろくでもない書き方ですわね……」
アリシアが朝の紅茶を持ったまま、顔をしかめた。
だが、理央の表情はどこか落ち着いていた。
「ある程度、予想はしてたよ。貴族や教師たちが動かないわけがないし、
国家としても、“血筋によらない魔法”なんて認めるのは簡単じゃないからね」
むしろ、来るべき時が来た──という顔だった。
「アリシア、一緒に来る?」
「もちろんですわっ!」
「じゃあ、決まりね。行ってこようか。
“科学の言葉”が、“魔法の世界”をどれだけ揺らがせるか──見せてあげる」
午後一時。
王都の中心、黄金の尖塔が並ぶ王立魔導局本庁。
その最奥にある、審議室。
「入れ」
扉が重々しく開かれ、理央とアリシアが足を踏み入れると、
そこには数名の重厚なローブ姿の人物たちが並んでいた。
──王家直属の最高魔導官。
──王国魔法学会の代表理事。
──そして、王太子の片腕とされる第一魔導将軍・カール=ザヴェル卿。
「君が、“理論魔導式”を創り出した転移者か」
「はい。一ノ瀬理央、です。転移者であり、研究者です」
堂々とした口調に、数人が目を見開いた。
「まず問う。君が魔力量ゼロと判定されながら、実戦演習で強力な術式を展開できたのはなぜだ?」
「答えは単純です。“魔法”という現象の構造を解き明かし、
それを“感覚”ではなく、“再現可能な設計図”として再構成したからです」
「設計図……? つまり、既存の詠唱魔法とは根本的に異なるということか?」
「ええ。私は“構造式”として魔法を定義しました。
対象となる現象にエネルギー波形と媒体を設定し、媒介によって因果を定着させる。
魔力量がゼロでも、設計された式が動作すれば、魔法は発動します」
──静まり返った室内に、重苦しい沈黙が落ちる。
やがて、将軍ザヴェルが言った。
「……君の研究は、軍事的価値があると見られている。
魔力に依存しない術式、それも再現性が高く、低出力でも使用可能なものならば、
訓練された非魔導士にさえ配備可能だ」
「実際、可能です。すでに“魔導式R-β5”は、魔力量Dランク以下でも発動を確認しています」
「ならば──その技術を、王国に引き渡せ。君を保護対象とし、研究はすべて国の管理下で行ってもらう」
アリシアが小さく息を呑む。
それは、“自由な研究”の終わりを意味する提案だった。
だが、理央は──微笑した。
「……断ります」
「──なに?」
「理論魔導は、“誰でも魔法を使えるようにする”ための研究です。
それを国家の独占物にするのは、本質的に間違ってます」
「君、それがどういう意味を持つか、分かって言っているのか?」
「もちろんです。
でも、“正しい理論”を潰そうとする勢力があるなら、私は“全力で喧嘩します”。
──それが、研究者ってもんでしょう?」
その目には、戦う覚悟が宿っていた。
「……一ノ瀬理央。君が、いずれこの王国を揺るがすことは間違いない」
「なら、せめて揺るがし方は選ばせてください。
私は、“科学”でこの世界を変えにきたので」
聴聞会が終わった後、アリシアと共に帰路につく。
「す、すごいですわ、理央さま……本当に王家相手に、はっきり言い切って……!」
「怖かったけどね。でも言わなきゃ、全部握り潰されるから」
理央は空を見上げた。
「でも──これで決まった。私の研究は、国家レベルの話になった」
王家との対話は、始まりにすぎない。
これから先、彼女の前には“利用したい者”と“潰したい者”が、次々と現れる。
だが、理央は知っていた。
真理の価値は、いずれ誰の目にも明らかになる。
その日まで、自分は研究を止めない。