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第六話:実戦演習で令嬢を守ったら、貴族社会に目をつけられた件

 王立魔法学園・西演習場。


 そこでは、入学したばかりの新入生を対象にした初回合同演習が行われようとしていた。

 内容はシンプル。生徒同士が二人一組のペアとなり、“実戦形式”で魔法の腕前を試すというもの。


「というわけで、アリシア。よろしくね」


「はい、理央さまっ。わたくし、精一杯お力になりますわ!」


 二人は当然のようにペアを組んでいた。


 理央が提示した“理論式魔導陣”によって、アリシアは従来の魔力量では考えられないほど安定して魔法を扱えるようになっている。

 そして理央は、自らが設計した“非魔力量依存型術式”の実験を行える千載一遇の好機と考えていた。


(今回は戦闘形式。つまり、“術の制御”と“展開速度”が見られる)


(なら──示してやる。魔力量ゼロの“理系女子”が、どうやって世界をひっくり返すか)


「ペア二十一番、入場!」


「いってきますっ!」


 場内に響く声とともに、理央とアリシアは広い演習フィールドへと歩み出た。


 対戦相手は、名門貴族クラウゼン家のご子息・ジーク=クラウゼンと、その取り巻きの少女ユーリ。

 共に上位貴族の出で、魔力量の評価は“Aランク”と“B+ランク”という強豪組。


「ふん、魔力量ゼロの転移者と、落ちこぼれ令嬢か。せいぜい観客を楽しませてくれよ」


 ジークが見下すように笑うが、理央は涼しい顔を保った。


「楽しませるのは得意だから、期待してて」


「ほざけ!」


 開始の号令とともに、フィールドに緊張が走る。


 ジークが詠唱を短縮し、火球魔法フレイム・バレットを三連続で発射。

 ユーリは背後から防御魔法を構築し、連携して攻撃を仕掛けてくる。


「アリシア、合図と同時にステップ右、五歩!」


「はいっ!」


 理央の指示でアリシアが動く。その瞬間──


 パシュン!


 アリシアの足元に設置された“理論式魔導陣”が瞬時に起動。

 拡散シールド《偏向壁・Δ型》が展開され、火球を左右に弾き飛ばす!


「なっ……!? バリアが、斜めに……!」


 ジークが思わず目を見張る。


 だが、理央の動きは止まらない。


「起動式R-β5、重力干渉魔法、発動──《局所圧制フィールド》!」


 数式と構造式によって再現された“重力制御陣”が、ジークの足元に出現。

 一瞬で彼の足が地面に沈み込み、動きを封じられる。


「う、ぐっ……!? 足が……抜けないだと……!?」


「魔力量で勝負しようとするからそうなるのよ。

 私の魔法は、理屈が通るなら、必ず起動するの」


「アリシア!」


「──はいっ!」


 彼女の手のひらが輝く。

 再現魔法《導雷式・Lv1》──理央が調整した回路式雷撃魔法が、一直線にジークへと走る!


 ビシィィィン!


 炸裂した雷がジークの防御結界を貫き、彼の身体がよろめいた。


「ぐっ……っ、馬鹿な、魔力が少ないはずの……!」


「ふふっ、どうなさったのです? 魔力量Sランク様が、まさかこの程度で──」


 アリシアが皮肉めいて言うと、観客席がどっと沸いた。


「こ、これは驚いた! 転移者・一ノ瀬理央、生徒の設置した陣による遠隔式連携を完全再現──!」


「制御が精密すぎる! 詠唱なし、展開速度も理論上は不可能のはず……!」


 実況を務める教員すらも、驚きを隠せない。

 理央とアリシアのペアは、完全に観衆の心をつかんでいた。


「──勝者、ペア二十一番! 理央・アリシア組!」


 審判の声と共に演習が終了すると、観客席から拍手と歓声が湧き起こった。


 だがその裏で、別の空気も動いていた。


「……あれが、“理論魔導式”か。確かに、無視できん」


「魔力量ゼロでも実戦可能──これは貴族社会の“血統信仰”を揺るがす危険因子だ」


「放置していては、まずいな。学園内部の力学すら変わりかねん……」


 演習を視察していた複数の教員と貴族たちが、理央という“異端”に視線を向けていた。


 その日の夜。

 理央は研究ノートを眺めながら、アリシアと一緒に中庭で夕風に当たっていた。


「ねえ、アリシア。今日の演習、どうだった?」


「とても、楽しかったですわ! そして、すごく誇らしかった。

 だって──わたくし、やっと“魔法使い”になれた気がしますもの」


「ふふ。そう言ってもらえると、やってよかったって思えるよ」


 だが、理央の表情はどこか曇っていた。


「ただ……この国、少しずつ私のことを“脅威”として見始めてる」


「……え?」


「だってそうでしょ。これまで魔法って“才能”と“血”の問題だった。

 でも私の式は、理屈さえ分かれば誰でも扱える。

 それって、“貴族社会の特権”を壊すってことなんだよ」


 アリシアが小さく唇を噛む。


「でも、それでも……わたくしは理央さまの理論を信じます。

 だってあれは、“正しいこと”ですわ」


「……ありがとう、アリシア」


 この時、理央はまだ知らなかった。

 この日を境に、王国中の魔導学会・魔法貴族・そして王家そのものが、

 “理論魔導”という革命の胎動に巻き込まれていくことを──。

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