第五話:魔法学園で再検査、判定不能のバケモノと言われた件
王都の中心部に建つ、白亜の塔──王立魔法学園。
魔法貴族たちの子弟が通い、才能ある者は早くて十代のうちに王室直属の魔導士となるエリート養成機関。
その正門の前で、理央とアリシアは並んで立っていた。
「ふふっ、いよいよ入学式ですわね」
「うん、まあ一応“編入試験扱い”だけど……。とりあえず、測定だけはまた受けないといけないんだよね?」
「はい。あちらに受付がありますの」
二人が向かったのは、入学前に行われる魔力量の再検査ブースだった。
この世界では、魔力量が“身分”や“進路”に大きく影響する。
一度“ゼロ”判定を受けた理央は、今日もう一度、公式に計測されることになる。
──だが、今回は違う。
理央の体にはまだ“魔力”と呼べるようなエネルギーは存在していない。
しかし、彼女は“構造”と“式”をもって魔法を動かす手段を確立している。
(ふふん。前回の“ガバ測定器”じゃ、私の理論魔法は拾えなかった。
でも今回は、ちゃんと対策済み。機材の構造も、測定式の仮定も、把握済みなんだから)
「では、次の方。お名前をお願いします」
「一ノ瀬理央、です」
受付嬢が、手元の魔道端末に情報を打ち込みながら小さく眉をひそめる。
「あの……前回“魔力量ゼロ”と診断された方、ですね?」
「はい。でも今回は、少しだけ驚かせてあげるかもしれません」
「……? では、こちらへどうぞ」
測定室の中。
先日の“王都式”よりもはるかに高性能な、学園式魔力量測定装置が鎮座していた。
半球型の水晶体が浮遊し、周囲を六つの魔導球が囲んでいる。
空間中の魔力流をスキャンして、個体の魔力放出量をリアルタイム解析するという。
(なるほど、これはこれで悪くない構造。だが──感覚魔力だけに依存してる点は変わらない)
理央は装置の構造を観察しつつ、自作の“数式魔導陣β・携帯版”を足元で起動した。
靴の裏に貼り付けた極小式回路が、身体全体に極弱の振動を伝える。
あとは、意図的に構築した魔導式を“魔力らしく”空間に放出するだけ──
「では、はじめます。精神を集中してください」
「はい、どうぞ」
理央は軽く目を閉じ、“術式”を頭の中で展開した。
β版の改良型、構造式R-β3──最大限“魔力波”に近い共振を発生させる設計。
──数秒後。
ブゥゥゥウウン……!
「っ!? 機材が、……震えて、る?」
「まさか……っ、あの水晶体、共振してる!? こんな波形──解析不能!?」
測定器の中心にあった水晶体が、高速で振動を始めた。
空間に青紫の閃光が走り、機材全体が唸りを上げる。
「測定停止! 一度、停止──!」
「データ収集不能です! 出力オーバーフロー!」
慌てふためくスタッフたちの背後で、理央は平然と目を開けた。
「そっか。やっぱり“物理エネルギー”として見たとき、こっちの方が数倍強いのね」
測定器の警告ランプが赤く点滅し、検査結果が強制的に吐き出された。
その画面に記された文字列は──
【 魔力量:判定不能(異常構造干渉) 】
「……判定、不能?」
「な、なんなのこの人……魔力量ゼロだったんじゃ……?」
「いや、でも今の魔導波、明らかに規格外だったぞ……!?」
「もしかして──“バケモノ”……?」
場に広がるざわめきを背に、理央は涼しい顔で答えた。
「バケモノかどうかは知らないけど──
“理論魔法は、測定器すら破壊する”って証明にはなったかな」
冷や汗をかくスタッフたちの目の前で、
理央は笑いながら“測定不能”の診断票を受け取った。
その日の夕方。
食堂でアリシアと向き合いながら、理央はため息まじりに報告した。
「……ってわけで、学園の公式記録に“判定不能”って残っちゃった」
「す、すごいですわ理央さま! 普通は“才能なし”って扱われるのに、今度は“意味不明”ですのね!」
「うん、進化したね。意味不明枠」
二人で笑い合いながら、理央はふと考える。
(でも実際、これで私の魔導理論が“何か違う”ってことは、公式にも証明された)
(次は……実用化だ。教室でも実戦でも、通用することを示す)
「アリシア。今度の授業、合同演習があるらしいけど──一緒に出てみない?」
「合同演習……!? あの、実戦形式の、ですの?」
「うん。丁度いい“論文のネタ”になりそうだしね」
理央の目が、研究者のそれに変わっていた。
次は、戦場で証明する番だ。
──感覚ではない、“設計された魔法”の実力を。