表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

第十話:研究資料を盗まれた!? そして裏にいるのは貴族派閥だった件

 ──深夜、理央の研究室。


 薄暗いランタンの光だけが、書きかけの術式図と演算式を照らしていた。


 理央は白衣を脱ぎ、アリシアが淹れてくれた紅茶を飲みながら机に寄りかかっていた。


「……これで“第五構造式”の初期仮説はまとまった。あとは波形演算だけ……」


「すごいですわ……それ、わたくしには全然分かりませんけど」


「うん、分からなくていいよ。今はまだ“言葉”になってないから。でも、形にしてみせる。必ず」


 だがその夜──。


 事件は、静かに起きた。


 翌朝。


 学園の研究棟がざわついていた。

 窓ガラスが割られ、室内に土足の足跡。散乱した紙束と──消えた一冊のノート。


「……やられた。構造式ノート、β7までの改良データが全部……!」


「し、信じられませんわ! 学園の中で、こんな……!」


 理央は歯を噛みしめた。


 あのノートには、彼女の“理論魔導”の核心が記されていた。

 もし悪意ある誰かの手に渡れば、それは研究ではなく“兵器”として利用されかねない。


「誰が、こんなことを……?」


 その答えは、意外な形で明らかになる。


 翌日──学園の中庭。


 理央のもとに、同級生の一人がこっそりと近づいてきた。


「……理央さん。ちょっと、聞いてもらえますか」


 それは平民出の眼鏡の男子生徒、キール。

 魔法そのものにはあまり縁がなく、普段は静かな図書室にいる生徒だ。


「昨日の夜、寮の裏庭で……貴族の生徒が何かを渡しているのを見ました。

 ──“赤い封筒”と、“黒革のノート”。多分……あなたのです」


「誰だったか、分かる?」


「……たぶん、クラウゼン家の側近です。前にあなたと戦った、ジークの取り巻きの一人です」


 ──クラウゼン家。

 貴族派閥の中でも、“血統主義”を強く掲げる旧貴族の本家。


(……つまり、“構造魔法”を潰したい連中が、先に動いたってわけか)


 その夜、理央は単身、王都西区のクラウゼン屋敷に乗り込んだ。


「……お客様のお名前を──」


「一ノ瀬理央。魔法学園の生徒です。用件はひとつ、“盗まれたノート”の返還交渉です」


「──!」


 門番が色を失ったように顔を引きつらせる。


 やがて中から現れたのは、ジーク=クラウゼンその人だった。


「……何の話か分からないな。“証拠”でもあるのか?」


「あるよ。“ノートの綴じ穴の跡”と、私がノートの隅に描いた回路図の欠片。

 そして、あなたの側近が赤い封筒と交換していたという目撃証言もある」


 ジークの口元が引きつる。


「理央。君のその魔導理論は、王国にとって危険すぎる。

 “誰でも魔法が使える世界”が来たら、我々貴族の存在意義はどうなる? 血統とは、何だったのか?」


「……私には、特権を守るために“可能性”を潰す連中の方が、よほど危険に思えるけど」


「君は、分かっていない。

 “正しい”ことが、“正義”になるとは限らないんだ」


「だったら、“正しいことを押し通す力”を持てばいい──それが、研究者ってもんでしょ」


 そう言って、理央は静かに手を差し出す。


「ノートを返して。……今なら、あなたを公には告発しないでおく」


 ジークは数秒沈黙し──やがて、苦々しげに懐から黒革のノートを差し出した。


「君は、いずれ刺されるぞ。理屈だけで世界は変えられない」


「心配してくれてありがとう。でも──私、理屈で世界を変えるつもりだから」


 その言葉に、ジークは何も言えなくなった。


 学園の研究室に戻った理央は、ノートを確認し、

 無事にすべてのデータが残っていることを確認すると、大きく息を吐いた。


 アリシアがそっと、紅茶を差し出す。


「お帰りなさいませ、理央さま。……大丈夫、でしたか?」


「うん。資料も回収できたし、“次の段階”に進める」


「次……?」


「“第五構造式”。

 今の式を応用して、“魔力そのもの”を操作対象にできる可能性が見えてきた。

 つまり──“魔法の根源”に、手が届くかもしれない」


 アリシアの目が見開かれる。


「このままいけば、魔法を“再現”するんじゃなく、“再定義”できる」


 そう──この日をもって、“第一章”は終わりを迎える。


 だが理央の戦いは、まだ序章にすぎない。


 これから先、理論魔導を巡る派閥抗争、学術戦争、さらには──

 王国の根幹にかかわる“魔法の起源”を巡る陰謀が、静かに幕を開けようとしていた。


(第一章・完)

はじめまして、ここまでお読みいただきありがとうございます。

本作『ブラック研究室から異世界へ!数式で解き明かす魔法理論、最強の魔導式は私が作る』第一章、いかがでしたでしょうか。


本作の主人公・理央は、「魔力量ゼロ」「才能なし」「血筋も無し」という、ファンタジー世界では“最弱”とされがちな立ち位置から物語をスタートしています。しかし彼女は、それでも前に進み、独自の視点と理論で世界に食らいついていきます。

それはきっと、何かを諦めてきた人や、「向いていない」と切り捨てられた誰かに届くと信じています。


魔法というロマンのある概念に、「数式」や「構造解析」といったロジックを持ち込む試みは、やや地味かもしれません。けれど、それを面白く、熱く、そして誰よりも“痛快”な物語にすることを目指して、筆を取りました。


読んでくださった皆様の中に、少しでも「こういう魔法の使い方、ありかも」と思っていただけた方がいたら、本当に嬉しいです。


ここまで読んでくださったあなたに、心から感謝を込めて──ありがとうございました。

感想などもお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ