後編
たまにでもユウ君と話せるようになった私は、もっと仲良くなりたいと欲が出てきてしまった。
そんな私の思いを知ってか、溝沼君がまた久しぶりにアドバイスをしてくれた。
彼のアドバイスはいつも的確なので、従って間違いはないだろう。
そして、私は目標を立てた。
『面白い女に私はなる!!』
でも、面白みの欠片もない私がどうやって面白い女を目指せばよいのだろう?
親友のユキちゃんに聞いたら、色々と参考になりそうな漫画を貸してくれたので、とりあえず、それを実践に移してみることにした。
1.食パンをくわえ、「いっけな~い!!遅刻遅刻!!」と叫びながら走り、相手の男の子にぶつかる。
(ユキちゃんが貸してくれた漫画『あいつは噂の転校生!?』参照)
でも、それって…食パンくわえながら叫ぶなんて、不可能じゃないかしら?
しかも私、ユウ君に会うのはいつも電車の中でだから走れないし…。
私はどうにかこれに近いシュチュエーションにできないか、一生懸命考えた。
その結果…
「いっけな~い!!遅刻遅刻!!」
「えっ、リンちゃん、いつもこの電車だよね?」
「うっ…今日はちょっと早めに登校しないと行けなくて…」
「そうなの?大変だね。
ところで、その手に持ってる可愛いカップケーキはどうしたの?」
「電車の中で食パンをくわえるのはちょっと恥ずかしくて…。これなら、一口サイズだから良いかな?と思って…」
「どうして電車の中で食パンをくわえないといけないのかは分からないけれど…それリンちゃんの手作り?美味しそうだね」
「えっ、美味しそう?
良かったら、これ…沢山作ったから、ユウ君も食べて♡」
「えっ、良いの?ありがとう。
何かよく分からないけれど…リンちゃんって面白いね」
(良かった~。ちょっと私でも実践出来るようにアレンジしちゃったけれど、ユウ君に《《面白い》》と言ってもらえたし…成功だよね?
ユウ君に、手作りのカップケーキも受け取ってもらえたし…思いがけずラッキー!)
第一弾が成功した私は、調子にのって第二弾にもチャレンジすることにした。
2.俺様イケメンでモテモテの彼に、なびかない女になる。
(同じくユキちゃんオススメ『俺様生徒会長の彼と美化委員の私』参照)
でも、これ…ユウ君はイケメンで人気者だけど、俺様ではないし…幼稚園から10年以上も片思いしているのに気付いてもらえない私が、今さらなびかない女のフリをするのは、無理があるような…。
これは、あきらめて…次行こう。
3.肩書きや外見などの上辺ではなく、誰も見てくれなかった彼の本質的な点に気付いて称賛する。
『みんな、俺の地位や見た目にしか興味ないのに…本当の俺に気付いてくれたのは、あいつだけだ…面白い女』
(ユキちゃん推薦『麗しの騎士団長と地味男爵令嬢の恋』参照)
これなら私にもできる自信がある。伊達に幼稚園から、ず~っと彼を見つめてきたわけではない。
ユウ君の素晴らしさに関して語らせたら、私の右に出る者はいないはず!!
私は早速、ユウ君の内面的な素晴らしさを本人に伝えることにした。
「私、ユウ君は確かにイケメンだし、性格も良いし、テニスも上手で格好いいけれど、ユウ君の本当の素晴らしいところはそれだけじゃないと思うの…」
「急に、どうしたの?面と向かって言われると何だか恥ずかしいけれど…でも、ありがとう。あっ、昨日のカップケーキもすごく美味しかったよ。ありがとう」
「ど、どういたしまして…」
ユウ君が、褒めてくれた~。嬉しい…。
「昨日に引き続き、急にどうしたの?何かあった?」
私が連日突飛な行動をするから、ユウ君に心配を掛けてしまってる…。
申し訳ないけれど…私は『面白い女』になると決めたんだ。
ここで怯んではいけない!!
「私、ユウ君の本当に素晴らしいところを伝えたくて…でも、電車に乗ってる15分では、伝えきれないから…手紙にしたためてきたの。受け取って…」
「ありがとう。なんだか、すごく分厚い封筒だね…。家でゆっくり読ませてもらうね」
不思議そうな顔をしながらも、ユウ君は封筒を受け取ってくれた。
(そう言えば、最近溝沼君見かけないけれど…夏風邪でも引いたのかな?
ユウ君の学校は今週がテスト週間だから、一緒の電車で通えているのだけれど…うちも来週からテスト始まるのに…大丈夫かな?)
週明け、やっと溝沼君は登校してきた。
季節外れの風邪を引いて、長引かせてしまったそうだ。なんだか少しやつれていた…。
今週はもうテスト週間が終わって朝練が始まったので、ユウ君はいない。
「リンちゃん、おはよう。あれ?今日は原田さんも一緒?」
「うん。今日からユキちゃんも一緒に登校することになったの。ユキちゃんなら溝沼君もよく知ってるし、良いよね?」
親友のユキちゃんは、私達と同じ、中学時代の生徒会メンバーだ。
私が生徒会役員になる時に、頼んで一緒に入ってもらったので、ユキちゃんはずっと会計をしていた。
「えっ…どうして急に?」
溝沼君は何故か、少し不満そうだ…。
ちゃんと相談してからの方が良かったかな?
でも…
「ユウ君が、『親友と言えどもリンちゃんが自分以外の男子と二人きりで登校するのは嫌だ』って言うから…」
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
実は、あの手紙を渡した後、テストが終わったユウ君から連絡がきた。
『熱烈なラブレターありがとう』
『えっ…ラブレター?』
『僕のことを、リンちゃんがあんなに見てくれて、思ってくれていたなんて…知らなかった。
正直、すごく嬉しかった。
でも、びっくりしたよ。108も僕の良いところが書いてあって…』
『ユウ君の素敵なところを書き出したら、100を超えちゃって…ここまで来たら、もう煩悩の数がいいかと思って…』
『そこで、どうして煩悩の数になるのかな…リンちゃんって本当面白いね』
『面白い…』
『あの手紙を見て、僕ももっとリンちゃんのことを知りたいと思ったんだ。僕達付き合わない?』
『えっ…本当?』
『うん、リンちゃんが嫌じゃなかったら、付き合いたい』
『嫌じゃないです』
『じゃあ、これからは彼氏として、よろしくお願いします』
『こちらこそ、お願いします』
『実は、中学の時は、リンちゃんはカケルの彼女だと思ってたんだ…』
『えっ、そんなんじゃないです。溝沼君はたまにアドバイスをくれる良い人で…あとは仕事仲間的な…?』
『うん、高校になって、一緒に話すようになったら、違うって分かった。でも、親友と言えどもリンちゃんが自分以外の男子と二人きりで登校するのは嫌だな…』
というような、やりとりが行われ、私は親友のユキちゃんに、『面白い女』作戦の成功報告がてら相談した。
そうしたら、普段空いている電車に乗るために、早めの電車に乗っていたユキちゃんが、私達と同じ時間に合わせてくれることになった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「溝沼君って…本当バカよね…」
テスト終わりの放課後、俺は何故かリンちゃんの親友原田有紀とファミレスにいて、罵倒されている…。
「・・・・」
「箱入りのお姫様のようなリンに、つまらない嘘ばかりつくから、最後は本物の王子様に掻っ攫われるのよ」
「…夏風邪さえ引かなければ、2人きりで登校することはなかったし、こんなことにはならなかった…」
「今回引っ付かなくても、いずれ付き合ってたよ…。だってリンの思いは本物だったし、小鳥遊君もそんなリンに惹かれてたんでしょ?
だから、『面白い女が好きだ』なんて姑息な嘘をついたんでしょ?」
「・・・・」
「溝沼君も、巷では氷の王子様なんて言われてるインテリイケメンなんだから、正々堂々と告白すればリンも振り向いてくれたかもしれないのに…本当バカね…」
「・・・・」
「…でも、私は嫌いじゃないよ。溝沼君のそういう素直じゃないところ…私もそうだから…」
「こんな捻くれた奴が良いなんて…面白い女」
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。
想いのベクトルは
ユウ君←リン←カケル←ユキでした。
みんな両思いになれば良いな~と思います。