中編
俺、溝沼翔と小鳥遊優は親友と言うよりは、くされ縁に近い。
たまたま住んでいる家が近く、二人共両親が共働きなので、0歳児から同じ保育園に通っていた。
ちょっと捻くれている自分と違い、誰にでもフレンドリーで優しいユウは保育園でも人気者だ。
そんな俺達が通う保育園に、新しく女の子が入園してきた。
初めて親から離れ、いきなり集団生活に入れられたからか、人見知りをしてなかなか友達が出来ないようだ。
よく観察をしてみると、彼女は目でユウを追っていた。
たぶんユウのことが好きなのだろう…。
いいカモを見つけたと思った…。
ちょっと可愛いと思ったのに、隣の席の自分には目もくれず、ずっとユウのことばかり見てることに腹がたったのかもしれない…。
『タカナシさん、ユウのこと好きでしょ?』
俺がズバリ言い当てると、彼女はソワソワして真っ赤になった。
そんな彼女に、俺は自分に都合の良い嘘をつく。
『ユウは、優しい子が好きなんだよ。他の子に、自分のお菓子を分けてあげるような優しい子が良いって…』
それから彼女のオヤツは全て俺のものとなった。
でも、彼女の好物のバナナケーキが出た時、涙を浮かべながら俺の机にケーキを置く彼女が可哀想になって、
『俺、バナナは食べれない』と嘘をついた。
本当は自分もバナナケーキはかなり好きなオヤツの1つだったけれど、それからバナナケーキだけは、彼女に譲ることにした。
それ以降も度々、自分に都合の良い嘘をついたけれど、彼女は俺の言うことを疑うことなく、全て鵜呑みにした。
それだけ、ユウに良く思われたかったのだろう…。
いい加減、ユウのことなんて諦めれば良いのに…という八つ当たりの気持ちもあり、小さな嘘をつくことに罪悪感は無かった。
でも彼女が諦めて、女子校に行くと言い出した時は、焦ってユウをだしに引き留めてしまった…。
どうせユウは朝練があるから、そう会うこともないだろうと高を括っていたのに、意外とテスト期間などで電車の時間がかぶることが多かったのは、想定外だった。
俺と彼女が一緒に通学していると、くされ縁のユウが話し掛けてきて、ユウと彼女に接点が出来てしまった…。
でもせっかく彼女と一緒に通学出来るようになったのに、それを止めるのも嫌だし…と迷っているうちに、いつの間にかユウと彼女がお互い下の名前呼びに変わっていた。
付き合いの長い俺でさえ、タカナシさん呼びなのに…。
もちろん、すぐに俺もリンちゃん呼びの許可をもらった。
彼女の俺の呼び名は、溝沼くんのままだけれど…。
『リンちゃんって、何か真面目でいつも一生懸命な感じで良いよね』
普段、女子のことを褒めたりしないユウが、リンちゃんには好感を持っているようだ…。
このままでは、両思いになってしまうのではないか?と危機感を感じた俺は、またしても彼女に嘘をつくことにした。
『最近、ユウとは結構話せるようになったみたいで良かったね。
ところで、この前ユウと話してたんだけれど、あいつは真面目なタイプの子より、ちょっと予想外の行動をしてくれるような面白い女の子に惹かれるらしいよ…』
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。
今回、溝沼君視点のため、お話は短めです。