冷酷王子のはずが何故か溺愛してきます。
特に深みはありません。
ひたすらに、避けてた王子様に溺愛されるおはなしです。
沢山の貴族達が集う王城のパーティー。
ご令嬢達が少しでも目立とうと綺麗に着飾り、王子にうっとりとした視線を投げかける中、何とか壁との同化を図ろうとしている者が一人。
それは私こと伯爵家の令嬢アンリエッタ。
確か小説の中では家族とはぐれて戸惑っている所を王子に腕を掴まれ、「こいつでいいだろう」と、
突然王子の婚約者にされてしまう所からストーリーが始まっていたはず。
何としても冷酷王子の婚約者になる事を回避しなければ!
妻を得なければ王になれないので、王になる為だけにたまたま近くに居たアンリエッタを妻に迎え、結婚式の後はひたすら放置。
周辺諸国との戦に明け暮れ、血濡れの冷酷王と呼ばれる。敗戦国から送り込まれ姫達でどんどん膨れ上がる後宮に全く興味を示さないBL小説物。
そして、放置された正妃は送り込まれた姫達のストレスのはけ口にされると言う‥‥。確かそんなんだった。
何でそんな小説を読んだのだったか‥‥‥。
あぁそうだった、確か仲の良い友達に勧められ断れ無かったのだった。そして、借りてしまったからと律儀に読んだのだ。
父と母と兄と共に入場し、一通りの挨拶周りを終え友達と話してくると家族と別れたのがつい先程。
王子を見失わない様に視界に入れつつ、適度な距離を取る。これがアンリエッタに出来る唯一の回避方法だった。何せこの不確かな記憶を思い出したのは、つい昨日‥‥‥。せめて、もう少し早くに思い出せなかったものか。
思い出すまでは、アンリエッタも他のご令嬢方と同じく何とか王子の目に止まれないものかと、気合を入れてドレスを選びウキウキとしていたのだ。
ドレスも出来る事なら壁と同系色にしたかった‥。
などと、悔やんでも仕方が無い。
とにかく、この数時間を何とか逃げおうそう。
そう思いつつ、王子の姿を目で追うと。
何故か真っ直ぐにこちらを見つめて歩いてくる。
人々の姿がモーゼの様に割れて道を王子に明け渡す。
はて、モーゼとは何だったかしら?思わず現実逃避し掛けたが、さらに王子が近づいてくる。
このままでは不味いと、壁伝いに逃げようとするが
一足遅く。
目の前で跪き。
「アンリエッタ嬢お慕いしております。どうか、私と結婚して下さい。」
胸に挿していた真っ赤な薔薇を差し出して、花の鮮やかさが移ったのか頬を紅く染めた麗しの王子が私を見上げている。
嘘でしょ。嘘でしょ。嘘でしょ〜〜〜。
声に出せぬ悲鳴を上げ固まるアンリエッタ。
顔色は青くプルプルと震えている。
慌てて駆け寄って来た家族。
「申し訳ございません。あまりの嬉しさに声も出ない様子でして。」
父が冷や汗をかきつつ謝罪する。
「いや!突然の事に驚くのも無理はない。
この後、話す時間を頂けるだろうか?」
父が了承の返事をするやいなや、しっかりと腰を抱かれエスコートもとい、連れ去られる。
たっ助けてお父様。うるうると父を見つめるも父には目を逸らされて、母は何度も一人で頷いており、兄は口も目もまん丸と開けて固まっている。
兄は次期領主である。次代の伯爵家はあんなで大丈夫だろうか。
あぁ、兄の心配よりも自分の心配をしたほうが良いだろう。
「あの殿下、どなたかとお間違いでは御座いませんか?殿下とお近づきになった事は無いと記憶しておりますが‥‥‥。」
どちらかの高位のご令嬢と間違っちゃいませんかーと問いかけてみると。
「あぁ、アンリエッタ嬢。私が貴方を見間違う筈がありません。その美しい瞳に今宵はどうか私だけを映して頂けませんか。」
イケメンの破壊力。。。
いかん、意識が一瞬飛んだ。
「あっ、あのっ、私の瞳はよくあるグリーンの瞳ですが‥‥‥。」
「エメラルドの様な美しい瞳に、あぁ私が映っているなんて。くっ。」
白い手袋をした手で己の目元を覆い、天を仰いでなにやら呟く王子。
ありきたりな瞳を宝石に例えられ、慌ててしまいふるふると持ち上げた手をさっと握られ。
「あぁ、何と華奢な手。壊さない様に丁寧に扱わねば!!!」
ぐっ。真剣なイケメンご馳走様です。
あぁそうじゃない。
気をしっかり持たねば。
冷酷王子の妻にされ、他国の姫達にいびられる日々が待っている。
何とかせねば。
「殿下、やはりどなたかとお間違いでは御座いませんか?」
「いえ、私が愛しのアンリエッタ嬢を間違う筈がございません。どうか、殿下などと他人行儀な呼び方はせず、これからはルカとお呼び下さい。」
「めっそうも御座いません。私などは殿下とお呼びするのも憚られます。」
「あぁ愛しのアンリエッタ。どうか私の事はルカと。」
くっ、急に距離を詰めて来やがった。
このままでは、逃げ道が。
「いえ、殿下。私などは伯爵家の者ですし。」
「婚約してしまえば、貴方も準王族ですよ!」
キラッキラの笑顔で言わないで欲しい。
準王族になんてなりたくないの。
あーせめて半年早く思い出していれば、婚約者を見繕って逃げられたのに。
あれよあれよと言う間に、王様と王妃様に紹介され。
「彼女以外との婚姻は考えられません。無理だと言うなら継承権を放棄し彼女と一緒になる所存です。」
て、勝手に言い切っちゃって!!
あれよあれよと言う間に婚約の書類が出てきて。
私の意見は〜なんて叫ぶ間もなく。
その日の内に婚約が整ってしまったのでした。
チーン。
なんならそのまま王宮内に部屋を用意されそうになり、流石にそれは‥‥‥と王妃様が阻止してくださいましたが。
家の両親はただ頷くだけの人形と化し、全く役にたちませんので、王妃様本当にありがとうございます。
でも、出来れば婚約も阻止して欲しかったです。
何はともあれ、家に帰って来ることは出来ました。
もう、考える気力もありません。
今日は思考を放棄し、明日改めて家族で話し合う事にし皆すぐに休みました。
次の日の朝、まだ眠っていたかったのですが。
何やら邸内が騒がしくて目覚めました。
その騒がしさに巻き込まれ現在の私は‥‥‥‥。
「あぁ、愛しのアンリエッタ。
貴方に会いたくてたまりませんでした。」
イケメン王子のキラキラスマイルを浴びております。
えぇもう、何でしょうこれは笑顔の暴力では無いでしょうか?
まさか、まさか誰が朝っぱらから王子が訪ねて来るなどと思いますか?
確かに今日は少し寝坊しましたけれど、昨日を思えば仕方の無い事だと思いませんか?
先触れは出した?
10分後に到着!?先触れの意味???
今日もキッチリバッチリときまっている王子に対し、侍女達に高速で身支度を整えて貰い、王子がお待ちですっ!と追い立てられる私の身にもなって欲しい‥。
もう、本当になんなの?
婚約した後は式まで放置。
更に式の後はずっとずっと放置のはずですよね?
何故に、結婚後の家族計画についてキラッキラの笑顔で尋ねられているのでしょうか?
思わず遠くを見つめて現実逃避をしても仕方が無いと思いませんか?
そしたら、そしたら私のお腹が‥‥‥ぐ〜っと鳴ってしまいました。
仕方が無いじゃないですかな?
だって、まだ、朝食どころかお茶の一口すら口にもお腹にも入れて居ないのですから。
「おやっ?もしやアンリエッタは朝食がまだでしたか?では、こちらを。あーーん。」
‥‥‥‥。
えっっと、これはどうやって回避したら‥。
無情にも更に私のお腹が、ぐ〜〜〜。
えぇーぃ、ままよ!
やけくそで、美味しく頂きました。
美味しいサンドイッチでした。まぁ我が家の味ですけれでも。
それから暫く、ひたすら餌付けされるの図‥‥。
「朝食は健康の為にもきちんと食べた方がいいですよ!まぁそんなアンリエッタも可愛いですが。」
誰のせいで食べられなかったと思っとんねん!
と思わず突っ込みましたとも。えぇ心の中ですが。
蕩ける笑顔で私を見る王子様。
意識を飛ばしかける私。
何とかこの時間を乗り切り、仕事があるからと帰る事になった王子。
何故か私も連れて行こうとする王子。
えぇ、もちろん全力で遠慮しましたとも!
絶対に行ってなるものかと言う気迫に満ち溢れていましたね!
2度と帰って来れなくなりそうで怖いですからね。
こんなやり取りを、1週間も続ければ慣れてくると言うもの。
王子様、気が触れたんじゃ無いかと思っているのは私一人の様で。
あの、冷酷王子が愛を知って人間になったと囁かれて居るらしく。
王様、王妃様を筆頭にとても喜ばれて居るそうです。
王子だけでなく、ありとあらゆる方面からギッチギチに固められ。
通常婚約迄に1年。婚約してから、式の準備に最低1年の筈が。
色々すっ飛ばして、半年後には結婚式を挙げてました。
もう、私は流れに身を任せる流木の如しです。
王子がデザインしたと言うウエディングドレスがあまりにも私に似合っており遠い目になったり。
用意された部屋が、ことごとく私の好みで。
これまた遠い目になったり。
王妃教育の為の教師陣は全て女性で無くては嫌だとごねる王子を説得したり。
朝から執務室に行こうとしない王子を説得したり、それならば私ごと執務室にと言い出す王子を叱ったり。
毎日忙しく過ごしています。
今だに冷酷王子は何処に行ったと叫びたくなる事も度々有りますが。
「美しいアンリエッタ。」
「可愛いらしいアンリエッタ。」
「愛おしいアンリエッタ。」
「僕のアンリエッタ。」
等々、毎日愛を囁く王子に、慣れられず意識を飛ばしかけながら。
楽しく奥様LIFEを楽しんでいます。
ルカ様お読み下さった皆様にお礼を!
あぁ、アンリエッタがそう言うなら。
本当は可愛いアンリエッタを皆に見せたくは無いのだが。
ルッルカ様!何をっ!!
真っ赤になるアンリエッタも可愛い!!
‥‥‥‥‥‥‥。はっ、今、意識が一瞬飛んでました。
多分永遠にこんな感じの2人です。
お読み下さりありがとうございました(●♡∀♡)