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短編集

爆裂! 紙飛行機烈伝!!

作者: 幕田卓馬

 その紙ヒコーキは校庭のフェンスを越え、隣の田んぼへと落ちていった。


「飛距離134メートル! すごいよ、村山くん!」


 誰もが両手を突き上げ、昼休みの校庭は熱狂の渦に包まれる。


「村山じゃなくて……『マーヴェリック』だ」


 マーヴェリックは口の端を上げて、舎弟が拾ってきた愛機『トムキャット』を撫でる。


「さて、お前にこの飛距離を上回る事が出来るかな?」


 大袈裟に振りかぶって指差した先――そこには奥歯を噛み締める飛田ひだ自越斗じぇっとの姿があった。


 金田北小学校の最強の紙ヒコーキを決める昼休みイベント『ゴールデンカップ』も、佳境に差し掛かっていた。

 ジェットがマーヴェリックの飛行距離を上回らなければ、その時点でマーヴェリックが優勝だ。


(テツオ、俺に勇気をくれ……)


 ジェットは遠い空に親友の姿を描く――



   *   *   *



「このヒコーキを、君に託すよ……」


 ベッドに横たわったテツオは、震える指先で折り上げたマシンをジェットに手渡した。


「これは?」


「これは……僕が命を賭けて産み出した、最強のマシン……紅蓮レッド・不死鳥フェニックスだ……」


「レッドフェニックス……」


 テツオの指先は燃え上がるほどに熱かった。ジェットは、彼の手のひらで燃える情熱の炎を受け継ぐように、手の中の真っ赤なマシンを見た。


「これで、勝ってくれ! 勝って……ゴホッ! ガハッ! グハッ!!」


「テツオ! しっかりするんだテツオ!」


(テツオ、俺、絶対に勝つよ……!)



    *   *   *


 

「テツオから受け継いだこの『熱』が、俺の身体を滾らせる!」


 ジェットはテツオから譲り受けし『レッドフェニックス』を掲げた!

 その炎の化身のようなマシンに、皆が目を奪われる。


「あれはテツオくんの……完成していたのか!?」


「テツオって、あの一昨日からインフルエンザで休んでいる!?」


 そんな外野の声など、今のジェットには聞こえていない。全身が燃えるように熱く、更には頭痛と倦怠感と鼻水が彼を襲う。


 ジェットは右腕を振りかぶり――


「飛べええええ! フェニックスうううう!」


 振り下ろした右腕は光速を越え、激しい摩擦熱でフェニックスは燃え上がった。


 それはまるで、真の不死鳥。


 爆炎を纏い、火の粉を散らし、青空を飛ぶレッドフェニックス――


 空を突き破る歓声は、やがて感嘆の溜め息に変わり、静寂へと還る。


 その静寂を穿つように、審判の鈴木が叫んだ!

 

「すごかった……すごかったけど、燃え尽きちゃったから失格!!」


 そりゃ、まあ……当然だった。

 

翌日、ジェットはインフルエンザで学校を休んだ。

そしてその3日後に、テツオは元気に登校したのだった……

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― 新着の感想 ―
真面目な話が続く中の、突然のナンセンス熱血展開で、「なんじゃあ」と笑ってしまいました。 熱を使って上昇気流を起こす筈だったのですよね?
失格にインフル…(;´Д`) 踏んだりけったり。笑っちゃいけないけどかわいそう(笑)
 季節感が有って面白いオチとしてもも持ってくるところにセンスが光りますね。    アツい男同士の友情の中にクスッと笑いを入れるのが、とてもいいアクセントになっていて読んでいて楽しかったです。  紙飛…
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