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再会の縁

境界の街での日々が少しずつ過ぎていく中、稔は人々と触れ合い、さまざまな景色を目にすることで、少しずつ自分の心の奥深くにあった迷いが和らいでいくのを感じていた。しかし、答えがすぐに見つかるわけではなかった。


ある日、境界の広場でひときわ目立つ露店があった。そこには、小さな古道具が並び、どれも使い古されているような味わい深い品々が陳列されていた。稔がふと手に取ったのは、古びた懐中時計だった。見覚えがあるその時計に、不意に懐かしい気持ちが込み上げてくる。


「それを見つけたのも何かの縁かもしれないな」


不意に背後から声がした。振り返ると、そこには稔がかつての職場で一緒だった元同僚のはるかが立っていた。思わぬ再会に、稔は驚きのあまり言葉を失う。


「悠……?どうしてここに?」


「それはこっちのセリフだよ。稔こそ、どうしてこの街に?」悠は柔らかく微笑みながら、懐中時計を手に取って眺めた。「この時計、覚えてる?」


それは、二人がまだ仕事に追われていた頃、稔が悠に見せたことのあるものとそっくりだった。当時、仕事の合間に稔はこの時計を大切に扱い、いつも手元に置いていた。その姿を見た悠は「そんなもの持ち歩いて、なんだか変わってるね」と笑ったのを思い出す。


「この街に来て、迷ってるうちに偶然見つけたんだ」


「迷ってるっていうのは、あの頃から変わらないのね」悠は懐かしそうに目を細めた。


稔は一瞬、言葉に詰まったが、今の自分の気持ちを正直に話すことにした。「正直、今も何かを探しているのかさえ分からない。でも、この街でいろんな人や場所に触れることで、少しずつ何かが見えてきた気がするんだ」


悠は頷きながら、懐中時計を稔に手渡した。「じゃあ、この街で自分を探し続けるといい。この時計は君にぴったりだと思う」


そう言い残すと、悠はどこかに去っていった。再会があまりにも突然で、稔は悠にもう少し話を聞きたかったが、広場の喧騒の中に彼女の姿は消えてしまった。


稔は手元の懐中時計を見つめ、その感触を確かめながら、ふと決意を新たにした。この街で見つけられる答えは、ただ一つの結論ではないのかもしれない。それでも、自分自身の「迷い」を手に入れたことで、稔の心は少しずつ満たされ始めているのを感じていた。


広場を後にし、稔は再び境界の街を歩き始めた。



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