エセ托鉢僧
「……そういや後輩」
「なんスか先輩」
「托鉢僧って解るか?」
「――なんとなくッスかね」
「アレの偽モン出るじゃん」
「ああ、駅とかでたまに居ますね」
「俺ちっさい頃住んでた所本物が居てな」
「半世紀前スね」
「うるせぇ。そうだけどうるせぇ。
……まあいいや。
そんでその頃その辺のガキは托鉢が来ると両手でお椀作って親に米入れてもらって持ってくのよ。
んで坊さんの持ってる鉢に米入れて手ぇ合わせて拝むのな。
すっと坊さんが念仏かなんか唱えてくれんだよ」
「マジ日本昔話ッスね」
「米持ってく途中でコケてぶちまけて泣いたりな」
「なんスかそのはじめてのお使いムーブ」
「俺もちっさい時は可愛かったんだよ」
「先輩、ウソは駄目ス」
「ヒデェぞ」
「そんでそれがどうしたんスか」
「……いや、いい。
まあそんな幼少期の美しい記憶が有るもんだから、偽モンになんかちょっと腹立ってな」
「そんな腐りかけのメモリー持ち出されても偽モンも知らんでしょ」
「詩的に表現すりゃ許されるってモンじゃねぇぞコラ」
「いいから、だからどうしたんです」
「……
昨日見かけたんでいっぺん家帰って米一合ビニールに入れて持って来て、鉢にザラっとあけて手ぇ合わせて拝んでやった」
「へえ」
「なんかすげー困った顔でお経っぽいなんかブツブツ言ってたな」
「あはは、おもしれ。
今度やってみます」
「先輩!
やってみました!」
「何?」
「ニセ坊主!」
「……ああ」
「駅に居たんで学校の友達呼んで列んで一人づつ米入れて拝んでって」
「困ってたべ!」
「四人目でブチ切れてなんかわめいてどっか行っちゃいました。
まだ何人も居たのに」
「そらキレるは」
「後の方笑ってましたからね」
「そーゆーのは真顔でやらんと」
「そーいや托鉢ってアレ、さっき調べたら玄米か雑穀が正式らしいッスよ」
「え、そうなん?普通に食ってる米持ってってた。家に玄米とか無かったし。
普通無いだろ今時」
「……文鳥の餌とかダメスかね?」
「いんじゃねぇか?
ビタミンとかカルシュウムとか増強されてるし」