想い出になったひと5
それもまた事実かもしれない。
けれどアマリアは首を振る。
「大切な事象に対して失礼なことだと重々承知しておりますが、私はお聞きできたことに、嬉しさを覚えてしまいました。たとえ今だけだとしても、フレイディ様に少しでも添えられるならば、と」
フレイディは黙った。
やはりこの発言は意外だったのだろう。
ひとの辛い過去と想い出だというのに、嬉しいなどという言葉は適切ではないだろう。
でもそれ以外に表現する言葉をアマリアは思いつかなかった。
だから口に出した。
後半言ったこと、『フレイディに寄り添いたい』。
その気持ちを伝えるには、前半の説明が必要だったから。
アマリアのその言葉から、数秒が経った。
十秒以上は経っただろう。
不意にフレイディが動いた。
アマリアの手から抜け出して、手を伸ばしてくる。
次の瞬間、アマリアの体はフレイディの腕の中にいた。
ぎゅう、ときつく抱きしめられる。
どくん、と心臓が高鳴った。
腕に抱かれたことはある。
けれどこれほど強く、近く、まるで縋るようにされたのは初めてだったのだ。
しかもどうしてなのかもわからない。
混乱も混じっていた。
「アマリア……!」
フレイディの呼んでくる声がアマリアの耳、すぐ横で聞こえた。
絞り出すような声。
悲痛にも近かった。
「きみこそ、そんなふうに言わないでくれ。俺が、きみにどれほど救われたか」
お腹の底から絞り出すような声と言葉は、アマリアの思考と動きを一瞬、止めた。
これはフィオナに同じようなことを言われた。
けれど少し意味が違っただろう。
直感的にそう感じた。
その通りのことを、フレイディは苦しさ混じりの声で言ってくる。
「きみと出会ってからずっと心を揺さぶられていた。怒鳴りつけられたのすら、俺の心を刺激して、感じたんだ。ああ、生きている感情なのだ、俺にそれをぶつけてくれているんだ、と」
アマリアを抱きしめる腕に、もっと力がこもる。
もはや少々痛いくらいであった。
でもきっと、次に出てくる言葉のためだった。
「そんなふうに感じられたのは……エルシーを喪ってから初めてだったよ」




