想い出になったひと4
「それに俺は思い知った。いつのまにか、俺の中の彼女はこれほど薄れてしまっていたのだと。それもまたショックだったな」
自嘲するような響きになったそれは、違う意味での痛みだった。
彼女、エルシーのことをとても大切にしていたから。
当時、エルシー本人と共に過ごしていたときも、それが想い出になってしまったときも、きっととても大切にしていた。
ただ、時間の流れは残酷で、ひとから記憶を薄れさせていく。
それはどうしようもないことなのだ。
だけどそれがショックだったことに変わりはない。
きっとフレイディはちゃんと覚えていたかったのだろう。
彼女の存在も、喪った痛みも。
「そんな事情だ。でもアマリアにぶつけていいことでなかったのは事実だ。だから申し訳なかった」
話は終わった、という様子でフレイディはアマリアを見た。
アマリアはフレイディの表情と瞳を真っ直ぐに見て、胸がずきんとひとつ痛むのを感じてしまう。
眉を下げ、申し訳なさそうではあったけれど、また笑顔だったのだから。
こんな顔をしてほしくない。
それも自分が原因の一端なのに。
だからアマリアは、そのあとのことをためらうことがなかった。
手を伸ばして、フレイディの手に重ねる。
今はプライベートの時間だから素手の右手。
上から包んで、ぎゅっとしっかり握った。
フレイディの目が丸くなる。
アマリアからこんなことをしたことは、今までなかったのだから。
でも今はそうしたい。
慰めだけではない。
フレイディの気持ちに寄り添いたいから。
その気持ちで触れた手は、あたたかかった。
彼は確かにここにいるのだ。
生きてここにいるのだ。
だからこそ、アマリアと出会うことができた。
その事実がはっきり伝わってくる。
「フレイディ様。もう謝らないでくださいませ」
アマリアは真っ直ぐにフレイディを見つめて言った。
戸惑った色を浮かべている、フレイディの美しい金色の瞳。
自分の気持ちを届かせたいというように、しっかり見つめる。
「大切なご事情や想い出を話してくださって、ありがとうございます。思い出されるのはお辛かったと思いますのに」
静かに話した。
今度はアマリアが気持ちを伝える番だ。
フレイディはアマリアがこんなことをして、こんなことを言うとはまるで予想していなかったのだろう。
ただ、目を見つめ返して黙って聞いている。
「私、フレイディ様のことをそれほど知らなかったのだと思い知りました。なんて呑気なことだったのだろうと反省しました。かりそめとはいえ、妻だというのに、不足なことでした」
「そんなことは……ないよ」
アマリアが言ったことに、フレイディは小さな声で否定を返した。




