絵の中の少女は2
確かに伯爵家ともあろう身分なら、幼い頃から婚約者がいることはなにも不思議ではない。
でも唐突な話過ぎて、まずはそこから思考が追い付かなかった。
それから次に湧いてきたのは、ずきっとした胸の痛みだった。
はっきり胸が痛んだのだ。
婚約者。
フレイディ様に……結婚する予定だった方が……。
じわじわと頭にフィオナの説明が染み入ってきて、アマリアはごくりと喉を鳴らした。
どうしよう、と思う。
心臓はなんとなく嫌な具合にどくどく鳴りはじめていた。
体が勝手に反応してしまうほどショックだったのだ、とぼんやり思った。
「そう……なの、ですか」
やっとそれだけ言った。
ほかに言えることなんてない。
だがそれはまだ甘かったのだ。
フィオナのほうも数秒、ためらったようだった。
でも心を決めた様子になり、もう一度、口を開いた。
「でもエルシーさんは、そうね、十歳くらいの頃かしら。病気で亡くなったのよ」
ひゅっと心臓が冷えた。
まるで高いところから突き落とされたように、冷たい衝撃が走る。
婚約者だった少女。
既に亡くなっていたなんて。
それだけでもう、フレイディのあの態度には思い当たった。
その通りのことをフィオナも言う。
沈痛な面持ちになっていた。
「こんなことを若奥様に言っていいとは思わないけれど……、フレイディはエルシーさんのことをかわいがっていたからね。それはショックを受けていたわ。もうだいぶ昔……十年くらいは前のことだけど」
どくどくと心臓が嫌な感覚で血を流すのを感じられる。
フレイディの感じた痛みには到底及ばないだろうけれど、それとリンクするような感情ではあるだろう。
アマリアは今度、なにも言えなかった。
一体どの点に自分がショックを受けたのかもわからない。
フレイディに婚約者がいたこと?
フレイディがその彼女に気持ちを寄せていたこと?
それとも、婚約者が亡くなり、フレイディが大変傷ついたこと……?
すべてだっただろうが、どの比重が大きいのかはすぐになんてわからない。
ただ、胸がずきずき痛かった。
フレイディにそんな事情があったこと、自分はまったく知らなかったのだ。
こんな事情、話題にするのはタブーとまではいわずとも、軽率に話せることではない。
だからアマリアも今まで聞く機会などなかったのだろう。
なんて呑気だったんだろう。
自分のこれまでに歯噛みしたくなる。
フレイディの抱えていたことも知らずに、ただ楽しく過ごしていただけだったなんて。




