傷ついた心2
ドアもきちんと閉められていなかったらしい。
今日は集中できないどころか、気が落ち着いていなさすぎて駄目だ。
アマリアは自分に呆れた。
「こ、こんにちは、お義姉さま! このようなところまで……」
アマリアは慌てて、ただし今度は失態を起こさないよう、そっとパレットをデスクの上に戻して振り返った。
だけど、フィオナはそのアマリアを見て、目を丸くした。
「血がついてるじゃない!? どうしたの!?」
言われてぎくっとした。
血!?
しかし見下ろしてすぐに理解する。
さっき飛び散った絵の具だ。
ほかの方から見ても血に見えるなんて、相当物騒な飛び散り方をしたのね。
自分に呆れつつ、アマリアは慌てて絵筆を示した。
「いえ! あの、絵筆をうっかりつけてしまっただけです! 赤を使っていたので……」
アマリアの指差すほうを見て、フィオナはやっと理解したらしい。
肩を落として脱力した。
「なんだ……絵の具だったのね。驚いたわ」
「申し訳ございません。うっかりしておりまして」
アマリアは謝った。
驚かせてしまったことを申し訳なく思う。
そのアマリアの近くまで、フィオナは入ってきた。
絵の具、しかも乾いていないものが置いてある場所なのだから、服を汚さないように慎重な足取りだ。
「肖像画、だいぶ進んだのね。前回、私が来たときより詳細になっているわ」
描きかけのそれの前まで来て、フィオナはしげしげと絵を見つめた。
絵の中にはフレイディがいる。
描き込みはもう最終段階といえるほどになっているので、表情まではっきりとわかる。
微笑を浮かべている優し気な表情。
フレイディの一番魅力的な顔。
……今は見られないけれど。
思ってしまって、ちくりと胸が痛んだ。
「はい。いつもお気にかけていただいて、ありがとうございます」
でもそれは飲み込み、にこっと笑ってみせた。
フィオナは帰省してくると毎回、アトリエへやってきてアマリアの絵を見てくれるのだ。
そして進捗を楽しんでくれているようだった。
「いえ、それはなんでもないけど……」
絵をしばらく見ていたあと、フィオナは不意にアマリアを振り返った。




