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傷ついた心1

 アトリエで黙々と絵筆を滑らせるアマリア。


 今日は一人きりだった。


 本当なら絵を描くときの大半はフレイディと一緒だ。


 たくさん描いたデッサンや下絵、色見本はあるから本人がいなくても描けないということはない。


 けれど、やはり実際に目の前に立っていてもらって描くほうが、正確に決まっている。


 でもあれ以来、フレイディと一緒に過ごす時間は減ってしまった。


 絵のことだけではなく、日常生活でもだ。


 勿論、家のことは普通だった。


 毎食、食事は一緒にするし、行きあえば挨拶する。


 軽い話もいつも通りだった。


 けれどフレイディの様子はどこか暗いもので。


 はっきり態度として表れているわけではなかったが、なんとなく、空気が淀んでいるように感じられる。


 その状態でアマリアのほうからなにか言えるはずもない。


 自分が原因だというのに。


 絵のことも同じだ。


 フレイディから言われた。


「しばらく時間が取れそうにないから、すまないが一人で進めていてくれるかな」


 そう言われて、アマリアの返事なんて「はい」しかなかった。


 それで今日も、一人で肖像画を進めている。


「……あっ!」


 絵筆をパレットに戻そうとしたとき、ぴしゃっと油絵の具が跳ねてしまった。


 アマリアのつけていた絵画用エプロンに、赤い色が飛び散る。


 アマリアは驚きでしばらく固まり、その色を見た。


 絵に使っていた赤はただの絵の具なのに、なんだか血のように見えてしまったのだ。


 ……まるで痛みで血が流れたよう。


 思って、小さく首を振る。


 そんな連想はただの妄想だ。


 はぁ、とため息をついた。


 絵筆を今度はそっと置き場に戻す。


 このエプロンはすぐ洗濯に出さなければいけない。


 服が汚れないために着けるのだから、エプロンは毎回多少絵の具がついてしまうものではある。


 だがここまでびしゃっとついてしまうことは、そうそうない。


 洗う使用人にも迷惑だろう。


 そのことまで考えて、アマリアはもうひとつため息をついてしまった。


「お邪魔するわ。アマリア、絵の進みはどう?」


 そのとき、こんこんとドアが音を立てた。


 アマリアがどきっとして振り向くと、そこには開きかけていたドアから姿を見せて、そのドアを片手でノックしていたフィオナがいる。

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