宮廷への帰宅2
けれどハンナが言ったことにより、どきんと心臓が跳ねてしまった。
「あのような嵐の中で、怖いことがまったくなかったなんて、それほどフレイディ様をご信頼されているのだな、と感じたのです」
ハンナの口調は穏やかで、むしろそうあることが嬉しいという明るい口調だった。
けれど、アマリアのほうは恥ずかしくなった。
そうだ、そういうことになる。
外は嵐。
家には帰れない。
知らない場所で一夜、泊まることになった。
なのに自分は「なにも怖いことなんてなかった」と言ったのだ。
いや、それは事実であり、なにもおかしくはない。
でもそれほどフレイディを信頼して、また頼っていたのだ。
それをハンナの言葉で思い知らされてしまった。
何故だか、無性に恥ずかしい。
「あ、当たり前よ。だってフレイディ様は伴侶ですもの」
そう言ったけれど、声は動揺してしまった。
それに自分のその発言に、これまた何故か、ちくりと胸が痛んだ。
フレイディは夫。
伴侶。
その通り。
でも実際のところは、かりそめの関係なのだ。
かりそめの関係だというのに……このような気持ちになって良いのだろうか?
そんな不安と疑問が、胸の奥を小さく刺してきたような感覚を覚える。
「そうですわね。ですからより喜ばしいことですわ」
でもハンナは結婚が契約だということなど知らない。
だから喜ばしいとしか思わないらしい。
きっとにこにこしているだろう様子で、バスルームのほうへ行ってしまった。
バスルームは掃除済みだろうし、お湯も溜めてくれていただろうから、最後の支度ができればすぐに入れるはずだ。
アマリアも自身でできる支度はしておこうと、身につけていた髪飾りやネックレスを外したり、ジャケットを脱いでソファに置いたり、そのようなことをはじめた。
けれどなんとなく気分は少しもやっとしてしまった。
この結婚は契約。
なのに自分は思いのほか、フレイディに心寄せてしまっているように思う。
こんなことで良いのだろうか。
おまけにフレイディのほうもよくわからない。
契約で婚姻した伴侶なのに、アマリアのことを想っていると伝えてくれる。
アマリアからも好意を持ってほしいと言ってくる。
更に昨日は、アマリアのことを欲しいとまで……。
思い出すとまた顔が赤くなってしまいそうで、アマリアは慌ててそこでストップしておいた。
あれを思い出すのはあとで、お風呂も休憩も済んで、一人になってからのときがいい。
そのときにまたなんだか考え込んでしまいそうなのは、別の問題として。
「アマリア様! お支度が整いましたわ」
ハンナから声がかかった。
アマリアはほっとして、「今、行くわ」と答えてそちらへ向かう。
あたたかなお風呂が楽しみになっていた。
なにも考えずにのんびりくつろごうと思う。
身を清めてもらって、あたたかな湯に浸かってリラックスすれば、きっと思考も良いほうへ働くだろうから。




