雨の立ち往生2
「どうかしたのか」
停車した馬車。
この状況で止まってしまうなど、どうもあまり良いことではない気がした。
フレイディが呟いた声もその通り、少々固くなっている。
数分が経っただろう。
こんこんっと焦ったような叩き方で、入り口から音がした。
御付きが腰を上げ、そちらへ向かって、ドアを開ける。
「フレイディ様! 馬車の一台が破損してしまいまして……」
「なんだと」
それは護衛の一人だった。
フレイディがその報告に顔をしかめる。
「まぁ……大丈夫ですの?」
アマリアもぎくっとした。
馬車の破損。
前を先導していた一台かもしれない。
誰か怪我をしてしまったのだろうか。
心配になってしまう。
「いえ、乗っていた者は無事ですが、馬が足を痛めてしまったようなのです」
御付きは表情を固くして説明した。
馬が雨のぬかるみに足を取られてふらついた。
そのために馬車が傾き、車輪が破損してしまった。
そして馬は、捻挫かなにか、とにかく走るのが難しくなってしまったようだ。
「困ったな」
フレイディはもっと顔をしかめた。
この馬車は無事だろうが、貴族の乗る馬車が遠出をする際、単体で走ることは稀なのだ。
それは万一のことがあっては困るからだ。
領内の大概は平和とはいえ、どこでも安全とは限らない。
賊のようなものがいるような場所だってあるのだ。
それを防ぐために御付きや護衛がいるのだし、それらの者なしで走るのは、防備という意味で無謀といえた。
「すぐに領へ連絡をやります。無事だったほうの馬を走らせましょう」
「頼む」
馬は二頭が一組で馬車を引いていた。
よって、怪我をしなかったほうの馬にひとが乗り、先立って伝令をするということだ。
「……このあたりに休めそうなところはあったかな」
フレイディはしばらく考えていたようだった。
その結果、出てきたのはそれだった。
アマリアはひやひやしてしまう。
山小屋や民家があれば良いが、なにもなければ馬車の中で一夜を明かすことになってしまう。
だいぶ不便だろう。
野宿というほどではないが、貴族の屋敷でしか寝泊まりしたことのないアマリアにとっては野宿同然であった。
不安になってしまう。
けれど幸い、それは免れた。
「少し走ったところに集落があるはずです。そこで一夜の宿を頼めないか聞いてみるのはいかがでしょう」
御付きが地図を手にし、ある場所を指差す。
フレイディは地図を覗き込み、その場所と規模に一応の納得をしたようで、頷いた。
「そうだな、それが良いか」
ひとまず伝令が先にそこへ行ってみることに決まった。
宿が確保できそうなら、無事だった馬車だけで向かうことになる。
アマリアたちは馬車に落ち着き直し、伝令の帰りを待った。




