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雨の立ち往生1

 時刻は既に夕方になっていた。


 そろそろ出立しなければ遅くなりすぎてしまう。


 よってチェスのあとお茶を一杯いただいて、それでおいとますることになる。


 けれどその頃にはだいぶ雨脚が強まっていた。


 ざぁざぁという音に変わっていて、窓を叩いている。


「泊まっていくかい?」


 おじが勧めてくれて、フレイディは少し考えたようだった。


「有難いですが、明日に少々仕事があるのです」


 そう返事をした。アマリアも仕事というのは聞いていた。


 なのでフレイディが少々の雨でも帰ると言ったのは、当然だっただろう。


 雨なので装備を厳重にして、挨拶をした二人は再び馬車に乗り込んで、帰路に就いた。


「強くなってまいりましたね」


 馬車で走る道中、窓のカーテンをかき分け、アマリアは外の様子を見た。


 雨脚は弱まるどころか、また強くなってきたように見えた。


「ああ。だが雷はないから大丈夫だろう」


 フレイディはそのように言い、だからこそ帰ると言った理由であった。


 雷が落ちてくるような雨であったら、流石に仕事があっても泊まっただろう。


 だが今のところ、その気配はないのでその点は安心そうであった。


「雨は不安かい。少し冷えるし、俺に寄りかかっていて良いよ」


 ちょっとからかうように言われて、アマリアは少しどきっとしてしまった。


 でもすぐに言い返す。


「怖くなどございませんわ。子供ではありませんのよ」


 雨が降ると不安など、子供扱いされたように感じたのだ。


 でもそれは少し違っていたらしい。


 フレイディは小さく笑う。


「はは、そういうつもりではなかったのだけどね」


 そしてなにをするかと思えば、手が伸びてきた。


 アマリアの右手にフレイディの左手が乗る。


 今日は正装なのだから白手袋をした手は、手袋越しでもあたたかさが伝わってきた。


 今度は違う意味でどきんと胸が高鳴った。


「夫婦なのだから、こういうときは寄り添っているものだと思っただけだ」


 きゅっとアマリアの手を握って、フレイディは言う。


 穏やかな口調だった。


 その声にまた、何故だかどきどきしてしまいながら、アマリアはなんとか言った。


「そういうものなのでしょうか」


「そういうものだとも」


 しれっと肯定してくるフレイディ。


 それが本当のことなのか、今のアマリアに確かめるすべはなかったのだけど、ただ、確かなことがあった。


 それは手を包んでくれているフレイディの手のあたたかさは、心地良いものだったということだ。


 手という部分に触れられれば、嫌悪を伴うこともある。


 信頼していない相手であれば、あまり触れられたくない場所だ。


 でも嫌だなんて思わない。


 それどころか胸は心地いい意味で騒いでしまうし、あたたかさには安心した。


 だからアマリアは、子供扱いでも、夫婦としてでも、どちらでもいいか、と思ってしまった。


 激しい雨の中でも、触れ合った手があたたかくて、馬車の中は穏やかだったのだけど。


「……っ!? なんだ!?」


 急にがくん、と馬車が揺れた。


 急停止する。


 フレイディが声を詰め、アマリアの手をぎゅっと握った。


 アマリアも驚いてしまった。


 あまりに急に止まったので、前に傾いでしまってそれにひやっとしたくらいだ。

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