好きになってほしい4
その通りのことをフレイディも言った。
少し小さくなった声のトーン。
さっきよりずっと近い場所で、アマリアの耳に届いた。
「俺のことを好きになってもらうって言ったじゃないか。早く好いてもらいたいんだよ」
フレイディの低めながら穏やかな声音が耳に入る。
アマリアの鼓動はとくとくと速くなってきてしまった。
確かに初夜のとき、フレイディにそう言われていた。
フレイディとしては、『好きになってもらう』ための一環だったのだろう。
この、近い距離で想い出話をするということも。
つまり自分が本当に、素っ気なさすぎたのだ。
「わかりました。理解が及ばずに申し訳ありません」
どきどきする気持ちはあれど、アマリアはそう言った。
フレイディのことを好いているなんて、もうとっくにそういう気持ちなのに、いまいち伝わっていない、と思う。
いや、違うのだろうか?
自分のこの『好いている』という気持ちと、フレイディがこちらに求めてきている『好き』はもっと違ったものなのだろうか?
アマリアはよくわからなくなってきてしまった。
ただ、今はっきりしているのは、ひとつだけだった。
「さ、フレイディ様。続きに戻りましょう。お夕飯までにもうひと区切りまで行ってしまいたいです」
またしてもビジネスライクなことを言ってしまったアマリア。
フレイディはしばし固まり、あのときとまったく同じようにがくっとした。
「きみは本当にドライだね……」
残念だ、というように言われたけれど、アマリアとしてはよくわからない。
「もうわかっておられるでしょうに」
それを承知で、好いていると言ってくれているだろうと思ったのに、やはり少々違うようなのだ。
「そうだけども」
フレイディは肯定したものの、その口調には満足も納得もなかった。
元通りの場に戻って、ポーズをつけたフレイディ。
アマリアもキャンバスに向き直って、絵筆を再び走らせはじめた。
色を乗せるのには真剣だったけれど、なんとなく、頭の中には浮かんでしまった。
私はもう少し、なんとかしたほうが良いのかしら。
なんとかって、それ自体がよくわからないのだけど。
もう少し……そう、恋物語で読むようなかわいらしい反応をするとか。
そういうものを覚えたほうがいいのかしら。
そこを考えてしまうあたりが、アマリアの少し変わり者といえる点だっただろう。
恋に興味の深い年頃の女の子であれば、そのようなことはきっと考えないのだから。
ただ、きっとそれは仕方がない。
アマリアの性質として、恋はあまり大きな問題ではなかった。
そもそも恋物語を読むよりも、絵画の図録を眺めているほうがずっと好きな子供時代だったのだから。




