私の知らない貴方4
「おばあさまったら! どうせ私は繊細でないわ」
「そうは言っていないじゃない」
フィオナは膨れたけれど、きっとアマリアと同じで、ジェシカがどんな心づもりで言ったかはわかっているだろう。
ポーズだけといった様子だった。
その様子に、ジェシカはまたおっとりと笑った。
「でもアマリアの絵は本当に素敵だと思うわ。見せてもらったサンプルも素敵だったし、それに……」
笑いも一段落して、フィオナが不意に少し違うことを切り出した。
アマリアは改めて言われたことを、不思議に思う。
「フレイディがあんなに嬉しそうに絵を見せてきて、話してくるなんてだいぶ久しぶりだったの。明るい様子でいてくれるのが嬉しくてね」
フィオナの口調は穏やかだった。
おかしなことを言ったわけでもなかった。
なのにアマリアはなんとなく、うっすらと暗い空気を感じてしまった。
一体何故なのかはわからない。
良いことと言われているのに。
聞こうかと思ったけれど、それより先にジェシカが言った。
「そうね。アマリアのおかげね」
しかしそれもまた少しおかしなものだった、とアマリアは思った。
内心、首をかしげてしまう。
これはまるでフォローするよう、と感じてしまったのだ。
話はすぐに違うほうへ行った。
そのあとの話も楽しかったけれど、アマリアはどうも少し心に引っかかった。
解散になって、フィオナと一緒にレオンを小屋へと送り届けて……。
一人になってから、なんとなく考えてしまった。
『だいぶ久しぶりだったの』。
考えた結果、引っかかったのはここではないか、と思い当たった。
久しぶりということは、『そうではなかった』期間が、少なからずあったということではないだろうか。
つまり、フレイディ様が『明るくなかったとき』があるということ……?
それに思い当たったアマリアは、さっき少し、数秒だけ暗くなった空気を理解した。
もしこれが推測通りなら、暗くなって当たり前のことであった。
なにか過去におありなのかもしれないわね。
帰ってきた自室でそんな結論になったアマリア。
しかしそんなことは当たり前だろう。
もう交流は数ヵ月になり、結婚してからももう半月は経つ。
それでも生まれたときから一緒にいるフィオナやジェシカに比べたら、微々たるものにもほどがある。
知らないことがまだまだあっても、それが自然だ。
引っかかったけれど、アマリアはそう大きな問題とも思わなかった。
これからきっと知っていく機会もあるだろう。
もしくは知ることにならなくたって、別に構わないと思う。
なにしろ契約妻なのだから。
そこまで踏み込むことは求められない。
それに今のフレイディが明るく過ごせているなら、きっとそれだけでいい。
自分が知っているのはそれだけでも、支障ないし、かまわない。
でも『フレイディにはまだ自分の知らないことがたくさんある』。
そう知ってしまったことが、なんとなくちょっと寂しいように感じてしまった。




