肖像画・製作スタート!2
衣装の構造の理解は数日で終わり、次はデッサンに移った。
何枚か描いてみて、要領を掴むのだ。
つまりまだまだ下準備段階。
しかしこれが本番の出来に影響してくるので、大切な作業のひとつといえた。
「こうかい」
アマリアの指示通りに、フレイディは立ち、ポーズをつける。
アマリアは少し離れたところに置いた椅子に腰かけて、「もう少し右を向いてくださいませ」とか「いえ、視線はこちらへ向けたままで」とか、様子を見つつ、要求する。
肖像画についてはアマリアが主導する形なのだから、フレイディは素直に従ってくれた。
そんな調子でデッサン初日は数時間で終わった。
クロッキー帳に描いたデッサンはどちらかというと、ざっくりしたもの。
ここから徐々に詰めていくのだ。
「ああ、やはり想像通りだ。アマリアの絵は下描きでも特徴的だし、魅力があるよ」
アマリアの渡したクロッキー帳をしげしげと見て、感嘆した声をフレイディは出した。
「こんなにざっくりしていても、ちゃんと俺だとわかる。すごいよ」
素直な感嘆と褒め言葉に、アマリアは少々の自慢に思う気持ちと、それ以上の純粋の嬉しさから「光栄です」と小さく頭を下げる。
「それに、アマリアに描いてもらえるのは別の意味でも良かったな」
そのあとフレイディは付け加えて言い、アマリアはなんの気なしに「なんでしょう?」と受けた。
しかしその理由には、脱力してしまう。
「きみの視線を全身に感じるし、それ以上に、俺だけを見ていてくれるのに喜びを感じてしまうからね」
また、こういう類のことを。
アマリアは思い、肩をすくめた。
「描くのですから当然です」
その反応にも、フレイディは引く様子を見せない。
「そうだが、事実だろう」
「そうですけども」
更に言われて、アマリアもそう答えざるを得なかった。
本当に困った方、とここばかりは思う。
これではまるで、フレイディ様は私に好意があるからご依頼してきたよう。
そう思ってしまうのだ。
そんなはずはないのに。
だって二人を繋げているのは愛とか恋とかではなく、肖像画とその完成。
それだけだ。
アマリアはそう思っていたが、実のところ、その見解は少々ずれていただろう。
フレイディとて、一人の男性だ。
しかも独身で年頃の男性だ。
そんな彼が、同じく年頃の令嬢を家に招き、契約としてでも婚姻関係になるのだ。
そういった気持ちがまるでないだろうと推測してしまったくらいには、アマリアはまだ恋というものを知らず、また楽観しすぎているといえるだろう。




