溺愛の予兆……?3
「駄目かい」
フレイディが少し小さくなった声で、どこか甘いような響きで言い、そっと顔を寄せてきて、アマリアの羞恥は限界に達した。
パンっとフレイディの手を振り払う。
フレイディがちょっと顔を引き、目を丸くした。
「駄目ですっ!」
きっぱり言った。
心臓の鼓動は収まらないけれど、それでもフレイディを、きっと睨んだ。
「私はあくまで肖像画を描きに参りましたのよ! 本当の夫婦ではないのですから、駄目に決まっております!」
更にきっぱり言った。
だって、好き合って結婚するわけではないのだ。
そのようなこと、する可能性なんてアマリアの意識にはまったくなかった。
「なんだ、そういうつもりか……」
フレイディの眉が下がった。
残念だ、惜しい、という表情になり、でも一応、手は下ろしてくれた。
「なんだと思っておられましたの!?」
アマリアとしては予想外だった。
その通りのことをフレイディに向かって言う。
フレイディは「降参だ」というように、両手を胸の前に上げた。
「わかった、わかったよ。俺が性急だった」
なのに言われたのはそれ。
アマリアとしては、胸がどくんと高鳴る気持ちと、まったく伝わらないもどかしさを両方感じてしまうことだ。
「いつかその気にしてみせよう」
更にそうも言われて、アマリアの胸に、予感が浮かんだ。
これは肖像画よりも、契約結婚よりも、厄介なことになりそうだ。
もはやここまで何度感じたかもわからない予感は、きっとその通りになるのだろうと思ってしまう。
だって今までもすべてそうなってきたのだから。
私、素直に受け入れて、結婚もお引越しも受け入れて良かったのかしら。
そんなふうに思ってしまったのに、もう遅い。
「さ、長々すまないね。お茶でも飲んで休憩しようか」
さっきのことなどなにもなかった、もしくはなんでもない、という笑顔と声のフレイディ。
しれっと言われて、アマリアは「……はい」と言うしかなくなってしまった。




