正式依頼と契約結婚3
「政略結婚は知っているだろう?」
言われて、アマリアは戸惑いつつも頷いた。
「え、ええ。貴族ではよくあることですわね」
アマリアの反応を良いものだと思ったのか、フレイディはにこっと笑う。
「それと似たようなものだ。互いの利害を一致させるために契約として婚姻を結ぶことだ」
「はぁ」
しかし説明には、気の抜けた声が出てしまった。
利害の一致。
それを頭に思い浮かべて、この突拍子もない展開の理由が、やっとわかるような気がしたのだから。
その通りのことをフレイディは言う。
「つまり、私はアマリア嬢に絵を依頼する。アマリア嬢はそれを描く」
完全に私が描くと決定しているのですが!?
アマリアは心の中で突っ込んでしまったが、それをよそに、フレイディの説明は続く。
「通うのは難しい、だからこの家に住まわそう。そして住むとなれば、噂どころではなくなるから、結婚したという体にしてしまって、一緒に暮らす理由付けをしようということだ」
くらり、と頭が揺れた。
この方はぶっ飛びすぎでしょう、と呆れるどころではなくなる。
どうしてそういうことになるのか、と言いたい。
だが一応の理屈は通っている。
おまけに『肖像画をアマリアに依頼する』という点ではなんら無理がないどころか、自然にもなる。
すべての問題が片付くのだ。
でもだからといって、契約といっても結婚。
簡単に受け入れられるはずがない。
なのにフレイディのほうは、すっかり乗り気になってしまったらしい。
アマリアの手を優しく、でもしっかり握り、にこにこして言う。
「あくまで契約なのだから、絵が完成するまででかまわない。そうだね、どのくらいかかるだろうか」
聞かれて、アマリアはここだけはつい、ごく普通に絵を描くスケジュールを計算してしまった。
数秒考えて、口に出す。
「大きさにもよりますが、なにしろ全身を細かく描くのですから、一年はかかると思いますわ」
「そうだよね」
普通に答えてしまい、相槌を打たれてからやっとはっとした。
もっと時間がかかると言えば良かった。
それなら不都合だからと断られるかもしれなかったのに。
アマリアは悔やんだが、もう遅い。
フレイディはにこにこしたまま、決定してしまった。
「ではひとまず、一年間ということで。お父上には私から話をしよう。勿論、上手く言っておくよ」
もうなにを言っても反論にならない。
通じてはいるのに、すべてがフレイディの都合良い結果にしかならない。
アマリアは上機嫌になったフレイディによって、契約結婚をすることに同意するしかなくなったのだった。




