契約の残り時間2
「そうですのね。お気を付けていってらっしゃいませ」
けれど追及することでもないと思ったので、アマリアはにこっと笑ってそう言った。
フレイディはアマリアのその反応に、少々苦笑いを浮かべる。
「寂しくないのかい」
そう聞かれたけれど、アマリアは首をかしげてしまった。
「どうしてですか? たった一日のことでしょう?」
それもまたドライなことであったが、どうやらフレイディの言いたかったことは、別のところにあったようだ。
フレイディはアマリアから視線を逸らす。
手にしたティーカップに視線を落とした。
「俺は寂しいよ」
ぽつりと言われたこと。
アマリアは最初、よくわからなかった。
お出掛けが寂しいなんて、どうして今回に限って、と思ってしまったのだ。
だがすぐに、少し違っていることを思い知らされる。
「アマリアとこうして過ごせるのは、あと一ヵ月足らずだなんて」
フレイディが続けたことによって知った。
『寂しい』が指していたこと。
それはお出掛けという事実だけではない。
その中にある、『二人が離れる』ということが問題だったのだ。
明日と明後日のものは、たった一日のことだろう。
でもこの日常から離れ、別々に過ごすようになるときはもう、すぐそこまできている。
フレイディが言ったのは、それに関する寂しさという気持ちだ。
「それは……、そうですわね。私もそう思います」
アマリアは同意した。
その気持ち、確かに自分の中にもある。
ただ、耐えがたいという気持ちではないだけで。
そうあるものと目の前にあるのであれば、受け入れるつもりでいた。
だってそれが約束。
たがえるほうが不誠実でみっともないだろう。
アマリアはそのように思っていた。
でもアマリアの同意に、フレイディは、ぱっと顔を上げた。
ティーカップをテーブルに戻す。
「本当かい。俺がいないと寂しいかい」
まるでレオンがアマリアにじゃれるときのような、手放しで明るい様子だった。
アマリアはその単純な変化に、くすくす笑ってしまう。
「それはそうですわよ。仮にも想うお方ですわ」
「『仮にも』は不要の気がするが……」
言い方はフレイディから勢いを奪ってしまったようだったが。
しかしこれがアマリアだ。
フレイディは満足と、少々の消化不良が同時にあるような表情になり、空いた手をこちらへ伸ばしてきた。
アマリアの肩に触れる。
ちょっとどきっとしたものの、もうだいぶ慣れたのだ。
アマリアは自分からも動いて、フレイディに肩を抱かれる形に収まった。
ことりとフレイディの肩に頭を預ける。
ふわりと香水の良い香りが漂った。
心地いい、と素直に思った。
そしてこの心地いい存在がそばからなくなってしまうのは、やはり寂しい。
そうとも思った。
ある意味、実際に触れて、実感として感じることで、心にある気持ちが浮上してきたようなものだ。
私は本当に良いのかしら。
そんな気持ちまで浮いてきたのだから。
でもそれを考える前に、フレイディが言った。
「だから、寂しくないようにしようと思うんだ」
アマリアの肩を抱き、しっかり自分に抱き寄せながら、小さな声で言われた。
アマリアにとってはよくわからないことであった。
寂しくないように、とは、契約をやめようということだろうか?
それで正しい夫婦として、一緒にいようとか、そういうこと……?




