契約の残り時間1
「流石にもう完成なのだろう?」
それは初夏に入った頃のことであった。
アマリアが三時間ほどこもっていたアトリエから出ると、フレイディがそこへやってきていた。
それでそのように聞いてきた。
「ええ。だいぶ満足できるようになってまいりました」
宮廷の端っこに位置するアトリエから、中心部にある部屋で休憩するべく、廊下を歩きながら、二人は話をする。
フレイディは勿論、苦笑した。
「だいぶ、なのかい。画家様はこだわりが強いな」
「立派に仕上げたいんですもの」
話はお茶に使う一室へ移り、初夏の新緑が美しい庭が見える窓際でお茶を飲んだ。
テーブルセットではあるが、近頃そうしているように、テーブルを挟んで向かい合うのではなく、ひとつのソファに二人、隣同士で腰掛ける形だ。
距離が近いので少しどきどきしてしまいはするけれど、今となっては心地良い位置であった。
アマリアは集中していた間、なにも口にしていなかったので、水分が入ってほっとひと息つくことになった。
アトリエにもなにか、飲み物を用意しておいたほうがいいかもしれない、と思った。
室内も暑くなっていくのだし、水分があったほうがいい。
ただ、暑くなり切るまえには完成となるはずなので、今更手配を考えなくてもいいかしら、とも思った。
そしてまた、『この生活はもう少し』と実感して、やはり心には寂しさがよぎるのだった。
「そうだ、アマリア。明日、少し出掛けてくるよ」
お茶も進み、お茶菓子のクッキーもほとんどなくなったところで、フレイディがそんなことを切り出してきた。
アマリアは単純な『お出掛けの予定』と思ったので軽く返答した。
「かしこまりました。どちらへ行かれるのでしょうか?」
なんの気なしに言ったことだった。
しかしフレイディは笑みを浮かべただけだった。
「秘密だ」
言ってくれたのはそれだけ。
秘密?
出掛けるということは話してくれたのに、行き先は秘密?
不思議に思ったのに、更に不思議は追加された。
「一泊してくるから、帰りは明後日だ」
どうやら泊まりらしい。
アマリアは更によくわからなくなった。
別に仕事かなにかなのだろうし、それで泊まりになるのもたまにある。
だけど、わざわざこうして言ってくるのが少々謎だ。




