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第4話

   

 典子ちゃんは、必死に状況を説明します。

 事件が起こったのは、一匹を膝の上で抱きかかえながら、もう一匹と猫用玩具で遊んでいる最中でした。急に腕と脚から猫の感触が消えたのでそちらに視線を向けると、今の今まで膝に乗っていたはずの猫がいなかったのです。

「それって、立ち上がってどこか行っただけじゃないの?」

「違う、違う! だって、私が抱いてたんだよ? それに、一瞬のうちに音もなく、私の視界の外まで行けるはずないでしょ?」

 子猫消失事件の現場は、典子ちゃんの部屋の中でした。扉は閉まっていたので室外へ出られるはずもなく、机やベッドの下も探したので、室内に隠れていないのも確認済みです。

「じゃあ、どういうこと……?」

「これは私の突飛な想像なんだけど……」

 典子ちゃんは、自信なさそうな声になりました。

「ほら、優太くん、箱の中の子猫は一匹のはずって言ってたよね? あれが正しくて、最初から一匹しかいなかったのかも。二匹目の子猫は、目の錯覚とか幻とか幽霊とか、そんな感じの存在だったのかも」

「幻とか幽霊とか、そういうこと言うの、典子ちゃんらしくないよ。なんだか怖いな……」

 実際に優太くんが恐怖を感じたのは、典子ちゃんが非科学的な仮説を持ち出したからではなく、別の理由でした。

 優太くんともう一人の優太くんが考えたように、もしもあの箱の特殊機能で子猫や優太くんが複製されたとしたら、子猫が消えたのと同様、もう一人の優太くんも突然消滅するかもしれません。塾の授業中に消えてしまったら、大騒ぎになるでしょう。

 いや、それより、もっと怖い可能性も……。

「ねえ、典子ちゃん。その消えた子猫って、どっちだったのかな? 最初から箱にいた方? それとも、あとから増えた方?」

「優太くん、まだ理解してないの? 増えたんじゃなくて、幻みたいなものだよ。幻だから消えたの。最初からいた本物は消えたりしないよ」

 最初からいた方は本物だから消えないと聞いて、優太くんは少し安心しましたが、それは典子ちゃんの勝手な解釈に過ぎません。

 なんだか、典子ちゃんの声が遠くなってきました。スマホを持つ手からも力が抜けて、そちらに視線を向けると、手の向こう側にあるはずの机が透けて見えていました。

「うわっ!?」

「優太くん、どうしたの? そっちでも何か問題発生?」

 典子ちゃんが心配そうに尋ねてきますが、もう優太くんは答えられません。

 ゴトリと音を立てて、持っていたスマホが机の上に落ちました。優太くんの意識も姿も含めて、存在そのものが完全に、スーッと消えてしまったのです。


 だから、優太くんは知りませんでした。この瞬間、塾で勉強している方の優太くんがニヤリと笑ったのを。




(「箱を叩くと子猫が二匹」完)

   

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