二度目の顔合わせ
王子の必死のアピールでシンディ嬢が戸惑いよりも好感を得て恐る恐ると歩み寄りを見せ始めたのを大人たちも注意深く見て、互いのスケジュールを合わせ事件以来二度目となる顔合わせの会の計画をたて始めるほどに至った。
シンディ嬢はソワソワと新調したばかりのドレスをまとって、母や侍女にどこかおかしなところはと何度も自身の身嗜みを確認し。
微笑ましげにマルベロ家の女性らはその日取りが来るのを見守り、逆に当主は日に日に心を荒ませ執事や侍従などに宥められ慰められて情けのない様を晒していた。
花々が咲き乱れる庭園にて。
彼女が訪れる何時間も前から支度をし、予行とばかりに侍女や侍従に挨拶やその日の装いの褒め方などの方向性がおかしくはないかと問いかけ、少しでも良い印象を持たれようと努力する少年がいた。
もちろん、一人の少女に恋する王子その人である。
この頃は未だ多少はおかしな感性を持ち合わせようともまっすぐな事には変わりはない。
懸命に学び、懸命に努力し、懸命に好かれよう、よく見せようとの思いはあった。
「この菓子をシンディ嬢は食べてくれるだろうか?」
いくら流行りで美味しいものでも女性はスタイルや肌の調子なども気にしなければならないと母が嘆いていたのを思い、油や糖分が多すぎるものは避け、果実を使いつつもさっぱりとした味わいと見た目を楽しめる飾り切りを職人に願って揃えられたものを不安そうに見つめては問題はないはずだと返され落ち着き席につく。
花々に目をやっては萎れたものやあまり良くない彩りのものはないかと視線を素早くあちらこちらと向けて、あの枝ぶりはもしかしたらシンディ嬢が花に寄った時に服を引っ掛けてしまうのではと初めて顔を合わせた時の彼女の身のこなしを知りつつも庭師を呼びもう少し手を加えてほしいと頼む。
本当に、気もそぞろでいつもにも増して少年らしいと影で皆が囁いた。
あまりにピリピリとしてきたのを見て慌てふためくものたちも出たがやがて約束の時刻が近付き、マルベロ家の面々も王城に足を踏み入れた。
先ずはマルベロの馬車と家紋のついた豪奢な馬車と御者が門を前に入念にチェックを受ける。
この段階で既に王子の他、王妃、国王にも連絡が行くのだが後者二人は兎も角として、王子が喜び破顔したに留まらず席を立とうとしどこに行くのかと問われあからさまに視線を泳がせ。
「ええと少し催したのでそちらに……」
「何を言う。どうせシンディ嬢の元に行く気であろう。ならぬ、後ほんの僅かな時間だ。男ならば大人しく座して待て」
タイミングの悪さと足を向けようとしたその先がトイレなどではなく、門より入り恐らくはマルベロ家の面々が案内されるだろう長い通路であるのを見咎められ窘められた。
国王に言われては無視もできず渋々と王子は席に戻り、言われた通りにその場でマルベロ家を、シンディ嬢を待った。
忙しない国王、王妃のスケジュールを大きく開けて王子に合わせているのも幸いしただろう。王族としての失態も未然に防がれたのを見て王妃も全くと呆れながらもこの日の陽気に合わせた茶で喉を潤し、門から中へと至り、その間にも武器などを隠し持ってはいないかなどの一般的な流れを彼らが受けてこの庭園までとする長いような短いような時を穏やかに過ごした。
そして、マルベロ家当主、夫人、シンディ嬢が庭園の入口付近に差し掛かりずらずらと護衛と侍女と様々伴いつつもこちらへと向かってくる様が伺えるまでになり、彼らも席を立った。
王族として座ったまま出迎えるのもできたが、逸る気持ちを抑えきれない頬を高揚させ目を輝かせた王子が今にも駆け出さんとしそうなのを見ては、そうもできまい。
辛うじて体裁が保てるようにと王子の気持ちを掬い、国王と王妃が率先して彼らを出迎えた。
ここに至るまでの労いとご機嫌窺いの言葉。世辞などを交えて和やかに再会を喜びその場の空気を良きものとして、ようやく王子とシンディ嬢の顔合わせである。
「久しいな。相変わらず見目麗しい」
「お久しゅうございます。殿下も、お元気そうで安心いたしました」
両親の前とあってまだ練習や確認した美辞麗句は行っていない。それでも熱を帯びた眼差しはシンディ嬢から離れず、彼のような優男然とした男に慣れていない彼女もはにかみ、視線を少し落としてあまりの好意に照れて身を縮ませ言葉が続かない。
そんな彼女でも構わず王子は前に贈った贈り物はどうだっただろうかや目の前に置かれた菓子や茶なども勧めて会話を成り立たせようとめげずに果敢に挑む。