09 品格
『ゲートルーム』で我が家へ。
正直、コイツをここに連れてきたくはなかったけど、処遇を一任って言われると、その辺に放置しておくわけにもいかないし。
シュレディーケさんたちは寝室に寝かせてきた。
詳しい話し、聞かなきゃ。
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エルサニア王国とアルセリア王国の国境にある大きな湖"ヒューネ湖"
その近くにある"ジコハ山"の頂上に、はるか昔から存在していた古木、
『老願封樹』
いつしか宿った精霊は、自らローガンフージュと名乗る。
霊格の高い精霊で、テリトリーのジコハ山のみならず、ヒューネ湖も含めた辺り一帯にも影響力、大。
精霊らしい気まぐれさはあるけれど、基本的には穏やかで面倒見が良い性格。
若い精霊や妖精たちの相談ごとを解決してあげることが大好き。
ずっと続いていた穏やかな暮らしに、ある時、少しだけスパイスとなる出来事が。
"ミス精霊コンテスト"
さほど気にしてはいなかったのに、自分が2位と知った時、今まで感じたことのなかった感情が。
何で、あんな小さな湖の精霊に負けちゃったのだろう。
精霊としての"霊格"
慕ってくれる精霊・妖精の数、
どちらも私の方が上。
何より、女性として負けているところがあるとは思えない、
絶対に。
コンテストの順位、大事なのは、慕ってくれる者の数、と質。
あの娘のファンクラブには、大精霊がたくさん。
ならば、私は、数で勝負する。
私の能力を最大限に活かして、
私を崇める組織を、
精霊界にバレないようこっそり造ろう。
まずは今度のミスコンで勝つための組織づくりの基盤とする所を選定。
手始めにツァイシャ女王の私的組織『平和を願う乙女たちの集い』に狙いを定める。
あの組織は平和的活動で各国に影響力絶大なので、まさに今回の目的にはうってつけ。
でも、接触を試みたけれど、今すぐ乗っ取るのは難しそう。
ツァイシャ女王の思想に共感して集ったのは、自分の意思を貫く覚悟のある女性ばかり。
こういう娘たちは"魅了"が効きにくいし、そもそも操り人形が活動出来るようなヌルい組織じゃない。
何より、組織全体を常に守護している圧、これが女王の霊格。
直接潜入すれば何とかなりそうだけど、
精霊の自分が派手に動き過ぎると、精霊界にバレちゃうかも。
やはり最初から自分で組織を育てよう。
組織の大きさは人材の豊富さ。
手駒が増えれば、いずれはあの組織も攻略出来るかも。
というわけで、小さなことからコツコツと。
適当に選んだ、『エルサニア城下街勤労女子婦人会』っていうユルい集まりをさらりと掌握。
"魅了"のチカラでトップに立って組織改革は成功、勢力は順調に拡大。
何だか、ツァイシャ女王様と霊格の在り様がよく似ている娘さんが来たので、この際だから利用しちゃおうかな。
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以上が、今回の騒動の経緯。
「重大なルール違反だったそうですよ、精霊としての」
えーと、なぜシナギさんが?
「『ヒメっ子クラブ』の会長さんから頼まれちゃいまして」
「神聖な"ミス精霊コンテスト"で違反行為をしている精霊がいる」
「厳罰で対処して欲しい、だそうです」
「精霊界には直接の迷惑をかけなかったのに、何がいけなかったの?」
本当に分からないのですか、ローガンフージュさん。
もし何がいけないことなのかが分からないのでしたら、
それこそがあなたが1位になれない理由ですよ。
「……」
まずは、処分保留ってことでよろしいでしょうか。
もし、シナギさんの方から要望とかあれば。
「俺は、早く家に帰って、ゆっくり休みたいのです」
「ファンクラブ会長、半端無く恐かった……」
どんな精霊さんだったのですか。
「"リスト"という名のやたらと怖いお爺さんで、この大陸を司る"精霊王"だそうです」
「創造神様……」
ローガンフージュさんのお顔が、真っ青に。