裏野ドリームラジオ
はい、今日も始まりました。あなたに未知の体験をお届けするラジオ番組「裏野ドリームラジオ」のお時間でございます。
初めての方もいらっしゃると思いますのでね、説明させていただきますが、この番組はお便りをご紹介してですね、わたしがそれに微力ながらお答えを出してしまおうという、そういう番組となります。
「ありがちな番組じゃないか」「既知の体験だわ」「表出ろ」と思われましたでしょうか。ああ、わたしの紹介するお便りの主はですね、揃いも揃って、変わり者なんでございます。
皆さんもですね、一人で夜道を歩いている時にですね、床に寝っ転がって「これだから、許せねえんだよな、どいつも、こいつも、日和ってからに」と虚空に向けて語りかける男性がいたらですね、ちょっと「ひえっ」となりませんでしょうか。
その「ひえっ」と感じるのは、つまり皆さんにとって未知だったから、ということになるわけです。でも、そういうの、皆さん、好きでしょう? 自分に関係ないトコロで勝手にやってる分には、どんな不穏な言葉も、暴力沙汰も、覗き込みたくて仕方が無くなる……というわけです。
さて、前置きはこのくらいにして、早速、一通目のお便りを紹介しましょう。
ペンネーム・田野 健斗さんからのお便り
『これは僕が十五歳のときの話です。
当時、僕は豊島第三中学校の三年五組にいたのですが、同じ組の長谷川 太一君、内田 琢朗君、小池 敦君の三人に、校内の男子トイレに呼び出されました。
トイレは手入れが行き届いてなくて汚くて、臭かったのですが、僕はそこで殴られたり蹴られたりした後、和式便器の底に思い切り頭を押しつけられました。
うっかり、便所の水を飲んで、それが気管に入ったみたいで、苦しくて、頭がぼうっとなって、でもやめてくれなくて、便所の水が赤くなったところまでは覚えていますが、それ以降は全部黒くなって何も分かりません。
その後はどうなったのでしょうか』
なるほど、最初から中々重たい話ですね。一応、豊島第三中学校について調べてみたのですが、地方新聞の片隅に男子中学生の死亡記事は載っていましたね。お便りに書かれているお三方については、ネットで名前で調べて見た限り、プロ野球選手、ベンチャー企業の社長、教師としてそれぞれ活躍されているようでした。彼らの今後のご健闘を期待しております、といったところでしょうか。
ええ、続きまして……
ペンネーム・メリーさんさんからのお便り
『わたし、メリーさん。いま、………る、あなたの最寄り駅にいるの』
うーん、自分で自分のこと「さん」付けしたりするものですかねえ。結構変わった方なんじゃないかなと思います。この番組にふさわしい変わり者とも言えるでしょう。
それでは次のお便り。
ペンネーム・アナザー・タイチさんからのお便り
『俺は昔、人を殺したことがある。大した理由はなかったと思う。
ただ、そいつが苦しむ姿が見てみたかっただけだったのに、グルになった奴がやり過ぎたのもあって、つい殺っちまった。
今でもそいつが枕元に近づいてくるが、知ったこっちゃないと思って無視してる。
だって、今だって俺は平穏無事に生きられているんだからな。
そうだろう?
あんたもそう思うよな?』
なるほど、人を殺したことがある、と。大胆なカミングアウトのように見受けられますね。きっとアナザー・タイチさんにとっては、その人は心底どうでもよい人だったということですね。
わたしの意見ですが、自分に関係のない人物なら、いくら傷ついたって構わないと思いますね。ただし、それは関係のない人に突然襲われても構わないということを意味しています。オチオチ寝てもいられません。まあ、アナザー・タイチさんの職業はプロ野球選手ということで、そうそう常人に負けることもないでしょうが……これで回答になっておりますでしょうか。
それでは四通目にいきます。
ペンネーム・メリーさんさんからのお便り
『わたし、メリーさん。いま、……てる、あなたの近くの公園にいるの』
また、メリーさんさんですか。徐々に迫っていることをわざわざ教えてくるというのは、自己顕示欲の強さによるものか、親切心によるものか、気になるところではあります。
ここから、折り返しとなります。
ペンネーム・琢野郎さんからのお便り
『しがないIT企業の社長をしている身なのだが……この世には人の皮を被った獣が多すぎる気がする。
だからオレがそいつらを飼ってやっているんだ、人様に迷惑をかけないようにな。
ああ、昔……とびきり醜いやつがいた。弛緩しきった顔、ぶくぶくと肥えた体、鈍くさい動き。すべてが目障りで、視界に入るだけで気分が悪くなるやつだった。
世間に出てもロクに生きられやしない。だからペットに命じて駆除してやった。早いうちに楽にしてやったんだから、感謝して欲しいくらいだ。
ふん、獣に人の生活は贅沢すぎると思わないか?』
有望な若手社長らしい、非常にエネルギッシュな意見が出てきました。
昨今、弱肉強食の世界は古臭い、今は共存・共感の時代だと述べる人達も多くなってきましたが、生物的な本能に訴えかける理屈が消えることはないのでしょうね。
最後の問いかけ? についてですが、獣に人の生活は贅沢というより、不便ではないかと思います。人の生活は二足歩行用に最適化されているわけですからね……なんて答えは求めてないですよね。
個人的にではありますが、まあ、他人を獣……弱者として見ても構わないと思いますよ。琢野郎さんが強者でいられるうちは、という前提付きではありますが。
続けていきます、六通目。
ペンネーム・メリーさんさんからのお便り
『わたし、メリーさん。いま、…いてる、あなたの家の前にいるの』
二度あることは、三度ある。いや、仏の顔も三度までというべきか。
メリーさんさん、そろそろ皆さんのもとに辿り着きそうな気がしますねー。
それでは七通目。
ペンネーム・あつしさむしさんからのお便り
『ボクは決して許されない罪を犯しました。
たしか中学三年の時です。悪名高いいじめっ子達と一緒に、ある男の子を痛めつけたんです。
彼には何の恨みもなかった。でも、彼をやらなかったら、今度はボクがやられる番だったんだ。仕方がなかった。そう思いながら、トイレの個室で彼の後頭部を思い切り踏みつけたんです。
すると枝の折れたような音とともに彼は動かなくなり、いじめっ子達はゲラゲラ笑いながら、ボクに後片付けを押しつけました。
ボクは彼がどれだけ「後ろ暗いコトなんて一つもなかった清廉潔白な少年」だったかを周りに広めました。
こうして、この事件は、無垢な少年に降りかかった痛ましい事故として処理されました……その際の付き合いがきっかけで、彼の妹と結婚し、今は子供とともに平穏な生活を送れています。
ただ、理由がどうあれ、ボクが十字架を背負った咎人であることには変わりありません。同じような悲劇が起きないよう、教師として、生徒に命の大切さを伝えています。
自首も考えましたが、妻子の為にも、ボクはこの罪を墓場まで持っていくつもりです』
やむを得ない事情によって、人を傷つけてしまった。あつしさむしさんの苦悩と葛藤が文面から伝わってくるようです。
しかし、この事件によって奥様に出会い、熱意のある教師として前を向くことが出来るようにもなったのもまた事実。雨降って地固まると言いますか、幸福と不幸は紙一重なものですね。
人間は普段、自身の幸福を自覚していないものです。理不尽がすぐうしろにやってきて、はじめて理解することができる……
それでは最後のお便り……うわあ、これは大変ショッキングだ。
聞いている方、別のチャンネルに回すなら今のうちだと思います。
5カウントしますので、ショックに弱い人はラジオを切るか、チャンネルを変えてください。
5
4
3
2
1
やり残したことはありませんでしょうか、それではどうぞ……
ペンネーム・名もなき警官さんからのお便り
『私がいつも通り巡回していたら、自分のことを「メリーさん」と名乗る全身黒ずくめの人物に襲われました。男かも女かも分かりませんが、片腕で私を持ち上げて、私の下腹部を刃物で突き刺しました。じたばたする私をじいっと見つめながら、ゆっくりと刃を上へとずらしていった、下腹部から中腹、ヘソ、それから鳩尾……自分の腸がゆっくりと漏れ出してきました、痛い、痛い、痛い、どうみたって、ダメだろうに、中々楽にならない、中々死ねない……そしたら、そのメリーさんが紙とペンを差し出してきて「今の自分を書いて……」「今の自分を書いて……」「今の自分を書いて……」って言ってくる』
さて、この番組も終わりの時間となりました。
未知というのは意外と近くにあるものなのです。自分に関係ないトコロで勝手にやってる分には面白がれるものですが、実は知らずに関係を持っていたり、不意にあなたに迫ってくるかもしれません。
なんたって、未知の側も同じような考えを抱いているのです。
自分に関係のない人物なら、いくら傷ついたって構わないとね。
それでは……ラジオパーソナリティはわたし、メリーさん。
いま、きいてる、あなたのうしろに