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新幹線の窓から

作者: say cheese!!!

⚠︎帰りの新幹線の中でへろへろになりながら書いた話です。

 僕は今、新幹線に乗っている。隣には誰もいない。僕は新幹線の窓から見える景色を眺めるのが昔から好きだった。

 新幹線が駅に止まった時、僕の隣に一人の女性が座ってきた。そうしてすぐ、新幹線が動き始めた。

僕がずっと窓の外を眺めていると、隣の女性が「窓の外を眺めるのがすきなんですか?」と聞いてきた。それに対し、僕は「あぁ」と気のない返事を返す。

 僕の態度に彼女は気にした様子もなく「私も」と言ってきた。

 僕は少し不思議に思った。何故そんなことを僕に言う必要があるのだろうか。チラリと隣の女性の方を見てみる。

 女性は何故か、少し嬉しそうに顔を綻ばせていた。一体何なのだろうか。

 彼女の瞳はこちらを見ている。それが、窓の外の景色を見ているのか、それとも僕の顔を見ているのか、僕には上手く判断がつかない。

──のぞみ46号──。

 ふと、彼女がそう呟いたのを、僕の耳は拾った。「今乗っている新幹線の名前だ」と僕が言うと、「私にとってはそれだけじゃない」と返された。

 僕はその返答が少し気がかりだった。それは疑問に変わり、少しづつ膨らんでいく。

 とうとう耐えきれなくなった僕は、彼女に先程の発言の意味を問う。

 それに対し彼女は「小さい頃、とある男の子に教えてもらった名前なの」

 疑問の答えを得た僕は、彼女に対する興味を急速に失っていく。「へ〜」なんていかにも興味が無さそうな返事を僕は返す。全くもってその通りなのだが。

 その時、電車が新横浜に停車する。その間、二人揃って暫く沈黙する。

 暫くして電車が動き出し、また二人揃って窓の外を眺める。

 先に沈黙を破ったのは彼女だった。「これは独り言なのだけれど」そう彼女は前置きして、一人語り始めた。

「私、小さい頃迷子になった事があるの。品川駅のホームで、右も左も分からなくてね」なんて苦笑しながら彼女は言う。確かに品川駅は大きな駅だし、小さい子なら迷子になっても仕方ないだろう。別に面白みも無いよくある話だ。

「焦りとか、寂しさとか、色々なものが綯い交ぜになった心を抱えて、ただただ半べそになって動き回ってた。けどそんな中、私と同じか少し年上くらいの男の子がね、私の手を取ってくれたの」そう言う彼女の声は少し嬉しそうだった。何とも詩的な言い回しだ。窓の外を流れゆく鉄塔を眺めながら僕はそう思う。

「それでね、彼はお父さん達が私を見つけてくれるまで近くの線路に通る電車を一つ一つ教えてくれたの。あの時は外から窓を見ていたのに、今内側から窓の外を見ているなんて、少し不思議」

 彼女は本当に楽しそうに話す。

 彼女が何を言いたいのか分からず、「初恋の話か何かか?」なんて言葉が、僕の口をついて出てきた。そんな僕の不躾な問いにも、彼女は律儀に肯定する。そんな彼女の表情が気になって、僕は彼女の方へ目を向ける。

 彼女はこちらを真っ直ぐ見つめていた。今度は確実に僕の顔を見ている。目が合ってしまったことになにやら気まずくなった僕は「だから?」とぶっきらぼうに話の続きを促した。

「それで私、その時すごい救われたの。だから、ずっとお礼を伝えたかった。ありがとう、あの時私の手を取ってくれて、ありがとうって」そう、僕の顔をしっかり見つめながら彼女は言った。僕が「何故それを僕に?」と聞けば「あなただから」と意味の分からない答えを返された。それに対して僕が問うても、彼女は微笑むばかりで答えてはくれなかった。

 そうしている内に、新幹線は次の駅に停車し、その駅で彼女は降りていってしまった。

 その後は、モヤモヤした気持ちで窓の外を眺めながら彼女の話題に挙げた品川駅のことを考えていた。

 僕がまだ小さい頃両親に品川に連れて行ってもらったことがある。あの時は初めての大きな駅だったからテンション上がったっけ。懐かしい。それから色んな電車を見たんだ。あの時は──。

 新幹線が止まる。どうやら終点の東京駅に到着したらしい。ホームを降りた辺りでふと思い出す。そういえばあの時、同い年か少し年下くらいのべそかいてた女の子を連れて行って、色々電車を教えてあげたっけ。通る電車を一つ一つ丁寧に。

 そこで僕は気づいた。あの女性の言っていた男の子と、僕のしていた事が一緒だと。

 もしかしたらあの女性はあの時の女の子だったのだろうか。

 きっとそれを確かめる術は、僕にはもう無いのだろう。僕はそう、一種の諦観を抱きながら、旅行カバンを転がした。

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