03.繋がらない情報
腹黒いって、魚のサヨリから来てるらしいですね。一つ賢くなりました。
テレレッテレー!
シューエルが 仲間に なった!▼
うん。
そして、誘導尋問と泣き落としで洗いざらい吐いちゃったよね……。でもさ、イルスもシューエルもあっさり信じちゃうのはどうかと思う。おねーちゃんしんぱい。
「メルは姉か妹かで言ったら、妹だろう。」
「そうです。精神年齢は上って言いますけど、それだけは信じられないですね。」
「そこは信じて欲しい。」
えー、じゃないよ。くっ、お姉ちゃんとしての威厳が足りなかったのだろうか?今後の課題にしよう。
それはさておき、作戦会議だ。
今居るのは、王都にあるトゥウィリク辺境伯家の屋敷。の敷地内にある、私達の秘密になっていない秘密基地だ。屋敷の使用人や、私の両親にシューエルの兄弟、後……現国王夫妻までなんでか混じって出来た、こじんまりとしつつ、しっかりした建物で、会議だ。
「ところで、一つ良いですか?」
「何?」
「その、おとめげぇむで、攻略対象という立場の者が複数いるんですよね?そしてメルは、その攻略対象の名前を知らない。」
「ええ、そうよ。」
「けれど、メルは攻略さいとなる場所で、各攻略対象の呼称は見てるんですよね?」
「……っあ。」
「そういえば、そういう事になるね。」
そうだ。
確かに、攻略対象の名前は知らないけれど、「オーメルト」の最後だけを見に行った時に攻略対象の呼称だけは見ている。
「つまりですよ?その呼称から、これからフローラ嬢が接触するだろう相手を割り出せるんじゃないですか?」
「あ゛ぁー……。」
「……フローラ嬢にがっつり付き纏う必要は無かったね。」
もしかして、今日の張り込みは無駄骨だった……?
「イルスもですよ。恐らくですが、今日あの中庭で会うのはイルスだったんじゃないですか?そんな事を言っていましたし。確定で攻略対象になっているんですから、なにかしらの行動も彼女から起こしたでしょうに。」
無駄骨だったね、これ!
いや、逆に考えるんだ……!行動して良かったんだと!行動したからシューエルが仲間になったんだ!うん、無駄じゃなかった!……そういう事にしておこう。
「じゃあ、今日は呼称からある程度、攻略対象を割り出してみましょっ。」
「そうだね。」
「はい。」
と、いう事で!書き出しました。後、分かっているのは名前も書いておいた。
──────・・・
攻略対象
呼称/名前
・王子 /イルス
・腹黒騎士 /─
・孤高の暗殺者 /─
・麗しの生徒会長/─
・ツンデレ教師 /─
・シークレット /─
──────・・・
書いてみたけれど……。
「イルス以外、誰が誰なんです……。」
「私だけ「王子」なんだね……少し、寂しいな。」
「友人曰く、正統派王子、と言うのらしいわ。だからシンプルに王子なんだと……。でも、本当に誰が誰なのか……。」
いや、まあ、ゲームってたいていは主人公が登場したら始まるものだから、フローラ様が入学して来た昨日から、ゲームの本編は始まっているんだと思う。だから、既に攻略対象は学園に居るわけだから絞れる、はず、なんだけれど……。
「この、腹黒騎士っていうのは……、まさか、俺ですか?フローラ嬢も、なんか、そんな事言っていた気がしますけど……。」
「腹黒?シューエルが?」
「シューエルは例えるなら忠犬でしょ?」
騎士だけでこれだ。
騎士家系の者は結構いる。で、腹黒っぽいのも該当者は居たのだけれど……貴重な情報源、フローラ嬢が言うなら、ゲームのシューエルは腹黒騎士なんだろう。
嘘でしょ?
私達が困った時や危機に陥った時、一番に駆けつけてくれるのが彼だ。それに、言う事は言うし……、なぜか持っている赤ん坊の頃からの、私とイルスのアルバムを持って嬉しそうに語るくらいには、私達が大好きだ。いや、本当、こんだけ大好きって言ってくれるのに仲間外れにして悪かった。
そんな彼が腹黒……。だめだ、頭の中で繋がらない……っ!
「それと、この……麗しの生徒会長って、誰ですか?いえ、分かっているんです……分かってはいるんですが……!」
「まあ、静かに見ていれば、麗しのっては、付くんじゃない、かな……?」
王立フロダシア魔法学園の現生徒会長、エンダルシア・コーエウ・バルドフェイン。
現フィエディスタ王国の宰相を務めるバルドフェイン公爵家の長男であり、私達の一つ上の学年だ。ミルクティー色の柔らかい髪色に、南国の海を思わせる様な瞳。次代の宰相と言われる程優秀であり、物腰も穏やかで、人望のある人だ。
しかし、彼は、
「エンダルシア様、笑い上戸じゃない……。」
笑いの沸点がかなり低い、笑い上戸だ。
クスクスと笑う位なら、まあ、まだ体裁を繕えただろう。しかし、彼の笑い方は、「アーッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!ヴェッ、ギャッハハハッハハ!!!」という、なんとも豪快な笑い方だ。
別にそれが悪いわけでは無い。笑い方も人それぞれだろう。しかし、「麗しの」という枕詞が付くような人の笑い方ではないと思う。どちらかと言えば、居酒屋に居るおっちゃんだと思う。
ちなみに、なぜこんなことを知っているかと言うと、フィエディスタ王国の城で次代の宰相として顔合わせをしたからだ。顔合わせが行われたのは城の庭園の一角で、待つ間が暇で、少しイルスと私とシューエルでコントみたいな事をしていた。そして、私が「伝説の剣、ここに眠る」と、木の枝を地面に刺した丁度その時にエンダルシア様が現れたのだ。
瞬間、彼は狂ったように笑い転げ、その場にいた全員ドン引きした。ツボが分からん。バルドフェイン公爵も、初めて見るその息子の姿に驚いていた。
それ以降、いくら穏やかで物静かそうな姿を見ても、私達の彼の認識は「とんでもない笑い上戸」だ。
「麗しの」がすぐに繋がらない……。生徒会長は一人だけだから納得するしかないんだけれども。
「この、孤高の暗殺者と言うのは、誰なのか……。」
「暗殺っていうのが、穏やかじゃないですね。」
「そうね……。もしかしたら、正体を隠して既に学園に潜入しているのかもしれないから、これはアルフに頼みましょう。」
「それが良いだろうね。ある程度情報は伏せることになるけれど、彼ならツテもあるし、ついでに攻略対象の監視にもなるだろう。」
アルフと言うのは、まあ、ぶっちゃけるとトゥウィリク辺境伯家と懇意にしている裏社会の者だ。
元はエノ村という所の者だったが、ある日、村が山賊に襲われたのだ。偶然、近くを通りがかった父と私が、助けを求めて逃げて来た彼と出会い、山賊を捕らえて村は半壊で済んだが……彼の両親は、亡くなっていた。
その後、村を助けてくれ、復興援助もしてくれたお礼をしたいと言った彼を、なぜか父は裏社会のボス、フェジオルに彼を預けた。父曰く、アルフには才能がある、とか。
まあ、とにかくだ。彼にはこの後、連絡を取ろう。確か、この前「しごとがこないんだよおじょー、ひまだよー」と言っていたし、良いだろう。うん。
「暗殺者はアルフに頼むとして、この……ツンデレ教師は、誰だろう?」
「そんなにツンツンしてた先生っていたかな?」
「……あっ、あの教師では?ほら、魔法実習の。」
「あ、あー、メルバン先生?」
魔法実習の担当教師、メルバン・イフォー。まだ26歳という若さで、魔法の扱いから知識、歴史など、そこらの学者先生よりも詳しい人物だ。
赴任し来たのは去年。
初めはかなり「不本意です!」と顔に表してツンツンお高くとまっていたのだが、気付いたら熱血教師になっていた。
言い方はツンデレっぽいが、行動は熱血教師。それがメルバン先生。
「でも、どうだろう?メルバン先生は確かに該当しそうだけれど。」
「うぅん……。攻略対象・仮としておこう。フローラ嬢が先生とよく接触するようなら、本決まりという事で、どうだろう?」
「それが良いでしょう。年齢的にギリギリ問題が無く、それらしい態度を取るのがメルバン先生と言うだけですし。もしかしたら、あの堅物ウェーモルかもしれませんし。」
「えぇ……ウェーモル先生ってお爺ちゃん先生じゃあ……。」
「枯れ専っていう、そういう人が好きな人も居るから可能性はゼロじゃないわよ。」
「……メルも、そういう、」
「私は同い年くらいが対象デス。」
精神年齢で考えたら30代が対象になるけど。
「今はその辺の問題は置いておきましょう。イルスは頑張ってください。それで、最後の……この、シークレットというのは?」
「……分からない。」
「分からない?」
そう、それだけは呼称も何も分からないのだ。
「それは隠しキャラっていうので、特定の条件……例えば、ゲームをクリアしたとするね。その後、もう一度始めるの。それを2週目って言うんだけど、そうしないと出てこないキャラとか、何かしらのフラグを立てておかないと出てこないとか……普通にしていては出てこないキャラって言ったらいいかしら?で、それだけは、シークレットっていう表記だけで、「オーメルト」の最後も書いてなかったのよね……。」
「じゃあ、それだけは対処の仕様が無いのか……。」
「ごめん……。」
たいていこういうのって物語の根幹とか、何か重大なモノが隠されていたりするから、気にはなったけれど、さすがに楽しみが減るかと思ってリンク先に飛ばなかったのだ。
まさか、生まれ変わって当事者になるとは思わないからね……。分かっていたら、楽しみより生存第一でネタバレ踏みまくったよ……。いのち、だいじにだよ。
「仕方ないよ。こうなるとは、誰も分からなかったしね。」
「そうです。それに、穴はあるけれど、注意するものは分かっています。そこから気を付けていけばいいんです。危機が迫ったら、しっかり駆けつけますから。」
「ちょっと、シューエル、それは私に言わせておくれよ。」
「イルスが危機に迫っても、もちろん、俺は駆けつけますよ?」
「嬉しいけれどそうじゃない。」
「……ふふっ。」
頼もしい幼馴染達だ。
分からない事は、恐ろしい。ましてや、自分の生命に関わる事だから、余計に。
けれど、未来に進むというのは、元からそう言うものだ。そこに一緒に歩いてくれる人たちが居る。なんて心強い。
「メル?」
「どうしました?」
「2人が居てくれて、良かったと思ってね。ありがとう。」
「……まだ始まったばかりですよ。」
「そうだよ。この先、10年も20年も、それよりももっと、ずっと、居れるようにするために、始まるんだよ。」
「うん、そうだね。……じゃあ、未来を掴むため。」
「そうだなぁ……平穏のため。」
「なら、俺は愛する2人のため。」
1人少々重いが……まだお酒は飲めないから、果実ジュースだけれど、それが入ったコップをそれぞれ掲げて、
「「「乾杯!!!」」」
さあ、戦いの始まりだ!
一応、最後は決まっているので、頑張って完走したい。