モンスター達との農業生活
ミーナと魔木運びを終えた後、俺は畑に向かった。
ちょうど今は、収穫を終え、土地も休ませたから元気いっぱいな状態だ。
新しく作物を育てるのに適した時期といえるだろう。
「ただ、何を育てようか迷うんだよなぁ…」
育ててみたい作物はたくさんあれど、全部をやってみるわけにはいかない。
というのも、ここで育てている作物は普通の作物…人間界にある作物じゃないからだ。
まぁ、人間界にある作物は育てるのが簡単だっていうつもりはないが…この農家で育てるの魔界側の作物は一癖も二癖もある。
少なくとも、襲っては来ないだろ?
火を噴く南瓜や破裂するトマト、どこまでも伸びる筍にあざといキャベツ……
ちゃんと面倒を見てやらないとすぐに危なくなるくらい、とにかく育てるのが大変な作物ばかりなのだ。
だが、その分味は絶品。
人間界の作物とは比べほどにならないくらいに糖度や栄養価等が豊富なのだ。
俺も最初食べた時は衝撃だったなぁ…
「とりあえず、大根とトマトにしとくかぁ」
腰につけている四角いケースを掴む。
これは、マジックボックスと呼ばれる魔具。
最大格納量は決まっているが、魔法により広い空間が魔具の中に形成されているため、多くの道具類を格納できる便利アイテムだ。
しかも、ちゃんと格納されていればイメージしたアイテムを簡単に取り出せる。
俺は、対象の種イメージしながら、ケースの蓋を開けてふる。
すると、中から対象の種袋が出てきた。
「さて、植えるか」
基本は、普通の種まきの要領で問題ない。
ただし、1点注意点があるとすれば、栄養過多にならないようにすべき点だ。
魔界側の気候は、人間界とは比べ物にならない。
人間界でいう春夏秋冬、四季と呼ばれる季節は魔界側では16種あるし、荒れた土地や酷い日照り、水浸しの環境なんてざらだ。
そんな酷い環境の中で育つ事を余儀なくされた作物達はとにかく栄養を取ろうと必死な傾向にある。
土地からの栄養だけではなく、空気中の魔力や他の生き物の死骸など、あらゆるものから栄養をとってしまう魔界側の作物たち。
だからこそ、凶暴性があるって言えるかな。
また、栄養不足になっても危なかったりする。
イメージとしては、栄養過多なら越えたオークみたいに暴れだし、栄養不足なら痩せ細ったグールみたいに暴れ出す。
…ん、結局暴れるのかよって?
馬鹿やろーっ、魔界の作物なめんじゃねーよ!基本暴れるわっ!!
…しかしだ、何度も言うが、栄養をきちんとバランス良く取らせて育てた作物はかなり美味い。
栄養過多や栄養不足でも正直人間界側よりかなり美味しいのだが…それらとも比べ物にならないくらい美味いのだ。
だからこそ、俺が勇者なんて雑務をやめて育ててるわけだけど…
「まぁ、しっかり育ってくれよぉ〜」
種を一定間隔で植えていく。
今の気候や畑の状態からしたら、共喰いみたいなことにはならないだろうけど…まぁそれでも念には念を入れるのは悪いことじゃない。
「お〜い、そろそろ飯にするぞー」
一通り植えたあと、水やりをしていると家の方からミーナの声が聞こえてきた。
朝からずっと作業をしていたから気がつかなかったが、もうそんな時間らしい。
あと、家までの距離はそれなりにあるはずなのに相変わらずよく聞こえる声量だわ。
「ぁあっ!今行くよっ!」
そう返答すれば、水やりもそこそこにして家に早足で戻る。
ミーナが作る飯はどれも美味いものばかりだからな、気持ちが高ぶるってもんよ。
「おかえり、種まきと水やりは済んだかい?」
「ぁあ、終わったよ。とりあえず大根とトマトを植えた」
「うげぇッ…トマトかぁ……」
「あれっ…?…トマト嫌いだったっけ?」
「いや、味は嫌いじゃないけどよ……破裂するだろ、アレ?」
「…あー…なるほど………乱暴に扱いすぎだからじゃね?」
「……ほぉぅ…俺がガサツだと?」
「いや、そこまでは言ってねーって…たぶん」
「…よし、歯を食いしばれクリス」
「おわッ、まったまっッぐぇ…!?」
どぎつい一撃が腹にッ…何故ッ…
「…たくッ……もうちょっと言葉選びってやつをだな」
「…ぃ……いやでもっ…ミーナってよく目一杯抱えては一気に置いたりするじゃんっ…」
「………そ……それは癖っていうかなんというか…///……とッとにかくッ!!俺はガサツじゃねぇッ!いいな!?///」
「…へ…へい……」
「ッ…///…ほっ…ほらっ、さっさと起きて飯食うぞッ///」
殴ったのお前じゃん…て、ツッコミたいが突っ込んだらまた殴られそうだからあえて黙っておこう…
立ち上がって、手についた泥を手洗い場で流し終えると、食卓の席に着いた。
「いっただきまーす!」
目の前に並ぶ良い香りの料理に、先程のダメージなんてなかったように無我夢中でたべる。
正直、我慢なんてできませんよ。
「…たく…そんな慌てて食ったら喉に詰まるぞ…」
「大丈夫〜だいじょッゴホッがはッ!?」
「…はぁぁ…言わんこっちゃない……ほれ、水だ水」
「んんんッ!?…んんっ…ぷはぁぁ…いやぁすまん、助かったわぁ」
「何回目だっての……いい加減暴走気味に食べるのやめろって」
「いやだって、ミーナの料理がマジ美味いから」
「…ッ…んんッ///……で…でもっ、毎回喉つめるようなレベルで食べてたら意味がないだろッ……勇者としてどうなんだよ…それ…」
「ミーナ、“元”勇者な元。…まぁ一緒に旅してたあいつらからは、怒られたりはしてたが…」
「…やっぱりかい…」
「聞いてくれよ酷いんだぜー、よく美味いもの食って喉詰まるからって味気がないもんとか喉つまらないようなヌルッとしたもんばっか食わせようとしてくんだよ〜酷くね?」
「いや、酷いのはクリスの食べ癖だ食べ癖し、お仲間さん達の判断は正しい」
「ぶー」
「ぶーじゃねーって……たく…お仲間さん達もさぞ苦労してたんだろうねぇ……」
「まったくな」
「いや、お前が元凶だって…はぁ…なんで俺はこいつと働いてんだか……」
「はははっ、あれじゃないっ?食べっぷりがいいからとか」
「そんな理由で、俺は働き相手を選んでいると?」
「えー、だってさぁ〜自分が作った料理を夢中で食べて、美味しいって言ってくれる人って素敵じゃない?」
「……まぁ、そこは否定しないがね……自分で言うな自分で」
「ありゃりゃっ、これは失敬…でもまぁあれだよね」
「ん?」
「ミーナって良いお嫁さんになりそうだよね」
「ぶふぅっゅッ!?///っ……はっ……はぁぁあ?なっ…何言ってんだっッ…ッ///」
飲んでいたミルクを盛大に吹き出しむせたミーナ。
「えー、だってさぁ。料理は美味いし、家事はできるし、安産体型だし、優しいし、可愛いし……まぁたまにガサツなとこは見逃すとして、良いお嫁さんになれない理由なくね?」
「ッ……ッッ…///い……色々っ言いたいことはあるけれどもッ……このッ…んんんッ///…と…とりあえずッ、相手もいないのにッ…よ…嫁とか関係ないしッ///」
「照れんな照れんなー」
「おっ……おまえなぁッ///」
「まぁ大丈夫だって、ミーナならちゃんと良い相手見つけられるさ」
「……ふんッ……///……そ……そういぅ…そのっ……く…クリスは…どうなんだよっ?///」
「ん、俺?」
「………ぉ…おぅ…///」
パートナー…
俺にかぁ……
「あははっ!ないないっ!!現在進行形でもちろんいないし、しょうらいもありえないだろ。だってこんな性格だぞっ、そんな物好きがいるはずないだろって!」
自分自身の性格は重々理解してるしなっ
こんな変人を好きになる相手なんて、世界中探したっていないいない。
「…ぁぁ…そうか……うん、そうだな……クリスはそういうやつだわ…」
「…いやぁ…まぁ当然と言えば当然なんだが……そんなに呆れられると逆に傷つくっていうか…」
「…呆れてないから……ただ、ちょっと…障害が高すぎるって改めて分かっただけ」
「えっ、何障害って?…そこまで人の恋路を邪魔するようなレベルではないと思ってるんですが…」
「……もういいからっ……後、そろそろ町にできた野菜届ける時間じゃない?」
「ん……あっやっべ!?ごっそさんッ、悪いっ後片付け頼むわッ!」
「はいはい、気をつけてなぁ〜」
俺は駆け出すと、馬車が置いてある納屋に向かって走り出した。
出荷先のおばちゃん…遅れると怖いの、マジで
「……はぁぁぁぁぁぁっ……たくっ……攻略難易度が歪に高すぎんだっつーのッ………いつになったら私の気持ちに気付いてくれんだよ…///」