第1章 第2話~新たな出会い~
あれから2日経った朝、僕はいつものように誰からも顔が見えないようにフードを深く被り、店を出て僕の自宅へと向かった。中心街に入り、人気のない裏路地。そこに僕の元自宅がある。僕は昨日一昨日以上に警戒して物陰に隠れながら慎重に歩みを進めた。
『おいお前さん聞いたかい?』
『何をだ?』
『なんでも国外から来たとんでもないTREがこの街に来ているっていう噂だ』
そんな道中で男性2人の噂話が聞こえてきた。国外のTRE……そのワードに僕は少し興味が湧いたので近くに積んであった木箱の物陰に身を隠し、向こうにバレないように話を聞いてみる。
『なんだって? そりゃ本当かい?』
『ああ。なんでも建物が10軒も破壊されたらしい』
『おいおい……勘弁してくれよ。一体どんなTREなんだ?』
『それがどっちも十代くらいの男と女らしい』
『なんだって? まだ子供じゃないか。TREに年齢も関係ないって事か……』
建物を壊すほどの強力なTREはまだ僕と同じ十代だって? 僕もこんな状況だから他人事の気がしなくなってくる。僕は更に耳を澄ませ二人の会話に耳を立てる。
『それについ一昨日の事だが、また新たにこの街にTREが生まれたって話だ』
『おいおい……もう何人目だ? 全く可哀そうな話だぜ……』
新たなTREが生まれたと聞いて僕は思わずため息をついてしまう。そんな……またこの街でTREが生まれてしまったのか。今度は一体どんな人が被害者なのだろう?
『詳しい話はまだ入って来てないんだが、かなり攻撃的なTREらしい。なんでもその場にいた宝狩り部隊が全員殺されたって話だ』
『そりゃ本当かい? まさか怒りに任せて俺ら一般市民にまで攻撃してくるんじゃ……』
『いやそれはない。何でも、国外から来たTREも昨日のTREも宝狩り部隊や憲兵や国王に抵抗している反真王派の連中らしいぜ』
反真王派。宝狩り部隊や真王に抵抗するTRE達だ。宝物を奪われTRE化した後に人質がいなかったり、また怒りに我を忘れて真王達に復讐しようと決心にている人達で、世界のいたるところにいる派閥だ。
『よかった……そんな連中がいるんだったらこの街からも宝狩り部隊がいなくなるのも時間の問題って事か』
『いやそれがそうでもないんだ。なんでもあの真王が直々にこの国に来ているらしいんだ』
『なに!? あの真王が!?』
「っ!?」
僕も思わず声を出ししそうになるのをこらえて両手で口を塞ぐ。この宝狩り法の張本人にして、この世界を統べる真王がわざわざこんな世界の果ての国に来るなんて。一体なぜなんだ?
『なんでもこの国に探し人がいるって話だ。だからそれの拘束隊やら真王の警護兵やら問題のTREの問題やらでここの最近警備の目がより厳しくなっているらしいぜ』
『本当かよ……どっちにしろ家で大人しくした方がいいな……』
確かにかもしれない。ただでさえ僕は宝狩りのターゲットだというのに、警備兵や憲兵やら宝狩り部隊が増援されている時に街中をウロウロしているのは得策ではない。
「今日はさっさと家に帰った方が良いかもしれないな……」
これはアルヒテクアさんの言う通り大人しく家にいた方が良いかもしれない。両親の帰りを待って家に戻っているのに宝狩りに会いました、なんていうのは笑えない。今日は両親が来ないことを信じて兵士達や宝狩り部隊が少なくなってからの方が良さそうだ。僕は回れ右をしてアルヒテクアさんのお店に行き先を変える。
『そうだぜ少年。さっさと帰った方が良いぜ』
「っ!?」
突如話していた2人が不敵な笑みを浮かべながらこちらに振り返り見つめてきた。
『隠れたってわかるんだよ。俺ら2人は耳が良いからなぁ』
『なんたって1㎞先で落ちたコインの音まで聞こえるからな』
「っ! まずい……!」
考えるよりも先に体が動いていた。とにかく逃げなければ。そう直感が命令している。僕は振り返りアルヒテクアさんの店へ向けて全力疾走する。
『おおっと! ここから先は行かせないぜ?』
「なっ!?」
だが振り返った先には既に宝狩り部隊が道を遮断していた。そんな馬鹿な! いつの間に!? こっちの動きが読めれていたのか!?
『人っていうのはうわさ話が大好きだからなぁ』
『しかもそれが凄いうわさ話なら尚の事聞きたくなっちまうよな? それも周りの事が気にならなくなるくらいにな!』
「くそっ! 罠だったのか……!」
『ぎゃははは! その辺の一般人があんなに詳細な情報を持っていると本当に思っていたのか?』
『しかもあそこにいる2人は聴覚に優れたTREだ。お前があの店から出た時からマークしてあるんだよ!』
完全にやられてしまった! 仮にここから宝狩り部隊を上手く捲けたとしても耳の良いTREからは逃れられない。それにアルヒテクアさんの店まで5キロはある。どうあがいてももうダメだ……!
『ここ数週間お前がずっと逃げてくれたおかげで俺らは随分ここの国王に怒られてな』
『今日こそ捕まえてこないと仕事をクビにされる上に国外追放になっちまうんだよ』
『そこまで追い込まれてみるとどうだ? 気が付いたらTREになっていたってわけだ!』
『皮肉な話だよなぁ! お前の宝物を奪ってTREにしようとしていたら、逆に俺らがTREになっちまったなんて!』
部隊兵達は警棒や拳銃を取り出しながらゆっくりとこちらに近づいてくる。
『だがお前もこれから俺らと同じTREになるんだよ』
『そしたら俺らの仲間入りってことだよな? 散々苦労させてくれた礼をしないとなぁ』
「だれかぁ! 誰か助けてください!」
僕はあらん限りの大声で助けを呼ぶが誰も反応してくれない。いや、それどころか通行人や街の人がどこにもいない!
『無駄だぜ。ここら辺の住人はみんな退避させたからな!』
『ここにいるのは俺らだけって事だ』
畜生……! 完全に僕の行動を読まれている上に、周到に準備されている!
『そういうことだ! 諦め……ぎゃあああ!?』
『うわぁああああ!?』
諦めかけていたその時、宝狩り部隊の真横の壁が吹き飛び、僕の前にいた部隊兵が吹っ飛ぶ。吹っ飛んだ部隊員はそのまま壁に激突し、それでもなお失われない勢いにより、激突した壁を突き抜けて姿が見えなくなる。
『なんだ!? 何が起きた!?』
『それになんだこの音は!? 鼓膜が破れそうだ!』
部隊兵は突然の出来事に皆動揺を隠せていない。僕もだ。部隊兵達に拘束されると思った瞬間、落雷の数倍は大きい音が鳴り響いき、少し遅れて壁を吹き飛ばすほどの衝撃波が部隊兵たちを襲ったのだから。
「がっはっはっは! 身に染みたか悪党どもめ!」
『誰だ!?』
粉砕した壁の中に巻き上がる砂煙から若い男性の声がしてきた。
「俺か? 俺の名前は武動音破!」
『武動……? あの武動か!』
『武術の国からやってきて国々の宝狩り部隊を壊滅させているというTRE!』
砂煙から姿を現したのは体格の良い短髪の青年で、両手には包帯のような布が巻かれている。見た感じ僕と同い年くらいだろうか?
「おお。俺の事知っているのかい? なら話は早い! ここで倒させてもらうぜ!」
青年は左手を少し前に出し、右手は腰元に持ってくる。腰を落として力を溜めると、腰と軸足をひねりながら右拳を前方に突き出した。すると驚くべきことに手を伸ばし切ったところで大気に直径1m程のヒビが入る。そして辺りに響き渡る轟音と共に衝撃波が発生し前方の部隊兵5人を巻き込み吹き飛ばした。
『「「ぎゃああああ!!」」』
衝撃波に巻き込まれた部隊兵は後方に吹き飛び、着ていた鎧は大破し、家の壁に激突した後にその壁をも貫通していった。
「安心しな! 俺は人殺しはしない! ただとんでもなく痛いけどな! がっはっは!」
『ひっ! ば、化け物めぇ!』
『に、にげろぉ!!』
『助けてくれぇ!』
右拳を左手の手のひらにパンパンと打ちつけながら笑顔で残りの部隊兵に近寄っていく青年。その破壊力とあまりの衝撃に恐れおののく部隊兵達は声を荒上げながら逃げ出していく。
「おっとっと! そっちにはいかない方が良いぜ! なんたって俺よりも怖い奴がいるからな!」
青年の忠告を無視して逃げた部隊兵達の先には一人の女の子が足を肩幅程に広げて腕を組み、仁王立ちをして不敵な笑みを浮かべている。
『女! どけぇ!』
『殺されたいのか! 道を開けろ!』
部隊兵達はナイフや警棒、拳銃を取りだしながら勢いを落とすことなく女の子に突っ込む。女の子はそんな状況でも動じず部隊兵達を見つめると息を大きく吸って……
「アハハハハハ!」
笑い始めた。その行動に僕を始めあれ程取り乱していた部隊員達も足を止めて呆けてしまう。
『なんだこの女!? 笑い始めたぞ!?』
『逃げる俺らを笑いものにするとは舐めやがって!』
『構わねえ! 殺しちまえ!』
自分達が笑われたと思った部隊兵達は激昂し女の子に襲いかかる。だが……
『「「ぎゃああああ!?」」』
突如女の子の前に出現した竜巻に巻き込まれ吹っ飛んでしまう。
「アハハハハハ!」
女の子は更に笑い続ける。それに伴い竜巻は勢いと大きさを増していき、辺りの建物や瓦礫、部隊兵達を巻き込みながら裏路地を移動していく。
「芸笑! その辺にしておけ! 余計な被害が出ちまうぞ!」
「ああ! すまんすまん! ワイ夢中になっとったよ!」
青年に制止され女の子が笑いをやめると、竜巻は勢いを無くし数秒後には跡形もなく消滅していた。
「全く。芸笑はもう少し能力のコントロールをだなぁ……」
「なんやねん! お前だって人の事言えへんやろ! 見てみ! また建物壊しおってからに!」
「う、うるせえ! 俺はある程度本気で殴らないと能力が発動しないんだよ! それに撃った後の衝撃波は操作できないしな!」
「威張んなや! ワイだってそうや!」
僕や部隊兵達の事など忘れて彼らは口喧嘩を始めてしまった。
「っと! そんな事より大丈夫か?」
「へっ?」
「へっ? やあらへん、あんたやあんた!」
不意に声を掛けられる僕。あまりにも急に声を掛けられてしまったため僕は何の準備も出来ずに間抜けな声で返答してしまう。
「なんかケガしてないか? 俺らの巻き添えとか宝狩り部隊にやられたとか?」
「え!? あ、はい! 大丈夫です!」
「そうか! それは良かった!」
青年はそう言うと僕の肩を叩きながら笑顔で気遣ってくれた。
「あんたも災難やな! こんな大勢の宝狩り部隊に狙われるなんて!」
青年に続いて女の子が僕に近寄り気遣ってくれる。うわぁ……
「…………」
「ん? どうしたん?」
「あ! いえ別に……!」
その女の子をこうして近くでよく見てみるととても可愛い顔をしていた。整った顔立ちでやや童顔。黒髪のショートヘアーに細い手足。スレンダーといった方がしっくりくるか。その分女性らしさというか、ある一部分が薄いけど……
「……なんやろうか? 今滅茶苦茶あんたをぶん殴らなあかん気がするんやが……」
女性の勘はピカ一だな!
「おおっと! あんましのんびりしていられないな! ちょっとばかし派手に暴れすぎちまったようだ! あと少しで警備兵がすっ飛んでくるぞ!」
青年が慌てた様子で話す。確かに彼らの戦闘は一際目立つものだった。轟音に竜巻……ここにTREがいますよと言っているようなものだね。
「さてと! 逃げるぞ芸笑!」
「おう! でもどこに逃げる?」
「そうだな……」
二人は考え込んでしまう。どうやら隠れ場に困っているようだ。だったら……
「あの……お二人とも、ちょっとよろしいですか?」
「「??」」
「僕を助けてくれたお礼がしたいので、よろしければ僕についてきてください」
「それで? 逃げ帰ってきたということか」
「お許しください社尽王様!」
「最近この国にやってきたTRE共に邪魔されてしまったのです!」
「もう一度チャンスをください! 次こそは必ず……!」
「うるさい黙れ! もうお前達に次はない! 消えろ!」
「「「うわぁああああぁぁぁ…………」」」
「ふふふっ。いつ見ても見事な能力だな社尽」
「真王様。お見苦しいところを見せてしまい申し訳ありません」
「気にしておらん。それより困ったな?」
「はい。かくなる上は私自ら奴らを捕らえて……」
「お前は『彼』と『妹』を見つけろ」
「はっ!」
「お爺様」
「む? どうした法帝よ」
「先日部隊長から聞いたのですが、『彼』と『妹』を知る人物がいるそうで、なんでも「よろしく」だそうですよ」
「おお。それは誠か。やはりこの国にいるとみて間違いないようだな。ふふ……10年掛かったがついに見つけたぞ。アルダポース兄妹よ……」
ここまで読んでくださりありがとうございます! ニコニコ大元帥です!
遂に登場の武動と芸笑! これで主要メンバーは出揃いましたね! 次回は少しお話パートとなります! それでは次回もよろしくお願いします!