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TRE~宝を奪われた能力者~  作者: ニコニコ大元帥
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第1章 第1話~世界の果てでの始まり~

「はぁ……! はぁ……!」

『いたぞ! あそこだ!』

『小僧め! 今日こそは捕まえてやる!』


 背後から怒号が飛び、僕は振り返ることなく全力疾走する。大通りから外れて裏道に入り、無人家屋の立ち並ぶ廃虚街に入る。家の角を曲がり、またすぐ道を曲がり、相手を巻くよう何度も何度も複雑に走り回る。

1820年。ここは世界の果ての国『ノンビーヌラ』だ。世界の地形が渦巻き状に変わったせいで、僕のいる国は中心から最も離れた場所……つまり渦巻の最も外側の端に位置する最果ての国となってしまった。


「ふう……! ふぅ……!」

『裏路地に逃げ込んだぞ! 追え!』

『了解!』


 真王がこの世界全体に「宝物狩り」の法を発令してから10年の時が立ち、そのおかげで多くの専門業の人は失職に追いやられ、多くの人間がTRE(トロイ)になってしまった。TREとはTreasure・Robbed・Extra Sensory……つまり『宝を奪われた超能力者』と呼ばれるようになった人々の事を指し、それぞれの頭文字TREを取り、そう名付けられた。


「う……! まずい行き止まりだ……!」


 僕は今まさにその「宝物狩り」を受けている最中だ。僕の名前は奏虎鉄操(そうこ てつり)。プロのトランペット奏者だ。いや……正確には元プロトランぺッターと言うべきか。

 この国に真王の宝狩り部隊が到着したのは約3週間前。世界の地形調査を兼ねて王宮から派遣された部隊で、ゆっくりと渦状の道に沿って広がりながら入国し、そこの国の住人達を宝狩りしてはTREを生み出していき、より優秀なTREは人質や宝を餌に真王の部下にさせられいる。そして10年が経ちついにこの国にやってきたというわけだ。


『あの小僧どこ行きやがった!』

『この近くのはずだ! あいつは楽器を持っていたから遠くには行けないはずだ!』

『この辺をしっかり探すぞ!』

「どうしよう……! 捕まっちゃう……!」


 僕の宝物……それは音楽というわけではなく、僕の両親がくれたこのトランペットだ。

 音楽家である両親は真王の王宮で専属の演奏家として働いており、僕もそれに憧れて演奏家を目指し、念願叶って最年少トランぺッターとして活躍することになった。そんな僕に父さんと母さんはこのトランペットをくれたのだ。正直今は音楽が出来ない事よりも大好きな両親に会えないことの方が辛い。王宮にいるはずの両親はきっと真っ先に宝物狩りをされたのだろうから、もう簡単にはこの国には帰って来れないのだろう。だからこそこのトランペットだけは何としても奪わせやしない! 何が何でも守り切って見せる! だが……


「ここまでか……!」


 宝狩り部隊に見つかり何とかここまで逃げていたが、逃げ込んだ先は行き止まりで逃げ場がない。これは詰んだ……何か手はないか……


『奏虎さん! 上です!』

「っ!?」


 突如上空からグラスハープの音色のような美しい声が聞こえ、戸惑いながらも見上げると、二階の窓から女性がこちらを見ていた。あの方は……!


「グアリーレさん!」


 同じ音楽家仲間のグアリーレ・ウン・カンターテさんだ。鼻筋の通った可愛らしい顔立ちに、黒髪の長髪。だが今は非常時なので後ろで髪を束ねポニーテールにし黒縁眼鏡をつけている。恐らく変装しているのだろう。彼女は僕と同い年のソプラノオペラ歌手でこの国に宝狩り部隊が来てからお互いに助け合って来た仲間だ。


「おい奏虎君! このロープに掴まるんだ!」


 姿は見えないがグアリーレさんの後ろからこちらにロープを投げ込まれる。この透き通るような中音域はオンダソノラ・ウン・カンターテさんだ。グアリーレさんのお兄さんで3つ年上のテノール歌手で、この方も同じ音楽家仲間。この2人がいるということは……


「兄さん! 掴んだわ!」

「兄貴! 引くぜ!」

「おう! 奏虎君! しっかり掴まっていろよ!」

「うおおおおおお!!」


 僕がロープを掴んだことを確認した直後、僕は凄い勢いで二階に引っ張り上げられ、窓から部屋の中に侵入することに成功した。


「ありがとうございます!」

「しっ! 頭をかがめろ!」

「っ!」


 言われるがまま頭を屈め床にうずくまる。直後、先程まで僕がいた場所から宝狩り部隊の声が聞こえてきた。


『ちっ! ここにもいないか!』

『もう一個先の角を曲がったのかもしれん!』

『ああ! 行くぞ!』


 宝狩り部隊のそんな話声が聞こえた後に数人の走り去る音が聞こえ、どんどん遠ざかっていくのが確認できた。とりあえずは安心だ。大きなため息が4つ部屋の中に響き渡り、部屋の中に張り詰めていた緊張の糸が緩んだ。


「ふう! 間一髪だったな!」

「はい! ありがとうございますラージオさん!」


 僕は顔を覆っていたフードを下ろし、引き揚げてくれた人物を見る。がっしりとした体格から発せられる一際低いバリトンボイス。蓄えられた口髭に威圧力のある眼光。見た目だけではとても音楽家とは思えない風貌をしている方で、オンダソノラさんの3つ上の長男、ラージオ・ウン・カンターテさんだ。彼らウン・カンターテ三兄妹は世界にその名を響き渡らせたオペラ三兄妹で僕と同じく有名になり過ぎていた為にこうして宝狩りの餌食になってしまっていたのだ。


「気にするな! 同じ音楽家同士! ともに共演した仲じゃないか!」

「そうだよ奏虎君。この前は君に助けられたしね」


 この中で一番の長身で細身のオンダソノラさんが水筒にお茶を汲んで僕に差し出してくる。


「困ったときはお互い様ですわ奏虎さん!」


 その横では眼鏡を外し、髪ゴムを取って軽く頭を振って髪の毛を広げながら笑顔で話しかけてくれるグアリーレさん。皆でお茶を飲み互いの無事を確認し合って和やかな雰囲気が部屋全体を包み込む。


「皆さんの宝は……大丈夫なんですか?」


 お茶を飲み干し、空になったコップをオンダソノラさんに返しながら訪ねる。


「ああ。人目に触れず、誰にも迷惑を掛けない為にという理由が功を奏して見つかってはいない」

「まさか森の中にホールがあるなんて思ってもみないだろうからね」

「祖父の代からある大切なホールを……私達の宝の家を奪わせてなるものですか!」


 彼らの宝物は祖父の代に建てられた自宅兼ホールで、人目に触れず、夜に練習しても迷惑が掛からないという理由で森に建てられた。そのため誰からも見つからず、未だに宝狩りの被害を受けていない。僕も一度だけお邪魔させていただいたが、古く小さなホールだがどこか優しく、安らぎを得られるいいホールだった。





「さてと。ここに居続けたらいずれ見つかってしまうな。そろそろ移動しようか」

「そうですね。それが良いですね」


 僕は再びフードを深く被り、グアリーレさんは眼鏡を掛け髪型を変える。オンダソノラさんはサングラスと付け髭をし、ラージオさんは長髪のカツラをつけ変装する。準備が終わると立ち上がり、物音を立てないようにゆっくりと階段を降りて外に出る。そして誰にも見つからないように細心の注意を払い裏路地から脱出し、街の外に向け歩き出す。





「これからどうしますか?」

「俺らは一旦家に戻る。見つかりにくいとはいえ心配だしな」

「君も来るかい?」

「いえ、僕は知り合いの家に行きます」

「ああ。例の育て親の場所か。その場所は安心なのかい?」

「はい。もう僕の自宅もバレちゃってますし、引っ越しも済ませています。何よりあの家にいると落ち着きますし、あの人はかなり強いので」

「そうか。なら安心だな。それじゃ奏虎君! お互い逃げ切ろうぜ!」

「ええ! 皆さんも気を付けてくださいね!」

「ああ! 無事に逃げ切れたらまた演奏しよう!」

「奏虎さん……どうかご無事で……」

「はいグアリーレさん!」


 お互いに見えなくなるまで手を振り合いその場を後にした。さてと……僕も気を付けながら気を引き締めていこう。僕は頬を2回叩き気を引き締める。そして育て親のいる家に、僕の帰る場所に向かった。







「ただいまぁーー」

「へいらっしゃい! ってあら鉄操ちゃん! おかえりなさい!」


 ウン・カンターテさん達と別れて、歩くこと30分。宝狩り部隊には見つからずにここまで来ることができた。そして中心街から少し離れた場所に建つ一際大きい木造三階建て飲食店に到着する。


『おお! 奏虎君おかえり! ヒック!』

『また中心街に行っていたのかい?』


 正面の入り口から中に入ると一階や吹き抜けの二階席などのいたるところから酒に酔ったお客さん達に声をかけてもらい、カウンターからは一人の美しい女性が僕を迎え入れてくれた。

 スレンダーな体つきにウェーブした金髪。大きい瞳に眩しい笑顔。多くの男性の視線を引く美しさの彼女の名はシュフンハイト・アイネバーさん。両親不在の僕を我が子のようにかわいがってくれた女性だ。


「あれ? アルヒテクアさんは?」

「ああ、あの人なら裏のゴミ捨て場で料理しているよ」

「料理? 厨房じゃなくてゴミ捨て場で? 何を料理しているの?」

「宝狩り部隊よ」

「へっ?」

「だから、宝狩り部隊よ」

「うん……なんか色々ごめんなさい」


 なんとなく状況を察したので僕はこれ以上の詮索をしないでおいた。そんな僕をシュフンハイトさんは頭の天辺から足先まで何度も視線を往復させながら見てくる。


「そんな事より大丈夫かい? 街で宝狩りに合わなかったかい?」

「うん……今日も会ったよ。でもウン・カンターテさん達のおかげで……」

「なんだって!? 鉄操ちゃん!? ケガはないかい!?」

「わぶっ!?」


 襲われたという言葉を聞いてシュフンハイトさんは手に持っていた注文の乗ったトレーを床に落としてまで、僕の頭を抱きかかえ体中をまさぐる。む、胸が当たってる……!


『はっはっは! 羨ましいねぇ!』

『どうだい奏虎君? 心地いいかい?』


 その光景を肴にお客さん達は僕に茶化しというか、嫉妬というか、思ったことを隠しもせずに投げかけてくる。と、とにかくこの状況は色々まずい! 僕は強引にシュフンハイトさんの拘束から脱出する。


「ぶはぁ! だ、大丈夫だよ! ケガはないから!」

「そうかい? ならいいんだけど……そうだ! 宝狩り部隊の野郎どもをもっと入念に料理してもらわにゃ! あの人に言ってくるよ!」


 そういうと満面の笑みで裏に消えたシュフンハイトさん。取り残された僕は賑やかで騒がしい酒場を見渡しながらカウンターの空いている席に座る。すると酒場にいるお客さんが酒瓶を片手に近寄ってきてくれた。


『おう奏虎ちゃん! 相変わらず細いなぁ! 病気してないか?』

「細いは余計だよ! 僕だって気にして筋トレしているよ! そういう皆さんは元気なの?」

『ああ! 元気いっぱいだぜ! 仕事終わりのこの一杯がたまらねぇからな!』

『そうだ! この一杯を飲むために俺らは生きている! ぎゃははははは!』

『それに新しい職場にもやっと馴染めてきたんだ!』

『ほう! そうか! なら祝い酒だ! がっはっは!』


 この人達は皆両親が返ってこない僕を慰めたりしてくれる方々で、この人達とアイネバー夫妻のおかげで小さい頃の僕は両親がいなくても殆ど寂しい思いをしなくて済んだのだ。だからこそここは僕にとって安らぎの場でもあるし、もう一つの家なのだ。と、そんなとき……


「ふい~……」


 裏戸から熊のような体格の男性が入ってきた。あ!


「アルヒテクアさん!」

「ん? おお! 鉄操ちゃん! 聞いたぞ! 宝狩り部隊に会ったんだってな! ケガはないか!?」

「んぎぎぎぎ!」


 全身の骨が軋むほど強く抱きしめられ、息が止まりそうになる。同じ抱擁でもシュフンハイトさんとここまで差が出るとは……


「だが安心しな! 宝狩り部隊共は徹底的に料理してやった! もう悪さなんかできないだろう! がっはっはっは!」


 ようやく解放され背中をバンバンと叩かれた。彼の名前はアルヒテクア・アイネバーさん。ピカリと光る頭部と白い歯。カールした髭がトレードマークで、女性のウエスト程はありそうな腕に、酒樽でも詰めているのではないかと思うほど厚い胸板。男性の平均身長に満たない僕の身長では体を大きく反って見上げないと顔が見えない程高い身長。彼はシュフンハイトさんの旦那さんで、僕の育て親で父親代わりをしてくれている方だ。僕の両親とは交流があり、王宮の城下町で働いていたが宝狩りの法が出た事をきっかけにこの最果ての国に引っ越してきたのだ。ちなみに僕の両親の仲人を務めた方でもある。


「さてと! 酒場の皆さん聞いてください! ここにいる鉄操ちゃんの無事を祝して本日の酒代は無料とします! ジャンジャン飲めぇ! がっはっは!」

『本当かい!? 流石マスター!』

『おっしゃ! それじゃぁ朝まで飲んじゃおうかな!』

『なんたって俺らの奏虎ちゃんが無事に逃げおおせたんだからな!』


 マスターの一言で酒場の賑やかさは更に勢いを増した。だがそんな雰囲気に水を差すように、酒場のドアが開き数十人の男達が中になだれ込んできた。


『へっへっへ! 邪魔するぜ~』

『全員動くな!』


 入ってくるなり銃を構えその場にいる全員をけん制する。そして隊長らしき男が兵の人垣から出てきて話を始めた。


『我々は憲兵団特別部隊である! そこにいる音楽家の少年を差し出せ! さもなくば強硬手段を取らせてもらう!』

「特別部隊? オメェら宝狩りの一団か!」

『そういうこと~』

『変な気を起こすなよ~へっへっへ!』


 全身を金属の鎧で身を包んだ憲兵特別部隊……要するに宝狩りを専門にしている憲兵達で、僕のように普通の憲兵では捕まえることができない者を力ずくで拉致するやつらだ。


『小僧。この数週間逃げ回っていたらしいがここまでのようだな。大人しく来てもらおう』

『さもないと痛い目見ちゃうぜぇ~』

『俺らはそっちの方が良いんだけどな! ぎゃはははは!』


 手のひらに警棒を叩きつけこちらを威嚇する部隊兵。そんな宝狩り部隊の前に立ちはだかったのはシュフンハイトさんだった。


「バカな事言うんじゃないよ! この子には指一本触れさせやしないんだからね!」

『なんだこの女?』

『おいおい! なかなかの上玉じゃねえか!』

『俺達とイイ事しねぇか? ぎゃはははは……はぎゃ!?』


 宝狩り部隊の一人がシュフンハイトさんの肩に手を伸ばした瞬間、何か大きな塊が僕の横顔を猛スピードで通過し、男の顔面に激突。部隊兵はテーブルや何人かの部隊兵を巻き込みながら後方に吹き飛んだ。


「おらぁ! 下種ども! 俺のかみさんに触れんじゃねえ!」


 部隊兵が吹き飛んだ原因はアルヒテクアさんだった。自分の嫁が部隊兵に触れられると思った瞬間に攻撃を開始し、その砲丸のような拳が部隊兵の顔面に直撃したというわけか。殴られた部隊兵の顔面は陥没し、歯は抜け落ち、口や鼻から血を吹き出しながら壁に激突し気を失った。


「大丈夫かシュフンハイト!?」

「あんた……ありがとう」

「お前の身に何かあったら俺は……!」

「あんた……愛してるよ」


 2人は熱い抱擁を交わす。酒場の客たちは口笛を吹きながら拍手し笑い声が上がり、何が起きたかイマイチ理解できていない部隊兵達はしばらく呆けていたが、やっとこの状況を理解し怒鳴り声をあげた。


『貴様ら……! よくも仲間を……!』

『自分達の置かれている状況がわかっていないようだな!』


 宝狩り部隊は2人に銃を向けるが、アルヒテクアさんは大して動じていない。愛の抱擁をやめてゆっくりと視線を部隊兵達に向ける。


「状況がわかっていないのはどっちかな?」

『何……! こいつ減らず口を……!』

『……っ!? 隊長!』

『どうし……!?』


 部隊長は我に返り酒場の中を見渡す。一階のテーブルやカウンター、二階の手すりから身を乗り出したりと、店中の客が全員部隊兵達に向かって手をかざしている。その手には火や氷、包丁や木槌などが握られていた。


『こいつら……! 全員TREか!?』

『その通りだ。俺らは全員お前らの身勝手でTREになったんだ』

『それだってのに俺らの前で奏虎君をTREにしようっていうのは良い度胸しているな?』

『覚悟はできてるんだろうな?』

『……良いだろう。ここは大人しく引くとしよう』


 自分達の置かれている立場の悪さに気が付き、部隊は戦意喪失し、銃を下ろしてゆっくりと後ずさりする。


「おう隊長さんよ? 王宮に戻るんだろ? だったら王に伝えてくれよ」

『なんだ?』


 入り口から最後に出ようとする隊長に向かってアルヒテクアさんが話しかける。


「『彼』と『妹』がよろしくっ言っていたぜ」

『!? なぜ貴様が『彼』と『妹』の事を知っているんだ!?』


 その言葉に隊長が血相を変えてたじろぐ。『彼』? 『妹』? 一体何の話だ?


『貴様……あの時王宮に居た者か?』

「いいや。俺は王宮の城下で酒場店を出していたものだ」

『バカな! 城下にいたならばあの後すぐに宝狩りを受けたはずだ! なぜ宝物を奪われて活動できている!?』

「俺は宝である店を奪われだけで、真王の孫と『鉄の掟』を結ぶ前に『彼』と『妹』に助けられた……いや、先にこっちが助けたのか。まぁその話はいいか。さっさと行きな」

『このことはしっかりと報告させてもらうぞ!』


 そういうと隊長は急いで走り去っていった。


「アルヒテクアさん?」

「ん? そうした鉄操ちゃん?」

「今の『彼』とか『妹』ってなんの……」

「おおっと! 店が壊れちまったな! 直さにゃ!」


 僕の話を強引に遮るように大声で話しはじめアルヒテクアさんが両手を広げ始める。すると店中の壊れた個所が修復されていく。これはアルヒテクアさんの能力だ。アルヒテクアさんは宝狩りでシュフンハイトさんと共に建てた店を奪われた。その時アルヒテクアさんは「再び店を開きたい」という気持ちが爆発して『建物を自在に建てたり、建物の破損した部分を修復するTRE』になったのだ。


「アルヒテクアさん? 僕の質問に答えてください。『彼』と『妹』とはなんですか?」

「………………」


 アルヒテクアさんは無言のまま店の修復を続ける。


「アルヒテクアさん答えてください!」

「………………」


 僕は建物が修復するまでの時間諦めずに何度も同じ質問をし続けたが、その間アルヒテクアさんは一言も発さず無言を貫いた。そして店の修復が終わると同時に話し始めた。


「鉄操ちゃん。すまないがその話は出来ない。『彼』との約束だし、これを話しちまうと鉄操ちゃんの身に色々と大変なことが起きちまう」


 いつもは優しく話しかけてきてくれるアルヒテクアさんだが、この時ばかりは彼の容姿に見合う凄みのある声のトーンで話しかけてきたため、僕は気圧されてしまった。それと同時にこの話はこの人が言う通りとてもヤバイ話なのだろうと予想できた。


「……わかりました。ならこの話はこれまでにしておきます」

「すまないな鉄操ちゃん」


 僕は納得したような、いまいち納得してないような心境のまま三階にある僕の部屋へと移動した。部屋に入り、入り口のすぐ横に置いてある机の上に荷物を置いて、そのまま倒れこむようにベッドに飛び込んだ。


「『彼』……『妹』……。それに鉄の掟……。全く訳が分からない」


 僕はうつ伏せの状態から仰向けに寝返りを打ち、机の上に置いてある写真立てを見つめる。


「母さん、父さん。一体いつになったら帰って来てくれるんだ……」


 写真立ての中には小さい頃に僕と両親の三人で撮った写真が入っており、僕はいつもその写真を見ては両親の事や昔の事を思い出していた。すると、不意に部屋のドアをノックする音が鳴り、僕はベッドから身を起こしながら返事をする。


「はい。誰ですか?」

『俺だ。鉄操ちゃん。入っていいか?』


 声の主はアルヒテクアさんだった。僕が返事をするとゆっくりと部屋に入ってくる。その手には飲み物と軽い軽食を持っており、食べるかどうかを聞いてきたが僕の頭の中は『彼』や『妹』の事でいっぱいで食欲がわかなかったので断った。アルヒテクアさんは一言そうかと言って、お盆をテーブルに置いて僕の横に腰かけた。


「どうしたんですか?」

「いやな。一つだけ言っとこうと思ってな」

「なんですか?」

「『彼』と『妹』の話だ」

「え?」


 僕はその言葉に戸惑いながらも一瞬高揚してアルヒテクアさんにすり寄る。


「一体誰なんですか!?」

「まぁ待つんだ鉄操ちゃん。話すと言っても今じゃない」

「え?」

「さっきも言ったが今はなしちまうと鉄操ちゃんの身に危険が及ぶからな。この国から宝狩り部隊がいなくなってから話してあげよう、ってことを言いに来ただけだ」

「ええ~……そんな焦らし方ありますかぁ~……」

「はっはっは! 期待していたところ悪いな! だがわかってくれ! この通りだ!」


 アルヒテクアさんは顔の前で手を合わせて笑顔で謝ってきた。そして和やかな雰囲気が部屋を包み、一瞬間をおいてこんなことを聞いて来た。


「鉄操ちゃんの名前の意味って何だっけか?」

「え? 僕の名前の意味ですか?」


 いきなりそんなことを聞かれ間抜けな声で聞き直してしまう。僕の名前の意味? なぜ今この流れで聞いて来たのだろうか? 真意はわからないが僕は答え始める。


「どんな事にも鉄の心で耐え忍び、心を操れ……という意味で鉄操という名前が付けられたんですけど……それがどうかしましたか?」

「鉄の心で耐え忍べ……か。鉄操ちゃん? 明日も実家に戻るのかい?」

「はい。当然です。いつ両親が返ってくるかわからないので毎日行って待っているんです」

「そうか……気を付けるんだぞ? 両親の帰りを待って宝狩りの餌食になりました、なんて笑えないからな」

「任せてください! 逃げるのは得意ですから!」

「はっはっは! そりゃ頼もしいな!」


 アルヒテクアさんはそう言い僕の肩を軽くたたきながらドアに手をかけ少し開いたところで振り返らずに呟く。


「鉄操ちゃん。どんなことが起きても、どんな話だろうと自分の名前のように心の準備をしておけよ」


 去り際にそんな事を言って部屋を後にするアルヒテクアさん。僕はなんのことだかわからないまま再び仰向けに寝そべる。心の準備? 一体何の事だろうか。僕はそのことを考えているうちにいつの間にか眠りについてしまった。


 ここまで読んでくださりありがとうございます! ニコニコ大元帥です!


 ついに始まりました第一章の第一話! ここから物語がスタートとなりますが、今作の主人公奏虎鉄操君の登場です! 彼もそうですが今作では名前を付けるにあたって大分こだわっていましてアルヒテクアさんとシュフンハイトさんは名前がドイツ語から取り、ウン・カンターテさん達はイタリア語から持ってきています!


意味は後々説明します! それでは次回もよろしくお願いいたします!

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