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TRE~宝を奪われた能力者~  作者: ニコニコ大元帥
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プロローグ1~最後の希望~

 アンティズメンノ・アルダポースがここに記す第9万4890冊目の手記。


 この美しい惑星に着いて今日で丁度10年の月日が流れた。この10年間でしたことと言えば、能力者を生み出したり、戦闘訓練にあけくれる毎日。兄さんも口に出すのは『奴』についてばかりで、最近では『奴』の事に関する事以外で会話をすることが少なくなってきた。


 無理もない。兄さんはそれ程までにこの状況を変えようと努力しているのだから。


 そして、ここの惑星の住人もそれに答えるかのように協力してくれて私はとても感謝している。

 10年前、突如宇宙から来た得体のしれない私達を友人や家族のように温かく迎え入れてくれただけでなく、我々の言葉を信じて能力者になってくれたり、戦闘訓練を行ってくれているのだから、ここの惑星の方々はとても良い方ばかりだと改めて思う。


 脳が二つあるが為に知識も学もあり、背丈も2mを軽く超え体格も良く、腕も4本生えており、精神面も強い。そのうえ明るく誰とでも仲良く接し、仲間の事を大切にする素晴らしい種族で、戦闘訓練が終わるとすぐに私と兄さんを家へと招待してくれるのだ。それも毎日。


 兄さんは彼らに招待されても殆ど家へ行った事はない。


 きっと……


 だが私は必ず行くことにしている。油滴る骨付き肉や新鮮な魚の刺身。素朴でどこか懐かしい家庭料理の数々。そしてその日の訓練や出来事を肴に飲む美味な酒。私はこの星の家族達と過ごすのがたまらなく好きだ。


 なぜならこの時だけは戦いや『奴』の事などの嫌な事を全て忘れられるのだから……


 そうそう。今日のご招待ではある出来事が起きた。初めて来たとき、まだ10歳の子供だった男性が私に結婚を申し込んできたのだ。なんでも初めて会った時に私に一目惚れしていたらしく、この10年目の節目に意を決して行動を起こしたらしいのだ。彼はこの10年間毎日のように顔を合わせていたからよく知っている。

 どちらかと言えばひょうきんな性格で、悪い事が起きても持ち前のユーモアで笑いに変える者だった。だが大切な場面や会議の場ではまっすぐとした意見を話したりできるこの星の人気者だ。告白してきた時の彼の眼はそんな真剣なものだった。

 そんな彼の眼と言葉を見ていると……私も満更でもない。だから私は彼に言ってあげた。「この戦いで『奴』を倒すことができれば、お付き合いから始めてあげる」と。彼はその言葉を聞き歓喜の声を上げた。いや、どうやらこの星の全員に知られていたらしく、星中が歓声に包まれた。そしてその勢いはどんどん広がっていき、星を上げた祝杯となり、私はみんなと一緒に大いにその祭を楽しんだ。


 出来ることなら……この楽しいひと時が永遠に続いてほしい。

 出来ることなら……明日もこうやってこの人達と笑顔で過ごしたい。

 出来ることなら……戦いなんてやめて平和に暮らしていたい。


 私はそんな事をこの10年間毎日思っていた。いや、3億4634万8500日、欠かさず思っていた。


 今度こそ願いが叶う。

 今度こそこの日記を書かなくて済む。

 今度こそ平和が訪れる。


 私はかつて自身を神と名乗る種族に遭遇した事もあるが、どうか……本当に願いを叶えて下さる神様がいるのでしたら……私の願いをかなえてください……








「美しい星だった。だがもう終わりだな」

「くっ……!」

「うう……」


 『奴』の重く圧し掛かるような重低音の声が発せられる。『奴』は右手に掴んでいた戦士の頭部を投げ捨て、足元に横たわっている死体達の隙間を縫うようにこちらへと歩み寄ってきた。


「もういいだろうメタスターシ、アンティズメンノ」


 『奴』は立ち止まると周囲を見渡す。荒れ果てた土地にあちこちで上がる黒煙。薄黒く淀んだ雲が広がる空を見上げながら悲しげな表情を浮かべ、ため息交じりにそう呟いた。


「こんな状態にしたのは……どこの誰だと思っている?」


 美しい星だった。そう。『奴』の言う通りこの星は美しい星だった。この55万㎢もの広大な面積の星には、樹齢数千年の積乱雲のような大きさの樹木が生い茂る荘厳な森や、豊富な栄養素を含んだ広大で美しい海。一吸いするたびに体の毒素が浄化されそうな透き通った新鮮な空気に、見た目も大きさも生態も違う個性豊かな数億を超える様々な動植物達。そして今まで会った星人の中でもずば抜けた身体能力を有し、聡明で情の満ちた素晴らしい種族の暮らす絢爛な星だった。


 だが……今は違う。


 太く高い木々は根こそぎ薙ぎ倒され、広大で美しい海は殺伐とした砂の海に変わり、新鮮で澄んだ空気は鼻や喉、肺に絡みつく粘着性のあるものになり、数億を超える動植物は全て死に絶え、生物の楽園のような星は……地獄の星へと変貌を遂げてしまった。


「それはお前達を含めこの星の者達が無駄な抵抗をするからだろう? 一丁前に能力者を増やしおって……アンティズメンノ。お前の仕業だな?」

「1つ違うわ……。こうなったのはあなたの危険な思想のせいよ……」

「その通りだ。お前の歪んだ野望のせいで戦士を、能力者を増やすしか選択肢がなかった。お前を倒すためにな」

「歪んだ野望……か」 


 そう呟くと『奴』は近くの切り株に歩み寄り、その象のような巨体をそこに腰かける。体の力を抜き、目を閉じ、不敵な笑みを浮かべ、無言のまま思考し始め、辺りは静寂に包まれる。数秒後、静かに瞳を開き『奴』はこちらを見つめる。


「メタスターシ、アンティズメンノ。お前達は私の境遇を知り、私の願いを知ってなお、歪んだ野望と言えるのか?」 


 先程と同様に重く圧し掛かるような声だが、今度は物理的に体が重くなる。まるでずぶ濡れの着物を羽織ったような感覚だ。『奴』が能力を使ったのね。それにしても……


「……まだお前の体の中に涙なんてモノが残っていたんだな」


 『奴』の瞳から一滴の涙が流れ、頬を伝って顎の先から地面へと落ちる。


「ふっ……随分と酷い言い草だなメタスターシ。昔は私の事を実の兄のように慕ってくれたのにな」

「確かにお前を尊敬し憧れている時もあった。それにお前の境遇や願いは同情する。だが……だからと言ってこの星の……いや! この宇宙の星や人々を壊し、殺すのは間違っている!」

『阻止させてもらうぞ!』

『この場でお前の野望を終らせてやる!』


 兄さんと生き残っている戦士達が『奴』の前に立つ。これが最後の攻撃になるかもしれない……。そういう覚悟の念が兄さんと戦士達から伝わってくる。そんな兄さんや戦士達の威圧を前にしても『奴』は気圧される気配など微塵も見せずに切り株から腰を上げ立ち上がる。


「ふっ……同情をしてもらう気など毛頭ない。それにここで私の願いを終らせる気も、阻止させるつもりもない。メタスターシ……それにこの星の戦士達よ。来るがいい。叩き潰してやる」


 『奴』は笑みを浮かべながら両腕を軽く開き、こちらの出方を待つように様子を伺っている。そんな『奴』を前に戦士達は一斉に攻撃を開始した。


『くらえ! 家族の苦しみを味わえ!』

『地獄へ落ちろ!』


 戦士2人の両手に炎の火種が生み出され、どんどんと火の勢いが強くなっていく。そして戦士は自分の顔と同じほどの大きさにまで成長した炎を『奴』に放ち、『奴』の体は爆炎に飲み込まれる。


『「うおおおおおおおお!!!」』


 更に戦士達はその炎を操作し、火球を巨大な火柱に形状変化させ追い打ちをかける。


『どうだ! 私達の攻撃は!』

『炎に焼かれ消し炭になるがいい!』


 戦士達は目を細めながらその凄まじい火柱を見据える。辺りの石が融解し始めているということは少なくとも1000℃は下らない炎が『奴』を飲み込んでいるという事。この戦士達は他の戦士達と違って能力が強い。同じ炎を扱う能力者は何人もいるが、先に殺されてしまった戦士達よりも強く、繊細なコントロールができる。いわばこの星にいる精鋭だ。


『行ける! これで『奴』も一巻の終わりだ!』

『くたばれぇええええ!!』


 炎を操っている戦士達は高揚し、それと相まって火柱はさらに勢いを増していく。


『凄い熱波だ! ここにいる俺達も危ないぜ!』

『へへへ! 俺達の出番なんかなさそう……』

「その程度か……」

『「「っ!?」」』


 火柱の中から『奴』の声がした瞬間、40㎝近い巨大な塊が二つ火柱から飛び出し、炎を操っていた2人の戦士の頭に覆いかぶさる。そして2人は火柱の中へと引き込まれてしまった。


『「ぎゃあああああ!!」』


 その飛び出した物体が火傷1つしていない『奴』の手だと分かった時には、火柱の中から戦士2人の絶叫が響き渡っていた。数秒後火柱がなくなると火柱の中心だった場所には『奴』が2人の頭を鷲掴みにして立っていた。いや……戦士だったものと言った方が正しい。


『うっ……!』

『そんな……!』


 鼻をつんざく悪臭がこちらに漂ってくる。2人の体は自ら放った石をも溶かす灼熱の炎で焼かれたため、全身は焼きただれ、黒焦げになって絶命し、もはや原型がとどめられていない半液状状態と完全に焼けた炭になっていた。


『ば、馬鹿な……! 戦士2人が一瞬であれ程の状態になる火力で10秒以上焼かれたというのに、何故『奴』は火傷1つ負っていない……!』

『一体なんの能力なんだ!?』

「いえ……『奴』は能力を何も使っていませんわ」

『何!?』

『生身で耐えたというのか!?』

「この程度の火力では能力を使うまでもないな。ふぅぅぅ……」

『「「うっ……!」」』


 『奴』は両手に掴んでいた戦士の頭を卵のように握り潰し、粉々になった炭に息を吹きかけこちらに飛ばしてきた。


「悪くない攻撃だったがまだまだだな。ある星の攻撃は良かったぞ。熱核反応を用いた兵器らしいが、それはそれは凄まじい破壊力だった。小さな島を軽く吹き飛ばすほどの威力で、流石の私も軽傷を負った」

『おいおい……冗談きついぜ……』

『少なくとも島を吹き飛ばすほどの威力を『奴』にぶつけないと傷一つ付かないということか……』

『本当に勝てるのか……?』

『メタスターシ様! 『奴』と我々との差はこれ程あったのですか!?』

「ああ。前までの星の住人たちのように『奴』の能力や力を知って戦う前から戦意喪失されても困るし、君たちの戦意を落とさないように黙っていたが、今まで『奴』に挑んだ星は9万4890個。その中で『奴』に大傷を負わせられた星は18個しかなかった」

『「な、なんだって!?」』


 そう……ただでさえ反則のような能力がある上に『奴』は生身でも異常なまでに強い。そんな兄さんの話を聞いて周りの戦士達がさらに青ざめる。そんな中『奴』は兄さんの言葉に違和感を感じ話かけてきた。


「メタスターシ。今の話はなんだ? 9万4890個? 貴様と戦ったのはこの星が初めて……他の星で戦った時、貴様はいなかったはず――」


 瞬間、『奴』の足元が陥没し、『奴』の体が膝上まで埋まる。


『今だ! キツイの喰らわせてやれ!』

『おう!』


 『奴』が気を取られた一瞬のスキを突き、2人の戦士が攻撃を仕掛けた。土を操作する能力者が『奴』を拘束し、もう1人の戦士が能力を発動。この能力者は怪力系の能力者で、地面に指を突き刺した後、力の限り地盤を持ち上げる。地盤の大きさは直径10mはあるだろう。それを勢いつけて『奴』の上空めがけて投げ飛ばし、そこから数個同じ要領で投げ飛ばした。結果、上空から巨大な岩が頭上から『奴』に落下する。


「小賢しい」

『な、なんだ!?』

『い、岩が泡に変わった!?』


 『奴』が上空の巨石を睨みつけると、戦士が投げ飛ばした巨石は泡に姿を変えた。ついに『奴』が能力を使い始めたのね。


『な、なんだ一体!? なんの能力だ!?』

『く、くそ! これでもくらえ!』


 横にいた戦士が能力を発動し、『奴』めがけて火炎を放射する。だが火炎は『奴』に届く前に消え失せ、そよ風へと変わってしまう。


「話の邪魔をするな戦士達よ」


 『奴』は足元から小石を拾い上げ、大して力を入れる様子もなく戦士に向かって投げる。


『は! そんな小石で俺らを倒せると思っているのか!』

『なめるなよ!』

「っ! 回避しろ!」

『ぐぁああああああ!!』


 『奴』の投げた小石は弾丸のような速度にまで加速。さらに小石は先程戦士が投げた岩をゆうに超えるものとなって戦士3人に直撃し、戦士の体は辺りに眼球や内臓、手足といった肉片をまき散らしながら四散し絶命した。


「メタスターシ、アンティズメンノ。貴様らには色々と聞きたいことがある。だが……」


 『奴』は我々の頭上に小石をばら撒いた後に能力を発動。無数の小石は巨大な岩石に変化し、そこからさらに能力を重ね掛けする。上空にある巨大な岩石は隕石のような勢いで我々に降り注ぐ。


「他の者に用はない。さっさと死ぬがいい」

「ふん! させるか!」


 今度は兄さんが能力を発動。一瞬にして隕石を消え去った。


『おお! 流石メタスターシ様!』

『『奴』なんて目じゃないですね!』

「ふっ……相変わらず見事な能力だなメタスターシ。今まで様々な能力者を見てきたが、お前を超える能力者は未だ見たことがない。宇宙一のテレポート能力……それにアンティズメンノ。この星の能力を使える戦士が多いのはお前の「能力開花」の能力だろう?」

「だったらどうした」

「いやなに。あんなにも幼かった2人がこれほどまでに成長するとはな」


 『奴』は懐かしむように笑みを浮かべる。


「その2人が今や私と同じように『彼』や『妹』となどと呼ばれ、この私に歯向かうとはな」

「言っただろう? 阻止させてもらうとな」

「良いだろう。全力で来るがいい。残りの戦士も私を殺す勢いでな」

「言われるまでもない! 今度こそお前の野望を阻止させてもらうぞ!」

『この星を守るんだ! 行くぞ皆の者!』

『おおお! メタスターシ様に続けぇえええ!!』

『「「うおおおおおおおお!!」」』




 そして、最後の戦いが始まった。残りの戦士達1万人を先頭に、無能力者の女性や老人、子供までもが武器を取り、星全体の住人……数にして1000億もの人数が一斉に『奴』に襲いかかる。更に兄さんも加勢し、炎、水、土、風、電気、氷……様々な能力に、無数の刃、矢、槍などが『奴』に絶え間なく襲いかかった。





 この星の生き残りが命を懸けて行う攻撃は不眠不休で一週間絶え間なく続いた後……

 




 辺りには再び静寂が訪れる――――





『く……そ……!』

『ここまで……か……』


 結果は今までと同じだった。『奴』の勝ちだ。


 命を懸けた星の住人、戦士達の特攻は『奴』の前では無力同然だった。

 全ての攻撃は無効化され、何倍にも膨れ上がった『奴』の攻撃により一人、また一人とは死に、『奴』は戦士だけでなく女でも老人でも、子供や赤子までも手をかけ、皆殺しにした。

 


「よく頑張ったな戦士達、そしてこの星に住む住人達よ。だがここまでだ。さて、それでは始めるか」


 『奴』は地面に手をつき能力を発動。地面は揺れ出し、『奴』の手の平に吸われていく。山や建物、倒れた木々。そして住人や戦士達の死体までもが『奴』に吸われていき、それに伴い『奴』の体も大きく、太く、より強靭なものへと肥大化していく。


「これで私の野望にまた1つ近づいた。次はどの惑星にしようか」

「もう、生物が住んでいる星はない」

「……何?」


 地に背を付け大の字に寝そべりながら空を見ている兄さんのセリフに、『奴』は疑問符を浮かべる。


「それは本当か? もうそんなに星を吸っていたのか……ならば」

「「他の広大で資源の豊富な星を狙おう」」

「だろ?」

「!?」


 『奴』は驚きのあまり、星を吸収するその手を止めて立ち上がる。


「アルダポース……貴様、なぜ私が次に話す言葉がわかった?」

「それはお前が何度も同じセリフを繰り返したからだ」


 兄さんはゆっくりと体を起こしながら『奴』の質問に答える。


「そういえば先程も奇妙な事を言っていたな。確か……9万個の星で会ったと……」

「正確には9万4890個だ」

「メタスターシ、アンティズメンノ。その話、詳しく聞かせろ。さもなくば……」


 『奴』はこちらに手をかざし、脅すような口調で睨みつけてくる。


「いいだろう。だが先に一つ聞かせろ」

「なんだ?」

「お前が一週間前に言っていた、熱核反応がどうとか言っていた星はどこにある?」

「なぜそんなことを言わねばならん」

「……冥土の土産ってやつさ」

「ふっ……。流石のお前も死の覚悟を決めたか。良かろう。その場所はここから4億光年先にある太陽系の太陽から3番目にある青い星。その星に住んでいる者達はその星の事を地球と呼んでいた」

「成程……それだけわかれば十分だ。さらばだ」


 兄さんは私に近寄り能力を発動。兄さんと私の体は発光し眩い光で包まれる。


「テレポートする気か。私との約束はどうした? それに、もうどこへ行こうと生物はいないはずなんだろう?」

「ああ、この時代には」

「? それはどういう……」

「何度でもお前に挑んでやる! お前を止めるためにな! はあああああああ!!!」

「待て! メタス……」


 その瞬間、目の前から『奴』は消え去った。これは私達がテレポートしたからだ。そしてテレポートした場所は木々が生い茂り、美しい青空が広がった惑星。つまり……


「過去へのテレポート、成功ですね兄さん」

「ああ……」


 ここは過去の美しい状態の星だ。まだ『奴』の侵略が及んでいない、まだ『奴』が動き出して間もない10年前の世界。


「くっ……!」

「兄さん!? 大丈夫ですか!? 少し休んでください!」


 兄さんは疲労のあまり倒れこんでしまう。過去にテレポートするだけでもとんでもないエネルギーを消耗するのに、先程まで『奴』と死闘を繰り広げていたのだから無理もない。


「やはり過去へのテレポートは体力を使うな……」

「体力どころか命すら削っています。兄さん……大丈夫ですか?」

「ああ。多分もう過去へは1回くらいしか行けないだろうけど、生活には何も支障ないよ。それに普通の戦闘で能力を使うのにも問題ないかな」


 私は兄さんの額の汗を拭きながら、破壊されて荒廃していた状態から元に戻ったこの美しい自然を見渡す。


「……また、なさるのですね」

「当たり前だ。今回の戦いが最後のチャンスだと思っていた。けど敵わなかった。もうだめだと思ったが、まだ希望はあった。『奴』が言っていた地球という場所……そこが最後の希望だ」

「しかし大丈夫でしょうか? ここの星の種族は今までの星の者達より強く、賢く、多かった。それなのに負けってしまった。その地球という惑星がどれほどなのかもわかりません……」

「能力者で補うしかない。ここの星の種族は能力者になることを拒んだ者も多かったし、穏健派の者も多かった。だから次はその星の者達を全員能力者にする勢いで行くぞ」

「兄さん? 少しやりすぎでは……」

「お前もわかっているだろう? 例えどんな事をしようとも『奴』を止めなければならないということを」

「……はい」


 兄さんの表情には余裕がない。昔は明るくそれでいて冷静で物事を深く考えることができる方だったのに、今の兄さんは焦りや不安や苛立ちからか、まるで別人のような顔つきや性格に変わってしまった。


「そうだとも……例えどんな事をしようとも……」




 アンティズメンノ・アルダポースがここに記す第9万4891冊目の手記。


 再び繰り返される過去へのテレポート。これで9万4891回目の挑戦となる。

 『奴』からの情報で高度な知能を持った種族のいる星の情報と場所を知り、私達兄妹は地球という名の惑星を目指して旅立った。思い出の地を後にするのは辛いが、これもしょうがない事だし、もう9万回以上繰り返した事だから慣れてしまった。


 だがこの旅も終わるかもしれない。それは2つの要因にある。


 1つ目の要因は今から行く星が最後だというもの。厳密にいえば生き物がいる星はまだあるかもしれないが、言語を話し、高度な知能を持った種族のいる星がこれで最後だということだ。ある程度それらの要素がないと『奴』の能力や戦い方、また私が能力を授けても上手く使いこなせない。そう言った条件を満たす星はもう9万4890個渡り歩いてしまったからだ。


 2つ目の要因は兄さんの問題だ。兄さんは強がってはいるが、もう今回のような過去へと戻るテレポートは出来ないほど体力と精神力、そして命を削っている。もしできたとしてもせいぜい1回。大きなタイムテレポートはもう出来ないだろう。


 だから今回の星が本当に最後のチャンス。最後の希望なのだ。


 だが私はどこかホッとしている。


 なぜならもうこんな辛い旅をしなくて済むのだから。

 もう誰からも忘れられずに済むのだから。

 もう戦わなくて済むのだから。

 勝っても負けてもこの事実は変わらない。けど私はここで気を緩めたりはしない。ここで気を緩めたら今までの旅が意味のないものになってしまう。今までの出会いや別れが無意味なものになってしまう。だから私は兄さんと共に全力を尽くす。


この9万4891番目の星。


青く、小さく、丸いこの地球という名の最後の希望の星で……


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― 新着の感想 ―
[一言] Twitterより飛来しました。 え、地球が危ないの!? と思わせるあたり、上手く意外性が演出されています。
[気になる点] あらすじもプロローグも頭に入ってきません。 壮大な内容と専門用語、あと文章の多さがそうさせるのだと思います。
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