1-5 自衛官、次の世界に思いを馳せる
敵隊列前後で轟音とともに爆発がおこる。
その爆発を皮切りに、少し小規模な爆発が立て続けに起き、上空をUH-1Yの編隊が通過する。
「射撃開始」
部隊無線に射撃開始を告げる。
先ほどの爆発に比べると軽い連続破裂音が響きだす。
敵隊列の方を見やると、完全に混乱しているようである。
隊列中央にいた馬車も隊列前後が攻撃されて完全に身動きとれないようだ。
『馬車付近で魔法の詠唱を確認』
無線の声に反応して、馬車付近を確認すると、メイスのようなものを掲げた男の周りに魔法陣のような紋様が浮かんでいる。うーん、ファンタジー。
と、突然その男が弾き飛ばされるように倒れた。
『おやすみ』
『ナイスキル』
軽快なMINIMIの射撃音と重厚なAHの20mmの射撃音にまぎれて発砲音は聞こえないが、狙撃手も仕事をしているようだ。
「そろそろかな」
馬車付近の護衛もMINIMIと狙撃でかなり数が減ってきた。
「前進して馬車を確保する」
『了解、一気に押さえる』
『援護を継続する。目標があれば指示を』
狙撃班の返事も確認し、立ち上がる。
茂みから他の隊員も一斉に立ち上がり、攻撃前進を開始する。
護衛の何人かはこちらに気付いたようだが、全体としては混乱状態で組織的には対処できないようだ。
突然未知の兵器から待ち伏せ攻撃を受けたら当たり前か。
こちらに気付いた人間から順番に対処していく。
人間相手に発砲するのは初めてだが、不思議なほど落ち着いている。
ACOGのレティクルを目標に合わせて引き金を引く。
銃口を飛び出した5.56mmNATO弾は相手の着ている鎧を容易く貫通し、致命傷を与えている。
鎧はせいぜいが剣や槍の刺突までしか考慮されていないだろう。9mmでも十分貫通できそうだ。
あっという間に馬車周囲の敵を排除し、街道上で停止している馬車に辿り着く。
『馬車は外から施錠されています』
「開けられるか」
馬車の周囲で防御隊形をとりながら無線で確認する。
まぁ、どのみち馬車が鉄でできているわけではないので、叩き壊せばいいのだが。
と、小銃やMINIMIとは異なる発砲音が響いた。
『開けました。内部に2名確認』
12ゲージかな?持ってきた覚えはないので、海兵隊だろう。
『日本語の応答と氏名が被害者名簿と一致』
『撤収準備にかかる』
無線に意識を向けながらも、周辺を警戒する。
敵は最早組織的抵抗を示しておらず、むしろ散り散りに逃げている。
撤収用のUH-1JとUH-1Yが近づいてくる。
さして見どころもなく救出作戦は終了した。
「結局なんか魔法っぽいこと使おうとしたのがいただけでファンタジー要素皆無でしたねー」
秋月三曹が小銃を整備しながら残念そうに言う。
「いや、鎧着てる騎士があんだけうろうろしてる時点で十分ファンタジーだろ」
「そういや南方200キロくらいで海兵隊が体長5mくらいの巨人見たとか言ってたな」
「この世界は魔王とやらがいるんだろ。どんな見た目なんだろうな」
「世界の半分くれたりするんですかね」
各々装備を整備したり点検したりしながら勝手なことを言っている。
確かにファンタジーな何かを見れなかったのは残念ではあるが、どうせ他の世界も行くのだし、何か見る機会はあるだろう。
「というか、俺らはもう撤収して次の世界らしいからこの世界ではファンタジー要素は見れないぞ」
「「「「え?」」」」
拉致被害者の救出が終わったので派遣部隊の主任務は、資源収集に移っている。
米軍はヘリで飛び回って変な鉱石やら植物やらを集め倒しているし、自衛隊側も小規模な車両部隊を方々に出している。
拉致被害者がすでにいない状況では、漏れがないように情報収集しているという名目でも大規模な部隊を置いておくわけにはいかないので、次の世界の偵察を始めなければならない。
一部では、好機とはいえ救出が拙速すぎたのではないかという意見もでていた。
とにかく批判したい連中は火力で圧倒したことや、敵に投降を呼びかけなかったことや手足を狙って撃たなかったことを理由に批判しているらしい。正直、どうでもいい。
一方で、単純に主力派遣直後の急襲で情報収集や準備は十分だったのかという批判もある。これについては、まぁ、即時投入可能な火力で行けそうだからと強行しただけだから、派遣部隊も本省もいろいろ思うところはあるようだが。
「まぁ、なんにせよ、次の世界もここと似たような世界らしいから、いろいろ見られるといいな」
適当に締めて分解していた小銃を組み上げた。