2-5 自衛官、ペットをもふる
<ちゃんと話を聞いているのか・・・>
とりあえずもふる場所に不自由しない巨体に体をうずめていると王狼が呆れたように言った。
まぁ、声ではなく頭に直接聞こえてくるイメージなので、テレパスに近いのだろうが。
川で恐竜っぽい何かから助けて以降懐かれているので、現地協力者ということにして一緒に行動している。
まぁ、昼寝してたら恐竜っぽいの(竜種らしいが)に噛まれたとか野生の狼としてどうなのかと思う間抜けっぷりだが、これでももともと狼種では一番偉かったらしい。
なんにせよ意思疎通できる動物とか便利すぎて涙が出る。
「あれだろ、もう歳だから次の世代の王狼を育てようとしたら、それが人間に連れ去られたって話だろ」
代替わりの際は王狼が後継者を定めて自ら生まれてすぐから育てるらしい。
で、目を離した隙に魔物商に連れ去れていたと。
「間抜けな話だなぁ」
<お前は所々容赦がないな・・・>
で、連れ去られた街はわかったのでそこを配下もフルに使って封鎖したらしい。
「それ、川から運び出されたり、街の中で飼われたらどうしようもないんじゃ?」
王狼はそっと目を逸らした。
こいつ考えてなかったな。
「それはそれとして、その子王狼は戻ってきたんだろ?」
<今は独り立ちして、私は隠居だ。>
なんでもその街から出る馬車や荷車を片っ端から襲撃していたら、狼たちを討伐しようと勇者たちが乗り出してきたらしい。
<討伐にきた勇者パーティーをボコボコにして街で我が子を探してもらったわけだ>
勇者パーティー負けたのかよ・・・。
まぁ情報を総合すると勇者は日本から召喚で拉致された一般人のようなので、当たり前といえば当たり前なのかもしれない。
なんか恐竜みたいなのに食われそうになってたので王狼は弱いのかと思っていたが、大抵のモンスターは王狼を見ると逃げていくのでかなり強いらしい。
「とにかく、俺らはその勇者を日本に連れ戻さんといかんわけだが」
<今代の魔王は討伐されたと聞いているが?>
初耳なんですが。
「んじゃ、もう日本に帰ってるのか?」
<過去の勇者で魔王討伐して元の世界に帰ったなんて話は聞いたことないがな>
王狼はかなりの長生きらしく、この世界の情報の生き字引としてかなり優秀な協力者だった。
あと、鞍をつけて乗れるようにしても文句も言わず、荷物まで運んでくれるので実際優秀すぎて連れて帰りたい。
「隊長、遊んでないでそろそろ時間ですよ」
秋月三曹が呆れたように声をかけてきた。
「羨ましいか」
俺は王狼をもふり続ける。
「その犬、俺が触ろうとすると牙むいて威嚇してくるんですよ」
秋月が「犬」と言った時に王狼は不快そうにしていた。
言葉を理解してる相手なんだからその呼び方やめないと触らせてもらえないと思うぞ?
「さて、ぼちぼち定時連絡するか」
この世界に来て1ヶ月が経過したものの、日本人の現状に関する情報はなかった。
とりあえずこの王狼が会った時の感じでは、パーティーを組んで魔王討伐を目指していたとのこと。
前の世界のように引きこもってないのは拠点強襲を考慮しなくていいので都合がいいのだが、所在確認が大変になるのでどっちもどっちだなというのが正直な感想だった。
「そもそもこの世界の勇者ってなんなの?」
<聖剣によって異世界から召喚される存在で、魔王に止めを刺すには勇者が聖剣を魔王の心臓に突き立てる必要があるとされてるな>
つまり過去にも連れてこられた日本人がいたということだろうか。
もっとも、前回の勇者召喚は数百年前とのことなので、この世界に今の勇者以外の日本人がいる可能性は低そうであるが。
「そろそろ街に入って情報収集せんとダメかなぁ」
日本人がいる場所と状況がわからないことには派遣部隊の主力をどうするか決められないので、今も中央機動連隊主力は前の世界にとどまったままである。
日本に戻っていないのは資源収集が思ったより成果があったせいらしく、研究機関やアメリカは早く次の世界にも派遣しろと息巻いているらしい。
お役所の都合はどうでもいいが、今のところこの世界で接触できた情報源が王狼だけという有様である。
危険はあるが、人の集まるところで直接情報収集しないといけないだろうなぁと思いながら、それを探す苦労にげんなりしながら定時連絡の無線をつなぐのだった。




