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0-1 自衛官、日本に帰る

「起立多数、よって本案は委員長報告の通り可決されました」


議長が事務的に告げる声が流れるニュース映像を見たのは、ネットニュースだった。

ちょうどアメリカに研修で派遣されており、派遣先でお前も派遣されるのかだの、お前は行ったことあるのかだの、俺も行ってみたいから連れて行ってくれだの、自衛官だとわかるや散々声をかけられた。

まぁ、それだけセンセーショナルなニュースだったし、海外での関心も高かったということだろう。


“異世界の召喚等による日本人拉致被害に対する特別措置に関する法案”


2000年代に入り、何の予兆もなく日本人が失踪する事案が多数発生しだした。

当初は前科持ちの某国による拉致が疑われたものの、日本海で不審な船も発見されず、そもそも家から出ない引きこもりなども多数失踪するに至り、捜査当局は原因不明の失踪に頭を抱えることになった。


そして、失踪したときと同じく、何人かが突然戻ってくるという事案も発生しだした。

失踪した間に何があったのか、ほとんどの者が口を閉ざしていたが、一部の者がぺらぺらしゃべったり、警察やらなんやらの“聞き出そうという努力”の結果、彼らは一様に


「異世界にいた」


という旨の供述を行った。


ある者は勇者として召喚され魔王と戦っただの、またある者は気づいたら冒険者になっていただの、またある者は現代知識を使って商売で成功しただの、それぞれがバラバラの所に行って、全然違うことを行っていた。


しかし、全員が“何者か”に異世界にとばされたということだけは共通していた。

勇者召喚を行った王国だったり、救世主の降臨を願った宗教だったり、果ては神を自称する愉快犯だったりと、何かしら彼らが異世界に行くことを願った存在がいたのである。


また、戻ってきた者の一部は、いなかったのは数日のはずなのに妙に体格が良くなっていたり、不思議な力が使えたりと、供述を裏付けるような不思議な現象も多発していた。

何の接点もない複数の人間が、同じようなことを言い、それを裏付けるような不思議な事象が発生する。


ここに至り、政府も異世界というのが本当に存在し、多数の失踪者はその世界に飛ばされたのではないか?という仮説を立てざるを得なくなった。


一度仮説を立てて動き出せば、日本の官僚機構はブルドーザーのように突き進んでいくだけである。

いつの間にやら、異世界を観測する装置がつくられ、気付いたら異世界に転移する装置が作られていた。

で、ここまでくれば野心むき出しの近所の大陸国家とかが茶々をいれてくるわけだが、不思議なことに異世界につながるのは日本国内に限られた。

そのことがわかると、日本政府は珍しく強気に出た。


「この問題は日本国内で発生している治安問題である」


時の内閣総理大臣の言葉だが、アメリカ大統領が追認したことで他国は首を突っ込みにくくなった。

もっとも、そのアメリカ大統領が議会に対して


「日本の”唯一の”同盟国としてこの問題に最大限の支援と関与を行っている」


などと言っていることからして、この件の情報へのフリーアクセス権どころか異世界への干渉までも引き換えに対外圧力の緩和や防諜をアメリカに丸投げしているのは明白だった。

まさに、戦後は続くよどこまでも、という対米従属であるが、それによってこの国が繁栄を謳歌してきたのもまた事実である。


まぁ、そんなことは一自衛官には関係ないので、法案の内容である。

異世界拉致特措法と略される(それでも長いが)法案の骨子は、ほぼ自衛隊の治安出動に関わるものである。


派遣部隊は派遣中に随時、防衛相や首相の指示を仰ぐことが困難なので、武器使用は部隊指揮官に一任され、かつ使用範囲も無制限が想定されていた。

これは派遣先に存在する勢力がヒト種であるとは限らず、敵対勢力にドラゴンなどのモンスターも想定されるという事前情報によるものである。

人を喰うようなモンスター相手に警告と威嚇射撃とかやってられないし、敵対勢力に先制攻撃しかけてもどうせ先に日本人を拉致したのはあっちだから問題ないとかいう乱暴な論理によるものらしい。


派遣部隊の規模は特に法案にはないが、対象は三自衛隊全てになっている。

海が多い異世界も発見されているので、海自の派遣に含みを持たせたのだという。

陸幕にいる同期に聞いた限りでは、派遣規模は基本的に1個連隊を想定して、編成は派遣先に合わせて決めるらしい。


文官も派遣されることになっていたが、所轄官庁を決めるときに一悶着起こった。

「他国との交渉」なら外務省の管轄だが、国内問題と強弁している都合で外務省は使えない。

となると、国内のことなら総務省かという話になったが、地方自治体が相手ではないからと総務省が難色を示した。


外務省から総務省に出向させて部署を立ち上げるなんて話もでたが、とある閣僚が「治安問題なんだから警察の仕事だろう」と言ったとか言わないとかで、警察が交渉人を派遣することになった。

派遣される警察官は災難だなぁと思う。


戦闘部隊の派遣が前提になっていることからして、”拉致被害者”の武力奪還が前提になっているわけだが、本音のところでは異世界に存在する未知の生物や物質を収集することが期待されているのは明白だった。

特定の異世界と恒常的につながることはできず、油田を見つけてもパイプラインは引けないないので旨みはないが、未知の新元素や遺伝子情報を発見できれば、それを日本とアメリカが独占できるのである。

まぁ、何にせよ、自分には関係のない話。帰国するまではそう思っていた。


「お、帰国したのか。ちょうど良かったよ、原隊に空きポストもないし、陸上総隊に新設された部隊にいってもらうことにしたから」


帰国して上官に挨拶に行ったらそう無慈悲に告げられた。

新しい配属先は中央機動連隊。派遣先に応じて”機動的に改編されるから”というのが名前の由来らしい。雑すぎるだろ。

こうして、望んだわけでもないのに異世界に派遣される中核部隊に配属されることになってしまった。

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