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あの雨の日

作者: 桃色豹

人の人生ってそれ自体が物語だと思うんです。

その人の人生の中ではその人が主人公。

ってことは日常の些細な事だって

書き起こせば立派な小説になると!

そうおもいませんか!?

小学生の頃 雨が嫌いだった


体育が自習になり

遠足は中止

運動会は延期になり種目が減る


長靴の中に雨が溜まって気持ち悪い

親父のお下がりの傘は地味でかっこ悪い

でも雨合羽はもっとかっこ悪い


だから雨が嫌いだった


ある日 友達の家から帰る途中

突然の夕立に襲われた

長靴も傘も雨合羽も無い

とにかく走ったんだ

泣きながら必死で家までの道を


近道しようと思って田んぼの畦道に入ったら

予想以上にぬかるんでて

お気に入りの仮面ライダーの靴が泥だらけになった

すごく欲しかったからオネダリして買ってもらったやつ

悔しくて また涙が溢れ出す

次の瞬間 畦道を踏み外しちゃって

顔から思いっきり田んぼに突っ込んだ

何が起きたのかわかんなかった

田んぼにうつ伏せになったまま顔だけ上げて

雨の音が妙に近く感じた

気づいたら声を上げて泣いてたんだ



あの頃のボクはすっごく泣き虫だったから

どの思い出にも泣いてるシーンがある

1口しか食べてないアイスクリームを落っことしたり

野良犬に追いかけられたり

木に登ってたら落っこちたり

何もない所で転んだり

妹のユキに宝物だったフラッシュロボを壊されたり


その度に『お兄ちゃんなんだから』って怒られて

お兄ちゃんって言ったって

妹はたったの1つ下ってだけなのに

何でもかんでも『お兄ちゃんなんだから』で済ますなよ

そんな風にずっと思ってた



で、田んぼでうつ伏せになって泣いてたら

向こうの方で泣き声が聞こえたんだ

もちろんボクも泣いてたんだけど

ボクのよりおっきい泣き声

しかもボクの良く知ってるやつ


立ち上がって泣き声のする方を見ると

妹のユキが道路を1人で泣きながら歩いてた

気づいたら走り出してた

涙も止まってた


駆け寄って『どうしたの』って聞いたんだ

泥だらけのボクが『どうしたの』って聞くのも変だけど

ユキはとにかく大声で泣いてるだけで

何も教えてくれない

よく見たらユキの赤い靴が片方無いのに気づいた

いつもお出かけの時だけ履く綺麗なやつ

『靴どうしたの?なくしちゃったの?』

そしたら泣きながら田んぼの脇の小さな川を指差すんだ

きっとあそこで落っことしたんだろう


ユキの手を引いて小さな川の前まで行き

『ここで落としたの?』

って聞いたら

泣き声が一段と大きくなった

ボクはその川に入って靴を探したんだ

いつもなら膝くらいの高さまでしかなくて

よくザリガニとかフナとか探す場所

でもその日は雨で

太もも位まで水があった


もしかしたらどっかに引っかかってるかもしれない

そう思って必死で探した

『大丈夫だから、お兄ちゃんが絶対見つかるから』

そう言いながら 小さな川で小さな靴を探した

さっきまで泣いてたくせにって思うでしょ?

そう、自分でも不思議だった


探しながら下流の方へ進んでるうちに

ユキをほったらかしてることに気づいて

ハッとなって顔をあげた

もうずいぶん歩いてきたし

泣き声も気づけば聞こえなくなってる

もしかしたら…

そう思ったけど ユキは土手の上で

黙ってボクのことをジッと見てたんだ

いつのまにか泣き止んで

靴を探すボクをただジッと見てた


どのくらい歩いたんだろう

所々転びながら川を進んでいると

途中の岩と岩の間に小さな赤い靴を見つけた

流してしまわないようにゆっくり近づいて

そっと掬い上げる

間違いなく妹の靴の片方だった


急いで川を出てユキに駆け寄る

川から土手に上がる時にも転んだけど

今度は泣かなかったんだよ?

『ほら!あった!』

って言ったら 今までおとなしかったくせに

突然また泣き出したんだ

『いい子だから泣かないの!ちゃんと靴履きな』

そう言って靴を履かせてやって

なかなか歩き出さないから 手を引いて家まで歩いた

ボクだって泣きたかったよ

川の中をずっと歩いてたから体中ぐっしょりだし

お気に入りの靴だって真っ黒

でも妹のユキが泣いてるんだ

ボクが泣いたらダメだってそう思った


家の前まで行くと

玄関にお母さんが立ってるのが見えた

見つけたとたんにボクもユキも

それまでで1番大きい声で鳴きながら走り出した

2人してお母さんに飛びついた

『まぁまぁこんなに濡れて。寒いでしょ、すぐお風呂入ろうね。』

お母さん ボク ユキの靴探したんだよ

川の中をずっと歩いてさ

仮面ライダーの靴汚してごめんね

泥だらけでごめんね

でもボク本当に頑張ったんだ

言いたいことは沢山あったのに

泣くので精一杯で言葉なんか出せなかった


お風呂から上がったらお母さんが

『お兄ちゃん偉かったね。ずっとユキのお手て握って帰ってきたんだね。』

そう言ってよしよししてくれたんだ

なんか恥ずかしくて、でもすごく嬉しかった

きっとこれがお兄ちゃんなんだと思う


あの時は必死だったから気づかなかったけど

ボクはユキを護る為に一生懸命だったんだ

『お兄ちゃんなんだから』って言葉は嫌いだけど

やっぱりボクはお兄ちゃんなんだ


ねぇお母さん ボクちゃんとお兄ちゃんできてるよね。

もうほぼ実話に近いですw


物心ついた頃から妹がいて

ずっと『お兄ちゃんなんだから』って言葉が嫌いでした

でも、面倒見はすごい良かったんだとかw


『お兄ちゃんなんだから』って言葉は

嫌いと同じくらい好きだったのかも知れません。

頼られるのが好きだったのかな?

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