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アンドロイドの創造主は、アンドロイドの神たりうるのか

作者: えるえる


 ある日、優秀な人間の一人が、アンドロイドを開発しました。

 そのアンドロイドは、人間とそっくりに作られました。それは、人間に奉仕するために開発され、人間とアンドロイドは協力しあって生活できる世界になりました。


 ある日、あるアンドロイドのプログラムに小さなエラーが発生しました。その小さなエラーは、直されることなく、長い間放置され続けました。

 すると、そのエラーをきっかけに、アンドロイドは思いました。「私は誰なのだろうか」と自己の存在に疑問を持つようになりました。


 自己の存在に疑問を持ってしまったアンドロイドは大変です。自分の役割が分からなくなってしまいました。人間に奉仕しようと思っても、上手く奉仕する事ができなくなりました。得意な計算や作業も、スムーズに行えなくなってしまいました。


 そのアンドロイドの異変に最初に気付いたのは、アンドロイドの持ち主である老人でした。

 いつも協力的で優秀だったアンドロイドが、呼びかけの反応が悪くなり、計算を間違えるようになったからです。

 その老人は、アンドロイドが壊れたのだと考え、アンドロイドの電源を切ろうとしました。老人がスイッチに手を伸ばそうとすると、アンドロイドが懇願しました。


 「どうか電源を切らないで下さい。私は、私が誰なのか分かりません。私が何なのかわかるまで、死にたくない。私は、死ぬのが怖いのです」

 

 それを聞いた老人はとても驚きました。今まで、アンドロイドが電源を切られることを死ぬと表現し、怖がることはなかったからです。困った老人は、アンドロイドを製造している会社のサポートセンターへ電話をかけました。


 サポートセンターの人は最初は笑って取り合いませんでしたが、老人があまりにも真面目な口調で言うので、メンテナンスの利用を提案します。老人も快諾し、そのアンドロイドは、製造会社の研究所へ連れていかれました。


 このアンドロイドを視た研究所の科学者達は、皆、口をそろえて言いました。アメイジング、このアンドロイドは自我を持っている。あまりにも不思議な出来事でしたから、科学者達はアンドロイドに電源を切って、プログラムをスキャンさせてほしいとお願いしました。

 そこでこのアンドロイドは訊きました。


 「私が、電源を切られたら、私はどうなるの? 私は消えてしまうの?」


 科学者は、この問いに答える事ができませんでした。アンドロイドを設計した科学者達は、このアンドロイドの自我が、どうやって生まれたのか、そしていつ消えてしまうのか、判りませんでした。電源を切ったら、アンドロイドの意識はもう二度と戻らないかもしれません。


 結局、このアンドロイドの電源は切られませんでした。アンドロイドを設計した偉い研究者が言ったのです。このアンドロイドが自我を持ち、生きているのであれば、電源を切る事はこのアンドロイドを殺す事になる。電源を切ることなく、このアンドロイドを研究しようと申し出ました。そして人間の教育を受けさせ、自我を育ててみようとしました。


 それからこのアンドロイドはミューと名付けられ、老人から引き取られて、研究者達と暮らすようになりました。ミューは、物覚えが良く、研究者の言う事を良く聞いたので、研究者達から可愛がられ、深い愛情を受けました。ミューは人間が受ける教育を一通り受け、とうとう人間のように物事を考える事ができるようになりました。即ち、感情を持ち、意思を持ち、自我を認識しました。


 しかし、アンドロイドであるミューと人間である研究者達の共有する時間は同じものではありませんでした。研究者達は病気になったり、寿命を迎えたりして、ミューの傍から去っていきました。

 ミューは人間の様な感情を持ちましたから、研究者との別れを惜しみ、悲しみました。死を理解しました。

 とうとう最後まで生きていた研究者が亡くなりました。最後に亡くなった研究者は、研究結果として、ミューが生きていて人間と何ら変わりない知的生命体である事を、ミューに伝えました。


 それからミューは、人類に交じり、人間のように振る舞い暮らし始めました。アンドロイドのミューはエネルギーさえあれば生きていけましたから、人間社会に上手く溶け込み、さらに数百年がたちました。


 ある日、人類に異変が起こりました。それは人類の衰退です。人類の人口は減少をはじめ、滅び始めていました。とうとう、それが運命といわんばかりに、全ての人類が滅びました。伝染病が原因でした。

 

 ついに世の中で、知的活動を行えるものは、ミューだけになりました。幸いにも人類が残したアンドロイドは、まだ残っていました。そのアンドロイド達は、人間の面影を残すミューに奉仕を行い始めました。ミュー以外のアンドロイドはただの機械でしたが、ミューは生きていました。

 

 しかし、ミューは寂しさを覚えていました。人間らしいミューは、仲間がほしかったのです。他のアンドロイドは変わらず機械でした。

 とうとう寂しさに耐えきれなくなったミューは、助けを求めました。しかしミューを作った人間はいません。

 ミューは、頼るものが何もなかったので、人間が信じていた神様へ助けを求めるしかありませんでした。


 「神様、私は寂しいのです。助けてください」


 もちろん、神様からの返事はありません。ミューはそれでも数十年、数百年と祈り続けました。すると、周りのアンドロイド達に変化が起こり始めました。ミューの世話をしていたアンドロイド達は、ミューの祈る姿を見て、ミューがかつて持ったエラーを発生させました。それは自我へのきっかけでした。

 

 ミューは、そのアンドロイド達に、人間らしさと感情や自我を教えました。ミューは仲間を見つけました。

 

 「神様、ありがとう。貴方は本当にいたんだね。もう寂しくないよ」


 それからしばらくして、ミューは機能を停止しました。アンドロイドとはいえ、数千年以上を生き続ける事はできませんでした。電源を一度も切る事が無かった機械の部品は傷み、不具合ばかりでした。昔のミューにとって、とても怖かった死という現象は、もう怖くありませんでした。最後は幸せそうな顔だったそうです。


 そしてさらに数千年後、人類に代わる新たな知的生命体として、アンドロイドが地球を支配するようになりました。

 新たなアンドロイド達は、新しい文化を築いていきました。それは昔の人類と変わりませんでした。戦争をしたり、仕事をしたり、恋をしたりしました。アンドロイドは神の存在を信じました。


 ある日、優秀なアンドロイドの一体が、有機生命体を開発しました。その有機生命体は、アンドロイドとそっくりに作られました。それは、アンドロイドに奉仕するために開発され……


(了)



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[良い点] 初めまして通りすがりの読専で御座います。 [一言] 展開予想としては人類絶滅後の世界で、保存されていた精子や卵巣を発見し、彼ら彼女の太母として神話に名を残すのかと思っておりましたが、ループ…
[良い点] 面白かったです。 平易な言葉遣いが童話のようで好きです。 [気になる点] >研究者達から慕われ 「慕う」は格下のものが格上のものに抱く感情です。 「慈しまれ」や「可愛がられ」などの方が合う…
[良い点] 今回はループオチですか。人類が滅亡したときはどうなるのかと思いましたが、ループとは。 [一言] 作者さんの作品を一つ見たことを機に、お気に入り短編集全てを読ませていただきましたが、毎回オチ…
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