ネックカット
かなーりぐろいので注意
※エロ グロ(流血 切断 生々しい人体の反応の描写等)
瀬々谷 欒は動けない。
動けないというよりかは、一定の範囲から動き出せない。
狂った女「樺生 刹封」の手によって。
しかし、見回す限り空虚な空間にも、変化の兆しが見え始める。
セツトが持ち込む本が積み上げられ、やたら数多くあるぬいぐるみが散乱し、セツトが持ち込む衣装が飾られる様になった。
気は抜けないが落ち着けるこの限りある時間を過ごすのも悪くないと錯覚する。
が…。
そんな甘い現実は、微睡みから悪夢へと移り変わる。
【ネックカット】
女の叫びが聴こえる。
ただ、何を発することも叶わず「うぅー!」と叫んでいる。
布越しに…いや、考えれば「猿轡」をされてる様に聴こえていた。
空虚な空間に扉の開く音と、抵抗する声が反響し出す。
「せつと…?」
欒は呆気に取られた声を立てる。
重たげに地面へ身体を捨てられ、鈍く身体を弾いた女は服装から見るに「女子高生」だ。
刹封と同年代ぐらいの。
耳栓をされているのかこちらの声にも気づいていないし、猿轡をされてるせいでマトモに助けも呼べない。
困惑と畏怖に駆られ身を引く私に対し、刹封は気色の悪い笑みで一息ついていた。
「マドカ!さぁ!楽しい時間の開始ですよ!」
やたら息をあげながら此方に歩み寄る。
拒否をしても無意味な事は察していた、変に声を上げず、されるがままにする…。
それが上手く生き残る方法だと思っていたから。
牢の鍵が捻られ、金属が擦れ、いつも通りボタンが押され…鎖が落ちる。
促されるまま牢の外に出る。
女子高生は脚を、手を、拘束された状況を打開しようとただもがいている。
魚が水から打ち上げられて、跳ねているように、無抵抗に近い抵抗なのに。
様子を見ていれば、刹封はなんの脈絡もなしに木をカットする時に使う鋸を手渡ししてきた。
脳内では「鋸を持って何をするか?」と思考し出している、それは意味を持たないとしても…。
刹封はただその魔法をかけるだけで、甘い蜜を吸えることを察している。
一言「彼女の首を、切り落としてください」とだけ言う。
刹封は焦りを感じていた。
僅かな恐怖しか感じなくなったマドカ、その状況がとても不味かった。
美しくなってきてるのは順調、かつ快調だが己の欲を満たすには「恐怖に震えるマドカ」でなければいけない。
切なく感じ、また己の股を弄り息を漏らす。
マドカの震える指先、汚れを知り潤む瞳、心身共に疲れ切り憔悴しきった態度。
なにより…自分で手なずけ綺麗に着飾った人形、人形が苦痛を感じ、抵抗出来ずにいる事が堪らなく至高であった。
その情景に何があったか誰もが知る由もない、何故そこまでして快楽を追い求めるのか。
ただ何よりも、監視映像を見ながら腰をビクつかせる女が居た。
_首を切り落とせ。
首を傾げ「正気か?」と問いかける。
頭を力強く縦に振り、さも当然の如く刹封はワキワキとする。
魚のように跳ねていた女子高生は刹封に引き摺られる事によって、動きに更なる勢いを増した。
女子高生をこの手で戮す?
そんなことが出来るか?
思考が張り巡らされてゆく。
「大丈夫、首っていうのは思うより簡単に切れますよ」
くだらない、やる意味が無い。
金をスるだけならはやくと片付ければいい、その「行い」を楽しみたいならそれを1人で楽しめばいい。
…だが、この樺生刹封という女は、怖がる姿を楽しむ奴だ。
私が嫌がり、悲鳴をあげ、脱力し膝を肩を震わせる様を見物したい奴だ。
脳がゆっくりと事実の処理をしていく、刹封も微笑みながら震える肩を宥めている。
触るな、と言いたげな此方を遮って刹封はさも愉快そうに、こう告げる。
「畢竟、マドカは逃げられないんですよ、ねぇマドカ?」
耳朶に伝わる悪寒に身を凍らせ、怖々と、意識の定まらぬまま鋸の刃を睨みつける。
「いい子ですねマドカは、ゆっくりでいいんですよ、誰もマドカを責めたりしません、力を抜いて、目を凝らして…」
従うがままに女子高生の首に刃を当てがう。
「そう、力をしっかり込めて、刃が欠ける無いよう強く、迷いを捨ててください」
暗示、それは解っていた、けれど_。
「…せつ と」
刹封はやや訝しげに此方を見下す。
私の歯車が急速に動く。
朽壊しているにも関わらず、嬉しそうに声を上げる。
刹封は私を悟ってしまったのだろうか、次第に恐怖に瞳孔が開いてゆくのを感じた。
大きく鋸を振り上げ、力一杯に振り下ろす。
刹封に、見てもらうためだけに_。
【…キキッ】と、椅子が軋む。
ゆっくりと息を吐いて、過ぎる時間を余すことなく堪能する。
手が届く程の先に、今夜の夕食がある。
何時間も前に母が作ったものだ、とても美味しそうで、何時間もそこに置かれている。
母が言う。
「アンタの食事への感謝が足りないから、わざわざこんな事をしているのよ、刹封」
この何時間で何回何度聞き続けたのだろう。
「ごめんなさい」
既に憔悴しきった自分には関係ない、どうだっていい、耐えればいい。
そう考えた。
「ごめんなさいで謝るだけじゃ済まないの、豚肉には豚の命が宿ってるのよ、それをアンタは【いただきます】と【ごちそうさま】だけで済ませるわけ?」
これも何度聞いたか、イントネーションが少し変わったのを感じ取れる。
強く言いたいつもりなのだろうが発音が良すぎてどうでもよくなる。
「ひじきにはね、海藻の命が宿っているの、海藻だからってバカにしちゃいけないわ、母なる大地より広大な海で生きる命なのよ」
聞き飽きた、もう聞き飽きた、寝たら起こされる、眠れない。
明日は学校で何しよう_。
「だからねぇ、アンタには期待を持ってるからここまで付き合ってあげてるの、分かる?分からないならまた、説教するわよ」
「わかってます」
疲れた、ごはんなんてどうでもいい。
「せつと、見てて、やって、やってあげるから!」
振り下ろすと拍子、骨に【ガギュッ】と鈍い音が鳴る。
女子高生は様々なものを大概に排出していたが、一番大量に出していたのは血だった。
そして声。
ごぼごぼ、と流れ溢れ、無機質だった部屋を満たし波状を作る血液。
耳に触れて伝わる、【コヒューコヒュー】と煩い命の終わる音。
一思いにやれて、心が晴れ渡る気持ちを感じる、ここ数ヶ月の鬱蒼とした空気の中で得た新鮮な気持ち。
日の登る頃合いで吸う空気をいっぱいに詰める気持ちで、鉄とえぐみのある臭いを無視して深呼吸する。
刹封は傍ら、先程の欒の様に無様に虚空を見つめ恐れている。
2人は入れ替わってしまったように、立ち上がり見下す欒、へたりこみ何処を見ているかも解らない刹封。
マドカは笑う。
「セツト?マドカ、出来たよ?言われた通りにやったよ?」
続く。
まだ続くよ(書くことがない)