時系列不明の日
赤く滲む空とは反対に、昼には熱されたフライパンのようだったアスファルトは温度が下がりはじめる。そよ風に吹かれて溶け始めたアイスキャンディーの雫が指に流れた。ああ、夏だなあ。
高校生になって、最後の夏休み。帰宅部にだけ課せられた使命。ボランティア活動を終えて、コンビニに寄った友人を待つこと早十分。公園のブランコに座ってからの時間でもある。
「小春」
風が吹いた。
「待たせたかな」
待っていた人が来た様だ。ブランコから降りて私は立ち上がる。
「さっきから全然時間経ってないよ」
彼の黒い髪は沈んで行く太陽の光を背に、艶やかな天使の輪を際立たせる。
「そうか。じゃあ、本当に一緒に行くのか?」
心配そうに、複雑そうに彼の瞳が揺れている。
「行くよ。約束したよね」
「あんな所に自ら行きたがるなんてさ、馬鹿だよお前」
「一人なら行かないよ!湊が行くって言うから一緒に行くわけだからね」
私の決意を舐めないでほしいものだ、と彼、桃瀬湊を睨む。
…………これは私、桜庭小春のゆるっと夏休みのんびり生活のお話。
ではなく。
残酷で、非道な、生命を失う様なとても怖ろしい体験をしたあり得ない夏休み恐怖体験のお話だ。
しかし憐れで、痛ましく切ない、私と彼の、いろんな思い出をかき混ぜた、沢山の愛のお話でもある。
「行こう。二人で」
手を握って、離れない様に。離れ離れにならない様に、寄り添いあって赤い光に照らされる道を二人は進む。
きっと、大丈夫。