第31節 希望
過去編終了です。
マテリアルゼロ。
それは長き時を生きるオロチでさえも2回しか発動された例を聞いたことがない伝説に近い魔法である。
ビャットは1000年ほど前に人間達が古の戦争を行っていた時にたまたま目撃したのを思い出していた。
マテリアルゼロとは死者の魂を魔力として変換し、それと同数の生者の魂を道ずれに浄化させるという特性がある。
マテリアルが禁忌とされる所以は発動条件容易さとその残虐性に由来するものである。
もともとマテリアルはある魔法使いが最愛の従魔の死を嘆き、転生してもまた出会いたいために天界へ一緒に昇天したいと作った心中魔法である。
変換は魂を従魔と同じ魔の属性へ、保存は従魔の魂の昇天を防ぐために同時に織り込まれた。
その技術を魔法使い亡き後に古小屋から発見したある国が軍事利用のために利用したのだ。
しかし敵に対して同規模の死体を集めるなど戦争に向いていない代物であったために使用不可能な魔法として長らく封印されていた。
しかし1000年前当時の皇帝であったルウマの支持によって敵味方の死体から魂を抜き取り使用することによって殲滅魔法マテリアルとして誕生したのだ。
ビャットが目撃した時は1万ほどいた敵対国の兵士達が一瞬にして塵となり、消えていくところだった。
死者が魂を抜かれる場合は肉体が死んでいるため、死体は塵にはならない。
しかし生者から抜かれた魂は1箇所に収縮され、巨大な魔石として結晶化することによって、核を失った肉体は塵と化してしまうのである。
生者の魂によって作られた魔石は国を1000年潤すほどの力を内蔵している。
そう人間側の目的はこの魔石であった。
森への報復や魔物の素材などは副産物でしかないのだ。
「オロチ爺!なにか対策はないのですか!」
「うーむ術者を見つけて倒すしかないだろうのぉ」
「大丈夫よ!ジンライやロクヨウが向かってくれてるんでしょう?」
「うむあやつらならきっとやってくれるじゃろうよ」
オロチ達はそう言うとジンライとロクヨウに全てを託したのであった。
しかしこれが彼らの交わした最後の言葉になったのであった。
「マテリアルゼロ!!発動!!」
グランダ国騎士団長マグネスの一言により、森一帯を含む場所で力尽きていた者達の魂を動力にこの無慈悲な魔法は発動された。
ビャットは閃光で全くあたりが見えなくなっていた。
「うっ!なんだ……まさか!!」
それは一瞬の出来事だった眩い光があたりを照らし、光が止むとそこにはオロチもハクメもいなくなっていた。
それどころかあちらこちらで作業をしていた部下達の姿も見えなくなっていたのだ。
「みんな……どこに行ったんだ……?」
ビャットは重症の体を起こし、のらりくらりとあたりをさまよい始めた。
下級の魔物達は何体か確認することができたがそれ以外の魔獣達は一匹もいないのだ。
ビャットは嫌な汗をかくと人化を発動した。
(大きい体よりもこっちの方が動きやすいな……)
ビャットは激痛のある体を引きずるようにして1日かけ、ロクヨウ達が戦っていたと思われる場所についた。
もちろんそこには誰もいない。
ロクヨウの部下達がここで多くやられてしまったことだけが分かった。
驚くことに敵の姿もどこにも見えないのだ。
一瞬にして自分以外の全てのものがいなくなってしまった事実を再認識したビャットは大樹の根元でしゃがみ込むと体を休めるために眠りについた。
マテリアルゼロにはマグネスにも知らされていない事実があった。
それは道ずれにされる生者は戦闘力の高いものからという制約があることだ。
マグネスや騎士団、ロクヨウやジンライ、ロウ達はマテリアルゼロに対象に取られて結晶化してしまったことになる。
ビャットは深い眠りの中でその結論に至った。
なぜビャットだけが無事だったのか。
それは重症により限りなく戦闘力が低下していたことがあげられるだろう。
それによりマテリアルゼロの対象から外れたのだ。
次の日ビャットは誰かに起こされることにより目が覚めた。
「ビャット様!ビャット様!」
「ん……はっ!」
ビャットは飛び起きると自分の体を揺すっていた人間を弾き飛ばした。
「お前!人間か!なぜ私の名前を知っている!!」
ビャットがその人物を睨みつけるとその人物は慌てるように弁解してきた。
「ビャット様!俺ですよ!ヤトですよ!」
その人物はヤトと名乗ると本来の姿である漆黒の翼を持った姿へと変わった。
「ヤト!ヤトなのか!!」
ビャットはヤトの首元に掴まるとギュウっとすごい力で首を絞めた。
「ビャット様ぁ……死にます……話してください……」
「あーすまない……嬉しくてつい」
ビャットが舌を出しながら謝っている。
「ところでビャット様……これは一体どうゆうことなんですか?なにか戦闘があったのはわかるのですが……みんなはどこに……」
「……………………話すしかないな……」
ビャットはヤトにこれまであったことを全て伝えた。
「くそーーーー!俺がもっと早く戻っていれば……」
ヤトは再び人化すると拳を地面へと叩きつけた。
ビャットはフルフルと首を降るとヤトに優しく語りかけた。
「若い世代は時間の園に全員逃がしてあるわ……しかしオロチ様もいなくなってしまった以上連れ戻すことは出来ないの……」
「くそ!どうすれば……」
「だからね……これからあなたは旅に出なさい!もしかしたらこの世界のどこかで時覇闘を使える者がいるかもしれない!それをあなたは見つけるのよ!!」
ヤトはハッと顔をあげるとビャットの目を見た。
そこには自分でそれが出来ない無念さとヤトへの希望を抱いた瞳があったのだ。
ヤトはこの後ビャットと共に世界を回った。
数100年という月日が立ち半ばもう諦めていた頃にキリンザードとの約束を思い出し、深王の森へとやって来た。
そこでキリンザードに提案されたのは搭の主になって実力のあるものの挑戦を待つというものであった。
ビャットもそれに同意し、2人で搭の管理人をするに至った。
そこでヤトはまた数100年間その時が来るのを待っていたのだ。
そして今ヤトの目の前にはある少年?少女?が立っているのだ。
自分を負かせたこの少年に希望を見てヤトの物語は動き出す。
長らくありがとうございました。次回からまたカミトの物語です




