第21節 父は偉大なり。
今日の分です。少し短いですが間に合いました。
ヤトが深王の森から旅立つ頃……暗闇の森では……
ヤトにはラスという妹がいた。
白い綺麗な羽を持つ魔獣であった。
「お母さんお兄ちゃんまだ帰ってこないの?」
「戦いの日までは帰って来るわよ」
「もうちょっとだね!」
「一緒にお兄ちゃんの応援しましょうね」
「うん!お兄ちゃん強くなって帰って来るだろうね」
「そうよ。とても強くなって帰ってくるのでしょうね」
母は日々時が経つにつれ、ヤトの姿がヤト達の亡き父親に似てきていることがとても嬉しいと同時に不安でもあった。
ヤトがまだ中位魔獣だった頃、ある国の騎士団が森に進行をしてきた。
ヤトの父親を含む森の魔獣達は人間と真っ向から戦闘になった。
戦いは地の利をよることの出来た魔獣側に有利に進められていた。
ヤトは自分も力になれないかと人間達に向かって行った……が力不足で捕えられてしまった。
ヤト達一族の羽は魔法道具の素材として重宝されていたため優先して狩られたのだ。
人間側は多大の被害を出し、少量の魔獣だけを生け捕りに退却をして行った。
暗闇の森を人間が抜けた時、人間達を追いかけてくる1羽の魔獣がいた。
それがヤトの父親であるヤタだったのだ。
ヤタは羽に闇覇闘を纏わせると人間達と対面した。
暗闇の森を出た場所は開けた荒野のようになっており、ヤタは人間達の格好の的になった。
ヤタは人間達に遠距離魔法を打ち込まれながらもヤトを取り返すために近づいていった。
ヤト達が捕えられている檻の前まで来ると檻に覆いかぶさるように羽を広げた。
当然ヤタは人間の強襲を浴びた。
何回切りつけられても、魔法を打ち込まれても倒れないヤタ。
何分たっただろうか……ヤトにとって永遠にも感じられた時間はヤタが口を開いたことで終わりを告げた。
「ヤトよ。ラスや母さんを頼むぞ」
「父さん……」
力なく言うと檻に覆いかぶさっていたヤタの体が崩れ落ちた。
「父さん!父さん!」
ヤトが悲鳴にも近い声で叫んだ。
檻の外を見てみると暗闇の森の先代の主であるジンライが魔獣を率いてきていた。
人間達はヤト達を置いて退散していったみたいだ
。
ジンライが事切れたヤタの目の前に来ると一言「すまない」とだけ呟いた。
ヤトは「お前が遅いせいで……」や「なんでもっと早く……」なんて言葉は言わなかった。
ジンライの一言で全てを悟ったのだ。
ジンライはヤタの親友と呼べるような男だった。
ヤタは側近として使えていたため本来ならそばを離れるわけには行かなかったが、ヤトが捕えられたと聞くと、即職務を放り出して、救出に来たみたいだ。
ジンライはヤトに説明すると「お前の父親は偉大だった」と言ってくれた。
ヤトは父親の遺志を継ぎ家族と森を守っていこうと誓ったのだった。
その誓いに従いヤトは今度の主を決める戦いに参加するのだ。
ラスも父の死を克服し、ヤトを応援してくれていた。
「きっとお兄ちゃんは立派な主になれるよね!」
「当然なれるわよ!私とあの人の息子ですもの」
母は優しい目でラスに断言した。
ラスは希望に満ちた目でヤトの帰りを待っていたのだ。
しかし現実とは残酷なものだったのだ。
次の日、暗闇の森は再度人間に襲撃された。
ヤトが森に戻るまであと3日………




